桜は日本の春を代表する花であり「春の季語」です。
今回は、そんな「桜」に関するおすすめ有名俳句を50句紹介していきます。
日本の春を代表する花は、何といっても桜が一番。
咲く花の美しさは、いたるところで国花にふさわしい景観美をみせてくれます。ー森田洋子 著
四季と遊ぶ『アウトドアのすすめ』
日本教育センター刊行 pic.twitter.com/I2MzleYc24— 花音hanaoto (@ansermetsnow) April 12, 2015
お気に入りの俳句を見つけてみてね!
目次
「桜」に関連する季語について
桜に関連する季語は種類や桜の状態によって決められており、咲いている時間帯や葉の状態、桜の種類など多くの季語が存在します。
桜に関連する季語は多く、直接「桜」とは書かれないものの「花」という単語で桜を表すものも含めれば膨大な量になります。
ここでは、「桜」という単語を含む季語を季節ごとにいくつか紹介していきます。
【「桜」を含む季語一覧】
- 春…桜、初桜、山桜、枝垂桜/糸桜、遅桜、朝桜、夕桜、里桜、桜吹雪、桜海苔、桜草、桜貝、夜桜、彼岸桜、芝桜、落花/散る桜、八重桜、楊貴妃桜
- 夏…葉桜、葛桜、桜桃、桜桃、葉桜、実桜
- 秋…秋桜、桜紅葉
- 冬…冬桜、寒桜、桜鍋、緋寒桜
俳句を作る時の参考にしてみてね!
桜に関するおすすめ有名俳句【50選】
桜に関するおすすめ有名俳句【No.1〜10】
【NO.1】松尾芭蕉
『 初桜 折しもけふは 能日(よきひ)なり 』
季語:初桜(春)
意味:今年初の桜が咲いたなぁ。折しも今日はよい日になったものだ。
この句が詠まれたのは、作者たちが月例句会を開いた最初の日でした。初桜が咲くという絶好のタイミングだったため、縁起がいいと喜んでいます。
【NO.2】加賀千代女
『 けふまでの 日はけふ捨てて 初桜 』
季語:初桜(春)
意味:今日までの日は今日捨ててしまおう。初桜が咲いて桜の季節だ。
桜が咲いたことを契機に、咲く前までの日々から心機一転しようという決意の俳句です。「けふ」を繰り返すことで、新しい季節を楽しもうという感情がより強調されています。
【NO.3】日野草城
『 青空に ひと枝咲きぬ 初ざくら 』
季語:初ざくら(春)
意味:青空にひと枝だけ咲いている初桜よ。
現在でも桜の開花宣言は、一斉に咲いた時ではなく枝にいくつか花をつけた時に行われます。咲き始めのわずかな桜の花でも青空の下に映えている、写実的な俳句です。
【NO.4】松尾芭蕉
『 さまざまの 事思ひ出す さくらかな 』
季語:さくら(春)
意味:さまざまな昔のことを思い出す故郷の桜だなぁ。
この句が詠まれたのは、故郷である伊賀国でかつて芭蕉が仕えていた武士の息子が花見の宴を開いたときでした。20年以上前の過去のことを思い出しながら、しみじみと桜を見ている俳句です。
【NO.5】松尾芭蕉
『 木のもとに 汁も膾(なます)も 桜かな 』
季語:桜(春)
意味:満開の桜の木の下にいると、汁も膾料理も桜の花びらで埋まってしまうなぁ。
「汁も膾も」とは花見の宴会中の料理とも取れますが、当時の慣用句として「何もかも」という意味でもありました。宴会の様子を描写しつつ、何もかも桜の花びらにまみれてしまうほどの桜吹雪を描写しています。
【NO.6】与謝蕪村
『 馬下りて 高根のさくら 見付たり 』
季語:さくら(春)
意味:馬を下りると、山の高いところに咲いている桜をみつけた。
「高根」とは「高嶺」とも書き、山の高いところを意味します。そのほかにも「高根のさくら」とは「ミネザクラ」という高山に咲く桜を意味するため、作者がみつけたのはこの桜だったのかもしれません。
【NO.7】小林一茶
『 さくらさくらと 唄はれし老木哉 』
季語:さくら(春)
意味:これがかつてはさくらさくらと歌われて持て囃されていた老木であることか。
かつては多くの花をつけ、多くの花見客で賑わっただろう桜の老木を見ての一句です。「さくらさくらと唄はれて」という一節は長唄の「娘道成寺」に見られるため、長唄の一節を引用したのではないかと言われています。
【NO.8】小林一茶
『 茶屋むらの 一夜にわきし 桜かな 』
季語:桜(春)
意味:花見客目当ての茶屋村が一夜にして湧いたようにあらわれた桜の名所であることだ。
「茶屋むら」とは現在でいうお祭りの屋台村のようなもので、花見客にお茶や軽食を提供していました。そんな茶屋村が、桜が一晩で満開になったように一晩で賑わう様子を茶化しています。
【NO.9】正岡子規
『 木の間に 白きもの皆 桜哉 』
季語:桜(春)
意味:木の間に見える白いものはみんな桜の花であることだ。
遠くから桜の木々を眺めると、一つ一つの桜の花が白い塊のように見えます。この句でもなにか白いものが見えると目を凝らしたら、全て桜の花であったという感動を詠んでいます。
【NO.10】正岡子規
『 観音の 大悲の桜 咲きにけり 』
季語:桜(春)
意味:観音様の慈悲のような桜が咲いたことだ。
意訳としては観音を祀るお寺に桜が咲いた、という意味になります。この句のポイントは「大悲の桜」と表現することで、桜の花に信仰的な意味を持たせている点です。
桜に関するおすすめ有名俳句【No.11〜20】
【NO.11】高浜虚子
『 提灯は 恋の辻占 夕ざくら 』
季語:夕ざくら(春)
意味:提灯は恋の行方を占う辻占売りが持っている証だ。夕方の桜の咲いているこの道よ。
「辻占」とは夕方に十字路で行われる占いでしたが、江戸時代以降はおみくじのような紙を入れた煎餅などを売る「辻占売り」が出現しました。夕方のため、提灯などわかりやすいものを持っていているのが特徴です。花見客で賑わう雑踏の中で恋占いをしていたのでしょうか。
【NO.12】加賀千代女
『 眼をふさぐ 道もわすれて 桜かな 』
季語:桜(春)
意味:目の前をふさいでいる枝のある道も忘れて桜に見入っていたことだよ。
江戸時代は今の街路樹と違って枝が剪定されていることは稀だったでしょう。そのため、目の前をふさいでいる枝がある道であることも忘れて桜に見入ってしまったという桜への賞賛が際立ちます。
【NO.13】阿部みどり女
『 夜桜や 遠くに光る 潦(にわたずみ) 』
季語:夜桜(春)
意味:夜桜が咲いているなぁ。遠くに光っているのは雨が降って流れている水たまりだ。
「潦」とは「にわたずみ」と読み、雨が降った後に地上にたまって流れていく水のことを言います。そのことから、夜桜を見ているのが雨上がりであること、光って見えるほどの光源があることがわかる表現です。
【NO.14】高濱年尾
『 よき家に 泊り重ねて 朝桜 』
季語:朝桜(春)
意味:良くしてくれる家に何日も宿泊を重ねて見た朝の桜である。
朝一番の桜の花は、自宅の近くにない限りなかなか見られません。この句では友人の家なのか、宿泊先を「よき家」と例えているのかはわかりませんが、朝桜を見るために何日も泊まってもよいほど素晴らしいと称えています。
【NO.15】夏目漱石
『 松をもて 囲ひし谷の 桜かな 』
季語:桜(春)
意味:松でもって囲まれている谷の中に咲く桜であることだ。
この句は福岡県久留米市の発心公園に出かけた際の句です。戦前までのこの地域は松で囲まれており、作者の代表作の一つである『草枕』において山越えをする描写の参考にもなっています。
【NO.16】種田山頭火
『 さくら咲いて、なるほど日本の春で 』
季語:さくら(春)
意味:桜が満開になって、なるほどこれこそが日本の春であると実感する。
作者ならではの自由律俳句です。この時の作者は日本全国を旅して回る生活でしたが、桜が咲くとこれこそ日本の春であると感嘆してしまうほどウキウキとした気持ちが表れています。
【NO.17】山口草堂
『 さくら咲き 起居に目立つ 部屋の塵 』
季語:さくら(春)
意味:桜が咲いて、日常生活で部屋の塵が目立つようになった。
外の桜の花と部屋の中の塵という対比を詠んだ句です。春になって太陽の角度が変わり、部屋に光が差し込むことで舞う塵が目立つようになったとも解釈できます。
【NO.18】原石鼎
『 町並に 提灯かけし 桜かな 』
季語:桜(春)
意味:街並みのあちらこちらに提灯をかけて賑わう桜であることだ。
お花見やお祭りなど、桜が咲く季節には街が賑わうイベントが多くなります。冬の寒さから春の暖かさに変わり、色とりどりの花と提灯が見られる長閑な風景です。
【NO.19】細見綾子
『 桜咲き らんまんとして さびしかる 』
季語:桜(春)
意味:桜が咲いて、爛漫としているのにどこか寂しいのだ。
賑わっている雑踏の中でふと寂しさを感じる瞬間を切り取っています。桜が咲き乱れ、人々も多く出歩いている様子を「らんまんとして」という表現で表している一句です。
【NO.20】桂信子
『 日曜の 素顔の一家 朝桜 』
季語:朝桜(春)
意味:日曜日なので素顔で迎える一家と朝の桜である。
日曜日は出勤や通学がなく、普段着で朝を過ごすことも多いでしょう。そんな朝の団らんの風景に朝の桜が見える日常を切り取った一句です。
桜に関するおすすめ有名俳句【No.21〜30】
【NO.21】松尾芭蕉
『 うかれける 人や初瀬の 山桜 』
季語:山桜(春)
意味:浮かれている人が多くいる初瀬の山桜よ。
源俊頼の「うかりける 人を初瀬の 山颪(やまおろし) はげしかれとは いのらぬものを」という和歌を下地にしています。元の和歌では激しい風でしたが、こちらでは美しい山桜が咲いている様子に変わっているため、印象がかなり変わる句です。
【NO.22】与謝蕪村
『 暮んとす 春ををしほの 山ざくら 』
季語:山ざくら(春)
意味:暮れようとする春を惜しむ小塩山の山桜であることよ。
「をしほ」は「惜しむ」と京都にある「小塩山」を掛けた表現です。山桜は春の終わりに咲くため、暮れていく春を惜しむ心を同じ音の小塩山の山桜に託しています。
【NO.23】上島鬼貫
『 日よりよし 牛は野に寝て 山ざくら 』
季語:山ざくら(春)
意味:よい日和だ。牛は野に寝て山桜が咲いている。
のんびりと牛が昼寝をしているのどかな春の一コマを詠んだ句です。山桜が咲くあたたかな陽気の中でのんびりとしている様子が目に浮かびます。
【NO.24】正岡子規
『 三つまたや どの道行かば 山桜 』
季語:山桜(春)
意味:三又の道に出たなぁ。どの道を行けば山桜が見られるだろう。
行き当たりばったりで道を歩いているような描写のため、旅の途中に桜を求めて散歩をしている様子が浮かんできます。山桜は見えているのに目の前には三又の道で悩んでいる様子がユーモラスな一句です。
【NO.25】飯田蛇笏
『 折りとりし 花のしづくや 山桜 』
季語:山桜(春)
意味:折ってとったような花の雫のように咲くことだ。この山桜は。
山桜の咲く様子を花の雫に例えている面白い句です。「折りとりし」という表現から、ひと枝山桜の枝を折って家に飾っているのかもしれません。
【NO.26】山口青邨
『 雨ふれば 雫しきりや 山ざくら 』
季語:山ざくら(春)
意味:雨が降ると雫がしきりに落ちてくるなぁ、山桜の花は。
急に雨に降られて雨宿りをしていたのでしょうか。山桜の木の下に避難しても、花をつたって雫として落ちてきて困っている作者の様子が読み取れます。
【NO.27】杉田久女
『 垣間見を 許さぬこの扉 山桜 』
季語:山桜(春)
意味:どうにか外を垣間見ようとしてもこの扉が許してくれない、山桜が咲いているのに。
部屋の中から外を見ようとしてもどうしても扉の位置が邪魔しているのか、閉まっている扉を開けに行くのが億劫なのか、ユーモアのある句です。「許さぬこの扉」という言い回しから歯噛みしているような様子が見て取れます。
【NO.28】宝井其角
『 小坊主や 松にかくれて 山ざくら 』
季語:山ざくら(春)
意味:上野寛永寺で働く小坊主たちよ。松に隠れているが山桜が満開だ。
この句は「東叡山に遊ぶ」と前詞があります。東叡山とは上野の寛永寺のことで、小坊主が花見客の対応で忙しく動き回っている中で満開になっている山桜を楽しんでいる様子です。
【NO.29】飯田蛇笏
『 翠黛(すいたい)に 雲もあらせず 遅ざくら 』
季語:遅ざくら(春)
意味:緑に霞んで見える山、雲もない良い天気に咲く遅咲きの桜よ。
「翠黛」とは、緑に霞んで見える山の色のことです。若葉が生え揃い、緑色の空に雲ひとつない青空、初夏に近い陽気に咲く桜と写実的な一句になっています。
【NO.30】加賀千代女
『 影は滝 空は花なり 糸桜 』
季語:糸桜(春)
意味:影はまるで滝のようで、空を見上げると一面の花である。この糸桜は。
糸桜とはしだれ桜の一種で、影だけ見れば垂れた枝と花がまるで滝の影絵のように見えるでしょう。見上げれば満開の花が出迎える、とても美しい表現になっています。
桜に関するおすすめ有名俳句【No.31〜40】
【NO.31】松尾芭蕉
『 扇にて 酒くむ陰や ちる桜 』
季語:ちる桜(春)
意味:扇を広げて酒をくむ真似をしている木陰だなぁ。桜が散っていく。
扇を広げて酒を飲む仕草は、能などの芸能で行われる表現です。この句を詠んだときの作者は弟子とともに酒を飲んでいたため、酒の余興として能の真似ごとをしていたのでしょう。
【NO.32】小林一茶
『 散桜 肌着の汗を 吹せけり 』
季語:散桜(春)
意味:桜が散っていく。気温が上がって肌着に汗がしみこむようになってきた。
桜が散ると気温が上がり、初夏がやってきます。段々と夏に向かっていく様子を肌着と汗で表した面白い表現です。
【NO.33】石田波郷
『 散るさくら 空には夜の 雲愁ふ 』
季語:散るさくら(春)
意味:散っていく桜よ。見上げた夜空では憂うように雲が出ている。
散っていく桜を惜しむように夜空がくもっている風景を詠んだ句です。散る桜を惜しむ気持ちを雲に託しています。
【NO.34】西東山鬼
『 仰ぎ飲む ラムネが天露 さくら散る 』
季語:さくら散る(春)
意味:桜を仰いで飲むラムネの気泡がまるで霞んだ空に見える。仰いだ桜は散って花吹雪だ。
「天露」とは「霞んだ空」を意味します。ここではラムネをあおっているため、炭酸の気泡越しに見た空が霞んでいると解釈しました。
【NO.35】加賀千代女
『 葉桜や 鳥の朝寝も 目にたたず 』
季語:葉桜(夏)
意味:葉桜の季節になった。鳥が葉の影で朝まで寝ていても目立たない季節だなぁ。
桜の葉の影に隠れるようにして眠っている鳥を見て詠んだ句です。淡い色合いの桜の花の中では目立ってしまっても、濃い緑色の葉の中では鳥も目立たないことでしょう。
【NO.36】正岡子規
『 葉桜や その気になりゆく 奈良の京 』
季語:葉桜(夏)
意味:葉桜の季節になったなぁ。初夏の気になっていく奈良の都であることだ。
葉桜は初夏の象徴です。美しい桜の花が葉桜に変わったことで、桜であふれていた奈良の都も初夏になろうという気になったようだという擬人化した句になっています。
【NO.37】山口誓子
『 葉桜が つくれる蔭に 入らばやと 』
季語:葉桜(夏)
意味:葉桜が作った影に入りたいなと思ったものだ。
日差しが強く暑い日だったのか、日陰を求めている様子が伺えます。初夏は木々が葉をつけるためどの木陰でも良かったのでしょうが、少し前までの美しい桜の花を思い出したのか、桜の木の下を選んでいます。
【NO.38】星野立子
『 葉桜の 影ひろがり来 深まり来 』
季語:葉桜(夏)
意味:葉桜の影が広がって来て、深まって来たことだ。
「来」が2回繰り返されていることで、どんどん葉が広がって影が大きくなっていく様子を描写しています。影が深まっていくことから、太陽が春の柔らかな印象の日差しから夏の強い日差しへと変わっていく様子と合わせて、技巧的な一句です。
【NO.39】角川春樹
『 つくづくと 淋しき木なり 冬桜 』
季語:冬桜(冬)
意味:つくづく淋しい木であるなぁ。冬に咲く桜は。
春に咲く桜は桜の花以外にも、菜の花やチューリップなど多くの花と共に咲きます。また、お花見などで鑑賞する人も多いでしょう。しかし、冬に咲く桜はただぽつんと咲き、鑑賞する人もいません。そんな淋しい様子を「つくづくと」という表現が強調しています。
【NO.40】水原秋桜子
『 灯は消えて 月のみのこる 寒桜 』
季語:寒桜(冬)
意味:家の灯りが消えて、月だけが残るところに咲いている寒桜よ。
冬は日が落ちるのが早く、この句が詠まれた当時は消灯する時間も早い家庭が多い時代でした。華やかなお祭りの桜ではなく、月の光だけが光源となって見えている寒桜の美しさと寂しさを詠んでいます。
桜に関するおすすめ有名俳句【No.41〜50】
【NO.41】富安風生
『 まさをなる 空よりしだれ ざくらかな 』
季語:しだれざくら(春)
意味:真っ青な空からしだれ桜の花が垂れてくる。
しだれ桜の真下から青い空を眺めた時の一句です。空から桜の花が垂れ下がってくるような美しさを素直に詠んでいます。
【NO.42】村上鬼城
『 ゆさゆさと 大枝ゆるる 桜かな 』
季語:桜(春)
意味:ゆさゆさと大きい枝が揺れる桜であることだ。
風で桜の枝が揺れたのか、鳥などがいて桜の枝が揺らされたのか、どちらでも想像できる句です。花をつけた大きな枝がゆっくりと揺れるさまは見応えがあったことでしょう。
【NO.43】細見綾子
『 葉桜の 下帰り来て 魚に塩 』
季語:葉桜(夏)
意味:すっかり葉桜になった桜の木の下を帰って来て、下ごしらえとして魚に塩を振った。
お花見などのイベントごとが多かった開花日から、葉桜になるまで時間が経っています。何事もなく日常に戻っていく様子が「魚に塩」という料理の下準備から伝わってくる句です。
【NO.44】杉田久女
『 風に落つ 楊貴妃桜 房のまま 』
季語:落つ楊貴妃桜/落花(春)
意味:風に落ちた楊貴妃桜は房のままだ。
「楊貴妃桜」とは八重桜の一種です。この句では花びらが散るのではなく花の房ごと落ちている様子に、名前の元となった楊貴妃の気高さを感じています。
【NO.45】小西来山
『 見返れば 寒し日暮の 山桜 』
季語:山桜(春)
意味:見返れば寒いなぁ、日暮れの山桜よ。
桜が咲いて春だと思っていても、日暮れの時間帯は寒くなることが多いものです。ふと夕日に照らされる山桜を見返して見ると、まだ寒いなぁとしみじみ感じています。
【NO.46】後藤夜半
『 夜櫻の ぼんぼりの字の 粟おこし 』
季語:夜櫻(春)
意味:夜桜見物に出ているぼんぼりの字には「粟おこし」と書かれている。
夜桜見物に出てくる店やお土産品の文字の中で、「粟おこし」が一際作者の目を引いたのでしょう。粟おこしとは大阪の名物で、砕いた米を水飴で固めたものです。
【NO.47】坪内稔典
『 一日の どこにも桜と ハイヒール 』
季語:桜(春)
意味:一日のどこを見ても桜とハイヒールがある。
終戦後しばらくして、女性たちのファッションにハイヒールが当たり前になった頃の一句です、桜がどこにでも咲いているように、女性はみんなハイヒールだなぁと感じています。
【NO.48】鷹羽狩行
『 一本も なし南朝を 知る桜 』
季語:桜(春)
意味:1本も無いんだな、かつて南朝があった頃を知る桜は。
「南朝」とは14世紀頃に朝廷が分裂した南北朝時代の南朝です。600年前の出来事なので、ここに咲く桜は当時のことを知らないのだとしみじみとしています。
【NO.49】水原秋桜子
『 山桜 雪嶺天に 声もなし 』
季語:山桜(春)
意味:山桜が咲いている。見上げれば雪の峰が続き、その上に広がる天に声も出ない。
地上に咲いている山桜から視点を上げて、まだ雪の残る山、青い空とどんどんスケールが大きくなっていく一句です。桜の淡いピンク、雪の白、空の青と美しい風景に声も出ない作者の感動が伝わってきます。
【NO.50】飴山實
『 奥山の 風はさくらの 声ならむ 』
季語:さくら(春)
意味:奥山の風は桜の声なのだろう。
「奥山」に桜が多く咲いているのでしょう。そちらの方から来る風の音を桜の声に例えている風流な一句です。
以上、桜に関するおすすめ有名俳句集でした!
今回は、桜をテーマにした有名俳句を50句紹介しました。
「桜」という季語は花や葉そのものを詠まれる以外にも、心情や自分自身を例えて詠まれるなど、多彩な表現がされる季語です。
桜の樹を見かけたら、ぜひその時に感じたことを詠んでみてください!