古来からの伝統的な日本の文芸であり、今なお進化を続けている「俳句」。
俳句と聞けば与謝蕪村の句を思い浮かべる方も少なくないでしょう。
今回は数ある名句の中でも「斧入れて香におどろくや冬立木」という与謝蕪村の句をご紹介します。
斧入れて 香におどろくや 冬木立(与謝蕪村) #俳句 pic.twitter.com/BWEwedZWLx
— iTo (@itoudoor) January 18, 2014
本記事では、「斧入れて香におどろくや冬立木」の季語や意味・表現技法・作者などについて徹底解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
「斧入れて香におどろくや冬木立」の作者や季語・意味
斧入れて 香におどろくや 冬木立
(読み方:をのいれて かにおどろくや ふゆこだち)
こちらの句の作者は「与謝蕪村」です。
与謝蕪村は、江戸時代の中期に活躍した俳人です。俳句を添えた俳画と呼ばれる絵をかく画家でもありました。
季語
この句の季語は「冬木立(ふゆこだち)」、季節は「冬」です。
「冬木立」とは、冬の落葉した木々のことを指します。
意味
こちらの句を現代語訳すると・・・
「斧で切りつけてみると、冬で枯れているように見える木でも、鮮烈な香りが立ち、驚かされることだ。」
という意味になります。
この句が生まれた背景
こちらの句は、与謝蕪村が明和年間(1764年~1772年)の終わりころに詠んだ句とされています。
「秋しぐれ」という俳書に所収されている句になります。
与謝蕪村は「樵夫伐木図」といって、きこりが木を切る様子を描いた絵も何点か残しています。
この句にも絵画的なひらめきがあったのかもしれません。
「斧入れて香におどろくや冬木立」の表現技法
こちらの句で用いられている表現技法は・・・
- 切れ字「や」(二句切れ)
- 倒置法
- 「冬木立」の体言止め
になります。
切れ字「や」(二句切れ)
俳句では、作者の感動・詠嘆を表す「かな」「や」「けり」などの言葉を切れ字と呼びます。
この句では、「香におどろくや」の「や」が切れ字に当たります。
木の香りにはっとしたその感動を句に込めたことが分かります。
また、この句において切れ字は二句目に使われており、ここで一旦句が切れていますので「二句切れ」の句となります。
倒置法
倒置法とは、本来の言葉の順番をあえて入れ替えて逆にして、印象を強めたり、余韻を残す表現技法のことです。
この句は、普通の言葉の順番にすると、「斧入れて 冬木立(の)香におどろくや」となります。
しかし、今回の句のように「冬木立」を後ろに持ってくることで、余韻を持たせ、作者の感じた驚きをより強く伝えようとしています。
「冬木立」の体言止め
体言止めとは、句の終わりを体言、名詞で止めることで、余韻を残す表現技法のことです。
この句は「冬木立」で終わる体言止めの句です。
一見では生きている気配がなさそうな「冬木立」が、生あるもののエネルギーを秘めていたことに対する感動を印象的に伝えようとしています。
「斧入れて香におどろくや冬木立」の鑑賞文
【斧入れて香におどろくや冬木立】は、冬の木にひそむエネルギーに対する感動を詠んだ句です。
作者は、生活で使う薪でも取りに冬木立に斧をもって分け入ったものでしょうか。
枯れ木のように見える木に斧を一度ではなく、二度、三度と打ち付けるうちに、すがすがしい木の香りが立ち上ったのに気が付いたのでしょう。
斧で切りつけて香りが立つというのは、木が生きているからです。
現代に生きる私たちは、生活の中で斧を木に打ちつけることはあまりありません。
木の香りといって思い浮かぶのは、新築の木造の家の香りや、新品の木製品などでしょうか。
しかし、生きている生の木から立ち上る香りは、新築の家のような香りとは違った生々しさ、命のエネルギーに満ちています。
この句で作者が感じているのは、そんな生きた香りです。
冬枯れに見える木立も、やがて来る春には芽を吹き、緑で覆われるのでしょう。日々の生活の中で得た気づき、驚きを素直に詠んだ句と言えます。
作者「与謝蕪村」の生涯を簡単にご紹介!
(与謝蕪村 出典:Wikipedia)
与謝蕪村、本名は谷口信章と言われています。生まれは享保元年(1716年)、没年は天明3年(1784年)です。
摂津国、現在の大阪府の生まれです。どのように成長したのか、詳しい記録はありませんが、江戸で20歳くらいのころから俳諧を学んだようです。
江戸時代前期に芸術性の高い句を多く詠んだ松尾芭蕉にあこがれていたと言われます。写実的で絵画のような俳諧を得意とし、また、句を書き添えた絵、俳画を始めたのも与謝蕪村です。俳諧は師について学んだようですが、絵画については独学であっただろうと言われています。
45歳のころ、遅い結婚をして一人娘を設けたようです。
明治時代、近代詩歌の礎を築いた正岡子規は、松尾芭蕉や与謝蕪村を高く評価したことが、今でも有名な俳人として語られる契機となりました。
与謝蕪村のそのほかの俳句
(与謝蕪村の生誕地・句碑 出典:Wikipedia)
- 夕立や草葉をつかむむら雀
- 鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな
- 花いばら故郷の路に似たるかな
- さみだれや大河を前に家二軒
- 菜の花や月は東に日は西に
- 笛の音に波もよりくる須磨の秋
- 涼しさや鐘をはなるゝかねの声
- 稲妻や波もてゆへる秋津しま
- 不二ひとつうづみのこして若葉かな
- 春の海終日(ひねもす)のたりのたりかな
- 御火焚や霜うつくしき京の町
- 寒月や門なき寺の天高し
- 古庭に茶筌花さく椿かな
- ちりて後おもかげにたつぼたん哉
- あま酒の地獄もちかし箱根山
- 夏河を越すうれしさよ手に草履
- ゆく春やおもたき琵琶の抱心