【寺田寅彦の有名俳句 20選】天才物理学者&俳人!!俳句の特徴や人物像・代表作など徹底解説!

 

俳句は五七五の韻律を持つ十七音の詩で、季語を詠むことによってさまざまな季節の風景を表します。

 

江戸時代に始まった俳句は明治から大正にかけてさまざまな作風が生まれました。

 

今回は、明治から大正にかけて活躍した「寺田寅彦(てらだ とらひこ」の有名俳句を20句紹介します。

 

 

俳句仙人
ぜひ参考にしてください。

 

寺田寅彦の人物像や作風

(寺田寅彦 出典:Wikipedia)

 

寺田寅彦(てらだ とらひこ)は、1878年(明治11年)に現在の東京都千代田区に生まれました。

 

寅彦は幼い頃に高知県に転居し、熊本の第五高等学校に進学。この際に英語教師の「夏目漱石」と物理学の教師の「田丸卓郎」に影響を受け、文学と科学に興味を持ちます。

 

寅彦は夏目漱石の門下としては最古参でしたが、科学や西洋美術など漱石の専門外の分野に詳しく、漱石とは対等の友人と見なされていたようです。高校時代にはともに俳句結社を結成しています。

 

その後、寅彦は大学に進学。地球物理学を学び、X線と結晶の研究のほかに金平糖の角の研究など「かたちの物理学」を研究しました。

 

また、1923年の関東大震災を調査した研究者の1人としても知られており、地震研究所にも所属しています。1922年からは「吉田冬彦」の名で多くの随筆を残していますが、1935年(昭和10年)に亡くなりました。

 

 

寺田寅彦は最先端の物理学と人文科学を融合させた随筆を多く残しています。俳句論では「俳句はカッテングやモンタージュの芸術である」と残しています。

 

また、寺田寅彦の作品は、夏目漱石が持つ「扇の要のような集中点から拡散するように空想が広がる世界」も踏襲していると言われています。

 

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寺田寅彦は物理学者として有名で、「天災は忘れた頃にやって来る」という言葉を残したと言われています。随筆のほかに俳句もたしなみ、夏目漱石と親しかった人物です。

 

寺田寅彦の有名俳句・代表作【20選】

 

【NO.1】

『 妹(いも)がかぶる 手拭白し 苗代田 』

季語:苗代田(春)

意味:妻がかぶっている手ぬぐいが白く目立っている苗代田の風景だ。

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「妹」とは男性の立場で妻や恋人を表す呼び方です。田植え前の緑の苗代に青い空、白い手ぬぐいと絵画のように美しい色彩が描写されています。

【NO.2】

『 三毛よ今 帰つたぞ門の 月朧 』

季語:月朧(春)

意味:三毛猫よ、今帰ったぞ。門の外には朧月が出ている。

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飼っていた三毛猫が玄関まで迎えに来てくれている微笑ましい風景が浮かんできます。朧月が昇るほど遅くまで仕事をしていた作者にとって嬉しい出迎えだったのでしょう。

【NO.3】

『 文鳥や 籠白金に 光る風 』

季語:光る風(春)

意味:文鳥が入っている籠に初夏の風が吹くと、まるで白金に光っているように見える。

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実際に日が当たって光っているように見える解釈と、「風光る」という季語の表現を比喩として使用している解釈があります。季語を現象としてとらえている作者ならではの一句です。

【NO.4】

『 煙草屋の 娘うつくしき 柳かな 』

季語:柳(春)

意味:煙草屋の娘が美しく見える柳の季節であることだ。

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煙草屋の娘を柔らかな枝葉の柳に例えています。昔の流行歌にも煙草屋の美しい娘が歌われているものがあり、美しいものの象徴になっていたのかもしれません。

【NO.5】

『 早乙女の 日足を見るや 笠の内 』

季語:早乙女(夏)

意味:早乙女たちの傘の隙間から太陽の光が見えるなぁ。

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「早乙女」とは田植えの日に苗を植える女性で、傘をかぶっているのが一般的です。その傘の網目の隙間から太陽の光がもれている一瞬の風景を詠んでいます。

【NO.6】

『 炎天や 裏町通る 薬売 』

季語:炎天(夏)

意味:炎天下の日だ。日当たりのいい場所を避けて思わず裏通りを通っている薬売りがいる。

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表通りは店が多く、日除けが少ない通りだったのでしょう。あまりの暑さに商売よりも涼しさを優先している薬売りの姿を詠んだ現在の営業職の人達にも通じる一句です。

【NO.7】

『 雲の峯 見る見る雲を 吐かんとす 』

季語:雲の峯(夏)

意味:雲の峰が見る見るうちに雲を吐き出そうとしている。

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「雲の峯」とは入道雲のことです。もくもくと広がっていく入道雲がまるで雲を生み出して吐き出しているように見えています。

【NO.8】

『 薫風や 玉を磨けば おのづから 』

季語:薫風(夏)

意味:薫風が吹いてくる。玉を磨けば自ら光っていくものだ。

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この句は禅語の「薫風自南来」と中国の古い詩にある「白珪尚可磨」を組み合わせた俳句です。完全無欠な玉もなお磨いた方が良いという意味で、常に向上を目指そうという決意の一句でもあります。

【NO.9】

『 昼顔や レールさびたる 旧線路 』

季語:昼顔(夏)

意味:昼顔の花が咲いている。レールが錆びているこの誰も見ることこのない旧線路に。

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廃線となった線路跡に昼顔が繁殖し、美しく花を咲かせています。もう見るものもいなくなった寂しさが「レールさびたる」から伝わってくる句です。

【NO.10】

『 涼しさの 心太(ところてん)とや 凝りけらし 』

季語:心太(夏)

意味:涼しさを集めて凝縮させるとところてんになるのだろう。

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ところてんの涼やかな見た目とつるんとした美味しさに、涼しさを感じている様子を詠んでいます。「凝りけらし」と涼しさを凝縮させているところが面白い表現です。

 

【NO.11】

『 客観のコーヒー 主観の新酒哉 』

季語:新酒(秋)

意味:コーヒーは客観的なもの、新酒は主観的なものであるなぁ。

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この句はコーヒーと新酒の対比と、客観と主観の対比という人文科学と物理学に堪能だった作者らしい対比をしている句です。コーヒーはカフェインにより頭が冴え渡りますが、酒は酩酊感をもたらすため主観としたのでしょう。

【NO.12】

『 曼珠沙華二三本 馬頭観世音 』

季語:曼珠沙華(秋)

意味:曼珠沙華が二、三本、罵倒観世音像の傍に咲いている。

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全て漢字で表現されているため、まるで漢詩の世界のようなおもむきを感じる一句です。群生ではなく二三本というところに絵画のような美しさを感じます。

【NO.13】

『 柿渋し あはうと鳴いて 鴉去る 』

季語:柿(秋)

意味:食べた柿が渋かったのだろう。あほうと鳴いてカラスが去っていく。

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柿は外見では渋柿か甘い柿か判別がつきません。カラスは「カァカァ」という鳴き声を使用することが多いですが、面白い鳴き方にしているのがユーモアあふれる一句です。

【NO.14】

『 粟(あわ)一粒 秋三界を 蔵しけり 』

季語:粟(秋)

意味:アワの一粒に三界の全てが詰まっているのだ。

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この句は「栗(くり)一粒」という誤植の結果の句が有名になっているめずらしい俳句です。小さな粟の一粒に全てが詰まっているという仏教思想のような一句ですが、クリと取ると秋の味覚が詰まっているという意味に見えてくる面白い誤植になっています。

【NO.15】

『 先生の 銭かぞへゐる 霜夜かな 』

季語:霜夜(冬)

意味:教師をしている私が小銭を数えているほど貧しい霜が降りる夜だ。

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作者は教員生活を送っていましたが、決して裕福というわけではありませんでした。先生と呼ばれていながら夜中にお金を数えている自分自身を自嘲しています。

【NO.16】

『 哲学も 科学も寒き 嚔(くさめ)哉 』

季語:嚔(冬)

意味:哲学も科学も寒くてするクシャミのようなものだなぁ。

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文学と科学に精通していた作者の代表句です。科学は元々哲学的な考えから発生していて、どちらも寒いと出てしまうクシャミのように伝播していくようなものだと詠んでいます。

【NO.17】

『 しべりあの 雪の奥から 吹く風か 』

季語:雪(冬)

意味:この北風は、シベリアの雪の奥から吹いてくる風だろうか。

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北風の寒さを「しべりあ」という地名で想像させている句です。風はどこから吹いてくるのだろうという作者の地球物理学への想いとも読み取れます。

【NO.18】

『 冬川や 朽ちて渡さぬ 橋長し 』

季語:冬川(冬)

意味:冬の川だ。朽ちてしまって人を渡さない長い橋がかかっている。

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人の往来が途絶えた廃道などでは現在も朽ちた橋がかかっている事がありますが、現在ではあまり見ない光景になっています。木造の耐震性の低いかつての橋は容易に災害で落ちてしまい、冬という季節もあいまって侘しさを感じさせる句です。

【NO.19】

『 藁屋根に 鶏鳴く柿の 落葉かな 』

季語:柿落葉(冬)

意味:藁葺きの屋根に鶏が鳴き、柿の葉が落ちてくる冬の日であることだ。

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作者は俳句を「モンタージュの芸術」と語っています。「藁屋根」「鶏」「柿落葉」という古き良き日本の風景を思い起こさせる単語が詠まれています。

【NO.20】

『 徒に(いたずらに) 凍る硯の 水悲し 』

季語:凍る(冬)

意味:せっかく墨をすろうとしたのに、無駄になってしまったように凍った硯の水を見ていると悲しいことだ。

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「徒に」とは無駄に、わけもなく、といった意味です。墨をすろうとして水を入れたまま忘れてしまい、翌朝になって硯の中で凍っている水を見たときの感情を詠んでいます。

以上、寺田寅彦の有名俳句20選でした!

 

 

 

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今回は、寺田寅彦の作風や人物像、有名俳句を20句ご紹介しました。

物理学と文学を両立、融合させた稀有な感覚の持ち主であった寺田寅彦の世界観は、現在でも「寺田物理学」として語り継がれているほど有名です。
同時代に活躍した俳人たちとは少し違った視点から俳句を詠んでいるので、ぜひ読み比べてみてください。