「春雨」とは「春の雨」とも詠まれ、春に降る細やかな雨を意味する季語です。
「春雨」は春を通して使用することができる「三春」という区分になります。冬の冷たい雨から一転、暖かな空気の中で降る雨は、春の訪れを告げるやわらかい印象です。
今回は、そんな「春雨」をテーマにしたオススメ俳句を30句紹介していきます。
「春雨や こうべを垂れる 黄水仙」(萬衛門)
俳句では、陰暦正月から三月初旬に降る雨を
「春の雨」と言い、それ以降の雨を「春雨」と言う。「不精さや かき起こされし 春の雨」(芭蕉)
「雛見世の 灯を引くころや 春の雨」(蕪村) pic.twitter.com/Hi53unG31F— 萬衛門 (@man_e_mon) March 26, 2014
「春雨」を季語に使った有名俳句【15選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 春雨や 蓑(みの)吹きかへす 川柳(かわやなぎ) 』
季語:春雨(春)
意味:春雨だ。まるで旅人の蓑を吹き返すような風が川のそばの柳にも吹いている。
強風を伴う春雨が、旅人の蓑を吹き返す、川沿いの柳の木の枝を揺らすと2つの風の作用を詠むことによって、一層感じ取りやすくなっている句です。
【NO.2】松尾芭蕉
『 春雨や 蜂の巣つたふ 屋根の漏り 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が静かに降っていることだ。去年の夏にできた蜂の巣を伝って傷んだ屋根から雨漏りがする。
下地に新古今和歌集の短歌があり、「つくづくと 春のながめの 寂しきは しのぶにつたふ 軒の玉水」の「しのぶ」を「蜂の巣」と詠み変えているのがこの句の面白いところです。春雨の静けさと寂しさを歌いつつ、雨水が伝う理由を去年の蜂の巣とすることで、ユーモアある一句になっています。
【NO.3】与謝蕪村
『 春雨や ものがたりゆく 簑と傘 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降ってきた。1人は蓑、1人は傘を身につけた人たちが何か話しながら歩いていく。
今でいうレインコートの蓑と傘をそれぞれ身につけた人という対比が面白い句です。冬の冷たい雨でも、夏の激しい雨でもなく、暖かく細かい春雨だからこそ、のんびりと話をし続けていられるのでしょう。
【NO.4】与謝蕪村
『 春雨や いさよふ月の 海半(なかば) 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っている。月は海から顔を出しているが、まるで海の中をたゆたっているようだ。
月が完全に顔を出しておらず、また春雨が降っているため朧月の状態となり、より一層海の中でたゆたっている情景を詠んでいる幻想的な句です。数十分もすれば月は天に上がりますが、月の出の一瞬をとらえています。
【NO.5】小林一茶
『 春雨や 窓も一人に 一つずつ 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降ってきた。窓の外を眺めようと、一人一つずつのように覗き込む顔が並んでいる。
子供たちでしょうか、一つの窓に一人ずつ顔が覗いている様子を詠んだ句です。一茶らしいユーモアあふれる句で、春を迎えた楽しさと喜びがあふれています。
【NO.6】小林一茶
『 春雨や 猫に踊を 教える子 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っているなぁ。家の中では、猫に踊りを教える子がいる。
一茶の有名な俳句です。雨が降ってきたので、外で遊ぶのをやめた子供が猫の手を握り、躍らせるように動かしています。猫は慣れているのか、まるで教えられているように好きにさせている猫と子供ののどかな風景です。
【NO.7】正岡子規
『 鶯(うぐいす)の 湯殿のぞくや 春の雨 』
季語:春の雨(春)
意味:鶯が雨宿りにきたのだろうか、湯殿を覗いているよ。春の雨が降っている。
湯殿とはお風呂場のことで、軒先に雨宿りにきた鶯が風呂の窓から見えたのでしょう。まるで鶯が自分を覗きに来たかのようなユーモアのある句になっています。
【NO.8】高浜虚子
『 春雨や 音滋き(しげき)中 今我あり 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っている。草木が茂り、雨音があふれている中に、今私は立っているのだ。
「滋き」とは草木が茂る様子、うるおっている様子、ものが多い様子を表します。この句は、春雨によってうるおう土や茂り始めた草木、増えていく雨音と多くのものが「滋き」という言葉にかかる見事な一句です。
【NO.9】夏目漱石
『 草双紙 探す土蔵や 春の雨 』
季語:春の雨(春)
意味:(江戸時代の)草双紙を探す土蔵にいると、春の雨が降ってきた。
草双紙とは江戸時代後期の挿絵入りの小説のことです。土蔵の中は湿気や雨対策がされているはずですが、それでも吹き込んでくる風から春の雨の気配を感じ取る、のどかで春らしい句になっています。
【NO.10】星野立子
『 ひらきたる 春雨傘を 右肩に 』
季語:春雨(春)
意味:春雨なので、少し濡れてもかまわないと開いた傘を、少し右肩に傾けてさす。
「ひらきたる春雨」と倒置を使用した句で、春雨ではなく傘に焦点をあてています。春の暖かい雨なので、少し濡れても構わないと傘を傾けて周りを見ながら歩いている様子が目に浮かぶ句です。
【NO.11】高浜虚子
『 春雨の かくまで暗く なるものか 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降ると、こんなにも暗くなるものなのか。
昼でも雨が降って暗くなっている様子を詠んでいます。「かくまで」という表現がこんなに暗くなるのかという驚きを表している一句です。
【NO.12】富安風生
『 岩かげの 落葉は濡れず 春の雨 』
季語:春の雨(春)
意味:岩陰に落ちている葉っぱは濡れていない春の雨だ。
降りしきる春雨と、岩陰に隠れるように落ちている葉を詠んだ絵画のような一句です。岩がせり出しているのか、雨宿りをするように葉が濡れるのを免れています。
【NO.13】日野草城
『 春の雨 ひびけりいつの 寝覚(ねざめ)にも 』
季語:春の雨(春)
意味:春の雨の音は響くものだ、いつの寝覚めにも。
「寝覚め」とは眠りが覚めることを意味するため、春の朝の様子を詠んでいます。雨の音が響くことで、「春眠暁を覚えず」と言えど起きてしまう様子を嘆いた一句です。
【NO.14】原石鼎
『 のぼらずて 見る頂や 春の雨 』
季語:春の雨(春)
意味:登らないで下から見上げる山頂だ。春の雨が降っている。
登山をする予定が雨で中止になったのか、たまたま山頂が見える場所を通りかかったのか、どちらでも解釈できる句です。暖かな春の雨で煙る山頂を見上げています。
【NO.15】中村汀女
『 春雨の 三時も過ぎぬ 四時近き 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降って、三時が過ぎて四時近くになった。
この句では午前と午後の区別がされていないため、昼なのか朝方なのかわかりません。しかし、のどかな午後の雨を眺めていたらいつの間にか夕方近くなっていたという解釈がしっくりきます。
「春雨」を季語に使った一般俳句作品【15選】
【NO.1】
『 春雨や 書かねば俳句 消えて行く 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降ってきた。今浮かんだ俳句を書かないと着想が消えていってしまう。
今まさに思いついた一句を書き留めようとしている心情です。ふと思いついたことはすぐに書き留めておかないと、時間が経つと忘れてしまうという経験は誰にもあるものでしょう。
【NO.2】
『 春雨の 恵みも知らず ハウス菜は 』
季語:春雨(春)
意味:春に降る雨の恵を知らないのだ、ハウス栽培の野菜は。
春雨は畑に植えられている野菜にとって恵みの雨ですが、ハウス栽培では覆われているうえに水が管理されているため、雨が降ってもわかりません。雨を受けて青々と茂る畑を見ての一句でしょうか。
【NO.3】
『 春雨や 寺のふすまの 雲龍図(うんりゅうず) 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っている。訪れたお寺のふすまにはこの雨を降らせているような雲龍図が書いてある。
雲と龍の描かれた雲龍図を、今降り出した雨を降らせるものと例えて詠んでいます。龍は水を司るため、雨と龍は連想しやすいテーマです。
【NO.4】
『 春雨の 道は蛇の目を 写しおり 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っている道は、水たまりが色とりどりの蛇の目傘を写している。
蛇の目とは同心円状の模様のことで、主に傘によく使われました。雨が降っているため、この句での蛇の目は傘の意味であり、水たまりに色とりどりの傘が写っている光景を詠んでいます。
【NO.5】
『 春雨の 色眠たげの 東山 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っていて、ぼやけた緑が眠たげな印象を持たせる京都の東山よ。
この句に登場する「東山」は、京都盆地の東側に位置する東山です。新緑の季節に春雨が降ることによって、にじむような緑になります。その緑を眠たげと評するのが面白い句です。
【NO.6】
『 ロッキングチェアに沈む 春の雨 』
季語:春の雨(春)
意味:ロッキングチェアに沈むように座っている。外は春の雨が降っている。
「ロッキングチェアに沈む」が句またがりになっている一句です。「沈む」という言葉から、ただ座っているだけでなく眠っているのかもしれません。「春眠暁を覚えず」という故事成語のように、春は眠りを連想させるのどかな季節です。
【NO.7】
『 春の雨も ゲリラ豪雨は 風情ない 』
季語:春の雨(春)
意味:春に降る雨も、ゲリラ豪雨のような強く激しい雨では風情がない。
春雨や春の雨という季語は、「しとしとと静かに降っている雨」が想定されています。そのため、たとえ春の季節に降る雨だとしても、バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨では風情がないと嘆いている句です。
【NO.8】
『 春雨や 有縁無縁の 野のほとけ 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っている。お参りする人がいるものもいないものもいる、野にある仏様よ。
春の雨に洗われる仏様を詠んでいます。お参りされているものとされていないものがあるため、墓地での着想でしょう。どの仏様にも春雨が平等に降り注ぐ慈悲を感じる一句です。
【NO.9】
『 春雨や 傘あればよし 無きもよし 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っている。傘があれば濡れなくてよい。傘がなくて濡れたまま歩いてもよい。
春の暖かな、細かい雨だからこその一句です。夏の激しい雨ではあっという間にびしょ濡れになり、冬の冷たい雨では凍えてしまいます。その点春の細かな雨は、傘がなくとも問題ないという、のどかで楽しげな雰囲気の句です。
【NO.10】
『 春雨の 中の別れや 無人駅 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降る中で別れの挨拶をしている。無人駅で他に人はいない。
里帰りから帰るときの句か、新たな環境への旅立ちの挨拶の句か、さまざまな想像がかき立てられる句です。無人駅という言葉がほかに遮るもののいない状況と、それゆえに際立つ寂しさをものがたります。
【NO.11】
『 春雨や 草木の呼吸 聴きながら 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降ってきた。草木の呼吸を聴きながら。
草木が春雨を受けて音を立てている様子を呼吸と表現しています。草木にあたる雨音を聴く作者はどんな気持ちだったのでしょうか。
【NO.12】
『 春雨は 濡れて走るも うれしかり 』
季語:春雨(春)
意味:春雨は濡れて走るのも嬉しいものだ。
冬の冷たい雨と違い、春雨であれば濡れて走るのも嬉しいとはしゃいでいます。雪国であればなおさら雪ではなく雨ということで、喜びも一入でしょう。
【NO.13】
『 春雨に 濡れて涙を 隠す人 』
季語:春雨(春)
意味:春雨に濡れて涙を隠す人がいる。
春雨で顔を濡らすことで、涙を流すことを隠している人を詠んでいます。雨は涙の隠喩としてよく使われるため、作者自身のことかもしれません。
【NO.14】
『 春雨や からころからと 下駄の音 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っているなぁ。からころからと下駄の音がする。
「からころから」という下駄の音が面白い一句です。雨が降っていても下駄で出かける粋を感じます。
【NO.15】
『 春雨や 赤き傘ゆく 野の小径 』
季語:春雨(春)
意味:春雨が降っている。赤い傘が野の小道を歩いている。
春雨が降る中で、赤い傘を差した人が歩いている様子を詠んでいます。「野の小径」という表現から両側は緑色のため、よけいに赤い傘が目立つ一句です。
以上、春雨を季語に使ったオススメ俳句集でした!
今回は「春雨」について詠まれた俳句を30句紹介してきました。
春の雨はその降り方が特徴的なこと、寒い冬から暖かな春になるにつれて降り出すということから、のどかさや楽しげなものが多い印象です。
雨に降られたとがっかりするのではなく、春の雨ならではの季節を楽しんでみてはいかがでしょうか。