師走(しわす)は12月を意味する言葉で、師(僧侶)も走るほど忙しいという意味だと言われています。
12月の句は年の瀬ということもあり、寒さを詠んだものと忙しさを詠んだものの両方があるのが特徴です。
師走
元は太陰暦の12月の異名でしたが、現在の新暦でも12月の別名として幅広く認知されています。一年の最後の月であり大きな行事も多いことから、師走という漢字が持つイメージと忙しなさがぴったりと合うように感じる方も多いようですが、実は師走の由来は正確にはわかってないそうです。 pic.twitter.com/HS63cyzgS9
— 久延毘古⛩陶 皇紀ニ六八二年令和四年如月 (@amtr1117) November 30, 2016
今回は、そんな「師走(しわす)」を季語に含む有名俳句を20句ご紹介していきます。
師走に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 旅寝よし 宿は師走の 夕月夜 』
季語:師走(冬)
意味:こんな旅の途中の寝床は良いものだ。良い宿で師走の上弦の月がよく見える。
『笈の小文』の旅の途中、旧暦12月9日に門人に招かれて泊まった際の挨拶の一句です。「旅寝」は辛いものという歌が多いですが、門人の家でもてなされて月もよく見える良い夜を過ごしているという感謝が込められています。
【NO.2】松尾芭蕉
『 かくれけり 師走の海の かいつぶり 』
季語:師走(冬)
意味:水の中にかくれてしまった。師走の琵琶湖にいたかいつぶりたちの姿よ。
「かいつぶり」は「鳰(にお)」という鳥のことで、今は冬の季語になっていますが当時はまだ季語として認識されていませんでした。「海」は琵琶湖のことで、あれほど水面にいた鳥たちが12月になると姿を消してしまったなぁという季節の移ろいを詠んでいます。
【NO.3】与謝蕪村
『 炭売に 日のくれかかる 師走哉 』
季語:師走(冬)
意味:炭を売っている人にも日が暮れてかかる師走であることだ。
12月は冬至があるため、日が最も短い月です。炭を売っていた人が、気がついたらもう日が暮れ始めているという冬の光景を詠んでいます。
【NO.4】与謝蕪村
『 梅さげた 我に師走の 人通り 』
季語:師走(冬)
意味:梅を持っている私が、師走のたくさんの人が歩く通りを歩いている。
この句は作者が江戸に出て俳諧の修行を始めた頃の句で、「人通り」は日本橋の大通りを想像させます。梅は季節ではないため鉢植えのようにして抱えていたと考えられ、師走のせわしなさと梅の対比が面白い句です。
【NO.5】小林一茶
『 けろけろと 師走月よの 榎哉 』
季語:師走(冬)
意味:何事もなかったように師走の月が榎の木にかかっているなぁ。
「けろけろと」は「けろりと」と同じ意味で、何事もなかったようにという意味です。師走の忙しい日々でも、月はいつものとおり昇って輝いている様子を詠んでいます。
【NO.6】小林一茶
『 世につれて 師走ぶりする 草家哉 』
季語:師走(冬)
意味:世の中の様子につられて師走のように忙しくする草家であることよ。
「草家」は草葺きの家で、粗末な家であることを意味しています。忙しくするようなこともないのに、世間の空気につられてそわそわとしている句です。
【NO.7】加賀千代女
『 物ぬひや 夢たたみこむ 師走の夜 』
季語:師走(冬)
意味:着物を縫っているところだ。布と一緒に夢も畳んで縫い込む師走の夜である。
【NO.8】広瀬惟然
『 銭湯の 朝かげきよき 師走かな 』
季語:師走(冬)
意味:銭湯でむかえる朝の光の影が清らかな師走であることだ。
作者の生きた江戸時代では、家のお風呂ではなく銭湯を利用するのが一般的でした。たとえ忙しい年の瀬である師走であっても変わらない習慣でしたが、時期によってものの見え方が変わってくることを詠んだ句です。
【NO.9】宝井其角
『 山陵(やまがら)の 壱歩(いちぶ)をまはす 師走哉 』
季語:師走(冬)
意味:山陵とも呼ばれる山雀はクルミを足で回す習性があるが、その1歩の足で師走の忙しいときに遊んでいる。同じように、「三両一分」で金を貸す「山雀利口」の金貸しは、師走に資金繰りがうまく行かなくなるのである。
この句は洒落風と呼ばれる謎かけの俳句です。「山陵」と「三両」、「壱歩」と「一分」を掛けて、ヤマガラという鳥の習性を詠んでいるように見せて、師走に資金繰りに走り回る高利貸しを風刺しています。
【NO.10】正岡子規
『 白足袋の よごれ尽せし 師走哉 』
季語:師走(冬)
意味:真っ白だった白足袋が汚れ尽くすほど忙しい師走であることだ。
当時は靴下がまだ珍しく、足袋を履いているのが一般的でした。真っ白だったたびがあちこち動き回るうちに汚れが落ちなくなるほど忙しい12月を描写しています。
師走に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】正岡子規
『 いそがしく 時計の動く 師走哉 』
季語:師走(冬)
意味:いそがしく時計が動いているように感じる師走であることよ。
こちらも師走の忙しさを詠んだ句です。時間の長さは変わらないはずなのに、どこか時計までもがいそがしく時を刻んでいるように感じる年の瀬を詠んでいます。
【NO.12】高浜虚子
『 エレベーター どかと降りたる 町師走 』
季語:師走(冬)
意味:エレベーターからどかと人が降りてくる師走の町だ。
年の瀬の百貨店などでは、年越しに必要なものを買い揃えるために多くの人で賑わいます。買い物袋を持った人達が一斉にエレベーターから降りてくる様子が目に見えるようです。
【NO.13】高浜虚子
『 別の間に 違ふ客ある 師走かな 』
季語:師走(冬)
意味:応接室でお客さんと応対している間に、別の間に違うお客さんを待たせているほど忙しい師走だなぁ。
【NO.14】原石鼎
『 日のさせば 巌に猿集る 師走かな 』
季語:師走(冬)
意味:日がさせば、暖かい岩場に猿が集まる師走であるなぁ。
日がささない冬場の日陰はとても寒いものです。日差しが出てきたので暖かい岩場に猿たちが一斉に集まる様子を描写しています。
【NO.15】山口青邨
『 走りゐる 師走の月の 白かりし 』
季語:師走(冬)
意味:走っているような師走の月が白く輝いている。
せわしない生活の中で時間が過ぎるのが早く感じ、月までも走っているように感じる一句です。そんな中でも月は変わらず白く輝いていると、ふと夜空を見上げたときの感覚が読み取れます。
【NO.16】星野立子
『 鉄板の ガタンと鳴りぬ 師走街 』
季語:師走(冬)
意味:鉄板がガタンと音を立てて鳴る師走の街だ。
作者は昭和期の東京で生まれ育ちました。冬の東京は強風が吹くため、鉄板でも音を立てて動くことがあり、冬である実感がわきます。
【NO.17】種田山頭火
『 街は師走の 広告燈の明滅 』
季語:師走(冬)
意味:街の中は師走のにぎわいで、広告の明かりが明滅している。
12月の忙しい街中で、ネオンが明滅している風景は現在でも思い浮かべることができるでしょう。自由律の調子が、チカチカと明滅するネオンサインの光を際立たせています。
【NO.18】高橋淡路女
『 何もなき 師走の流れ 早きかな 』
季語:師走(冬)
意味:特にこれといった用事もないのに、師走の時間の流れは早いことだなぁ。
師走は忙しいと言われますが、いつも通りの生活を送っている人も多いです。そんな何事もない生活をしていても、世間に流されたのか時間の流れが早いなぁという感慨の句です。
【NO.19】阿部みどり女
『 出逢ひたる 人もそそくさ 師走街 』
季語:師走(冬)
意味:街中で出会った人もそそくさと歩いている師走の街だ。
忙しさと寒さで、街を歩く人もどこか早足になっています。知り合いでも長時間足を止めて話し込むことなく、そそくさと去っていくのでしょう。
【NO.20】久保田万太郎
『 あかあかと 火の熾りたる 師走かな 』
季語:師走(冬)
意味:あかあかと火がおこしてある師走であることだ。
大正時代から昭和初期にかけては炭を使った暖房器具が主流でした。冬といえば炭が赤くなる熾火の状態を思い起こす人も多かったのではないでしょうか。
以上、師走に関する有名俳句でした!
今回は、師走に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
「師走」という言葉の持ついそがしさやせわしなさを詠んだ句が多く、他の月とはまた違った風情があります。
12月は忙しい年の瀬ですが、そのいそがしさを題材に一句詠んでみてはいかがでしょうか。