「ロマンチック」とは、浮世離れした甘く美しい世界のことをいいます。
俳句にはそんな空想的で夢のような雰囲気を詠ったものが多くあります。
一つ家に 遊女も寝たり 萩と月 pic.twitter.com/FchGP8FTiT
— sho-o (@SHOsBAR) October 13, 2013
今回は、そんな「ロマンチック」なオススメ俳句を20句ご紹介します。
ロマンチックな有名俳句【10選】
【NO.1】正岡子規
『 七夕の 橋やくづれて なく鵲(かささぎ) 』
季語:七夕(秋)
意味:七夕の橋が崩れてしまい、鳴くカササギであることだ。
「七夕」は、俳句では秋の季語として扱われます。これは、七月が旧暦で秋の始まりとされていたためです。
織姫と彦星が一年に一度会うことが許される七夕伝説では、鵲(かささぎ)と鴉(からす)が天に上り自らの体で銀河に橋を架け、二人が会う手助けをしたとされています。
七夕のロマンを感じる美しい句です。
【NO.2】種田山頭火
『 何を求める風の中ゆく 』
季語:なし
意味:何を求めて風の中をゆくのか。
山頭火の句は、本来の俳句の形式を超えた自由律俳句が有名です。
この句も、季語のない自由律俳句で独特のリズムを出しています。
山頭火は生涯放浪の旅を続けた俳人でした。
「何を求めて風の中をゆくのか」と行くあてのない旅に、読み手は深いロマンを感じます。
【NO.3】堀井春一郎
季語:クリスマス(冬)
意味:クリスマスに囁かれた。『君と結婚していたら』と。
クリスマスの街中で偶然に再会したかつての恋人から、「君と結婚していたら」と囁かれたのでしょうか。
決してあの頃に戻れない二人に、クリスマスのロマンチックな風景が印象を深めます。
【NO.4】富安風声
『 一生の 楽しきころの ソーダ水 』
季語:ソーダ水(夏)
意味:一生の楽しいころを思い出す、ソーダ水であることだ。
一人喫茶店でソーダ水を飲む作者は、楽しかった時代を思い出しているのでしょうか。
香りや味によって昔の記憶をフラッシュバックされたことは、誰もが経験するものでしょう。
「ソーダ水」の季語が、炭酸のしゅわしゅわとする味わいと、さわやかな香りを伝え、読み手それぞれに懐かしい時代を想像させます。
【NO.5】岡野宵火
『 わかれてしまえば月にひらひら遠くなりゆく 』
季語:なし
意味:二人が別れてしまうと、月に向かってひらひらと遠くなってゆく。
岡野宵火は、ロマン派の俳人と呼ばれています。
この句は無季自由律の俳句で、流れるようなリズムで月の情景を詠っています。
月に向かい「ひらひらと」と遠くなってゆく恋人との分かれ道でしょうか、夢のようなロマンティックな情景です。
【NO.6】松尾芭蕉
『 一つ家に 遊女も寝たり 萩と月 』
季語:萩(秋)
意味:同じ一つの家に遊女も寝ている、萩と月の夜のことである。
「萩(はぎ)」は、秋の七草のひとつで、小さな蝶のような小さい花の房をつける植物です。野一面に咲く様子は、美しさと控えめな情緒を醸し出します。
この句は、「奥の細道」の中でロマンチックなものとして人気が高い句です。
芭蕉が泊まる宿所にたまたま居た遊女は、まるで月のように美しく、自分はわびしい萩のようだと例えているのでしょう。
「遊女」「萩」「月」という美しい語がそろうことで、幻想的な効果を生んでいます。
【NO.7】小林一茶
『 青空に 指で字を書く 秋の暮(くれ) 』
季語:秋の暮(三秋)
意味:青空に、指で字を書く秋の暮れのことだ。
「秋の暮」は、「秋の季節の終わり」と、「秋の日の夕暮れ」という二つの意味を持つ季語で、しみじみとした「もののあはれ」を伝えるものとして、扱われます。
「秋の暮」に、天高く晴れ渡った青空に一茶は指で字を書いたのでしょう。読み手に、どこか物寂しく美しい秋の空を想像させます。
【NO.8】日野草城
『 永き日や 相触れし手は 触れしまま 』
季語:日永(ひなが)(春)
意味:日永の日に、お互いが触れた手は触れたままでいる。
「永き日」は春の季語「日永」のことで、春になり日照時間が長くなってきたことをいいます。
永くなった春の日、そっと想いを寄せ合う二人は互いが触れた手をそのまま離さずにいるのでしょう。
この幸せな時間が長く続いてほしいという思いが、「永き日」と重なりロマンチックな場面となっています。
【NO.9】清水基吉
『 春一番 こころよろめき ゐたりけり 』
季語:春一番(春)
意味:春一番の風が吹く。心もよろめいてしまったことだ。
「春一番」とは、立春の後に初めて吹く強い南風のことです。
「春一番の強い風のように、心がよろめく程あの人に惹かれてしまった」という、ロマンチックな恋の始まりの場面を想像させられます。
【NO.10】松本たかし
『 夢に舞ふ 能美しや 冬籠(ふゆごもり) 』
季語:冬籠(ふゆごもり)(冬)
意味:夢に舞う能がなんと美しいことか。冬ごもりでのことだ。
「冬籠(ふゆごもり)」は、冬の間雪が積もる中、戸外へ出ずに家で籠ることを指します。
作者は、能楽の名家の跡取りでしたが、病のため二十歳頃能の世界から退きました。
この句では、自分はもう演じられない能を、夢の中で舞っているのでしょう。「夢」「能」「冬籠」という語が、夢幻の世界へ読み手を誘うような句です。
ロマンチックな一般俳句ネタ【10選】
【NO.11】
『 プロポーズ されそうなほど 冬銀河 』
季語:冬銀河(冬)
意味:プロポーズをされそうな程美しい冬銀河だ。
「冬銀河」とは、冬の夜空にかかる天の川のことです。
やや弱い光ながらも澄み切った秋の夜に冴えわたる、美しい星空です。
「冬銀河」の下でプロポーズされることを夢見る女性の、ロマンチックな句です。
【NO.12】
『 美しさ 超えて眩しき 星月夜 』
季語:星月夜(秋)
意味:美しさを超えて眩しい星月夜であることだ。
「星月夜」とは、月の出ていない秋の夜空に、星のみが明るく輝くことをいいます。
都会から離れた地で見る、星月夜はまぶしいほどに輝いているのでしょう。
美しい星空に心を奪われた作者の様子が伝わってきます。
【NO.13】
『 もう少し 夢見てみよう 秋夕焼け 』
季語:秋夕焼け(秋)
意味:もう少しだけ夢を見てみよう。秋夕焼けの下で。
「秋の夕焼け」は、しみじみとし情緒を感じるものです。
人生を長く生きた者が、「秋の夕焼けの下、もう少しだけ夢を見ていよう」と読み手に語りかけるような情緒あふれる句となっています。
【NO.14】
『 月影の ゆらぎに恋の 始まれり 』
季語:月(秋)
意味:月影がゆらぐと恋が始まった。
「月」を使った季語は多くありますが、「月」のみでは秋の季語として扱われます。秋の月は、四季の中で最も美しく夜空に輝くためです。
「月影がゆらぐ」ことで恋が始まったという、まさにロマンチックな句です。
【NO.15】
『 りょうはしにぶらさがりたい三日月だ 』
季語:三日月(秋)
意味:両端にぶらさがりたい三日月だ。
小学生が詠んだ句です。夜空に浮かんだ三日月の両端に、きょうだいとぶらさがってみたいという視点が、とても可愛らしい句です。
【NO.16】
『 あなととの 距離が近づく 冬が好き 』
季語:冬(冬)
意味:あなたとの距離が近づく、そんな冬が好き。
想いをまだ伝えていない相手と、さりげなく体が近づいた冬。そんな冬が好き、というロマンチックな乙女心を詠った句です。
【NO.17】
『 寒い冬 コペルニクスを つかみとる 』
季語:寒い冬(冬)
意味:寒い冬、夜空のコペルニクスをつかみ取る。
「コペルニクス」とは、蟹座の別名でこの星座の発見者がつけられたものです。
寒い冬の夜空に浮かぶ、「コペルニクス」は手を伸ばしてつかみとってしまえるような美しさだったのでしょう。
読み手にも、満点の星を見た作者の感動が伝わってきます。
【NO.18】
『 屋久杉が 島を吊り上げ 天に立つ 』
季語:なし
意味:屋久杉が、島を吊り上げて天に向かって立っている。
「屋久杉」とは、鹿児島県屋久島で標高500メートル以上の山中に自生する、樹齢千年を超えるスギのことです。
島一面に根を張る屋久杉は、天に向かってそびえ立っています。その姿は、まるで島を持ち上げているようだとした作者の感動は、とても深いものだったのでしょう。
【NO.19】
『 くちづけのように 花火の火をもらう 』
季語:花火(夏)
意味:口づけをするように花火の火をもらう。
互いの花火を近づけて火を移す動作を、「くちづけのように」と呼んだ句です。
好きな人とする花火は、想いがあふれてしまいそうなのでしょう。
【NO.20】
『 わたくしの 全てが君になり桜 』
季語:桜(春)
意味:私の全てが君になる。まるで桜のように。
自分がすべて好きな人の色に染まる姿を、「桜」のようにと表現した、ロマンチックな句です。
「恋をする」とは、「相手色に染まろうとすることなのだ」と作者が読み手に語り掛けるように感じさせられます。
以上、ロマンチックなおすすめ俳句集でした!
美しい季語を使ったロマンチックな俳句からは、日本人の感覚の豊かさを感じさせられます。
ぜひ、ロマンチックな俳句を味わい、情緒あふれる素敵な情景に浸ってみてください。