「俳句」は、五・七・五の十七音で美しき自然の妙も、日々の暮らしの中のふと沸き起こった心の動きも印象的に詠みあげることができます。
リズムよく、美しい言葉で作られた名句は、俳句をたしなむ人のみならず記憶に残り、ふとした瞬間に思い出すこともあるでしょう。
たくさんの名句を知っていることは、日々を心豊かに暮らすことにもつながっているのです。
今回はそんな数ある俳句の中から「夏嵐机上の白紙飛び尽す」という高浜虚子の句をご紹介します。
夏嵐
机上の白紙
飛び尽す 正岡子規
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— 菜花 咲子 (@nanohanasakiko2) July 23, 2017
本記事では、「夏嵐机上の白紙飛び尽す」の季語や意味・表現技法・鑑賞文・作者について徹底解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
「夏嵐机上の白紙飛び尽す」の作者や季語・意味・詠まれた背景
夏嵐 机上の白紙 飛び尽す
(読み方:なつあらし きじょうのはくし とびつくす)
こちらの句の作者は「正岡子規」です。
正岡子規は江戸末期の大政奉還と時を同じくして生まれ、短い生涯を文学にささげた明治期の俳人・歌人です。
季語
こちらの句の季語は「夏嵐」です。読んで字のごとく「夏の季語」です。
「夏嵐」とは、夏に吹く南風(または南東から吹く風のこと)。
嵐というと暴風雨をイメージしますが、「夏嵐」は雨が降っているわけではありません。
意味
こちらの句を現代語訳すると・・・
「窓から吹き込んできた夏の南風が、机の上にあった白い紙をすべて飛ばしてしまったよ。」
という意味になります。
この句が生まれた背景
こちらの句は、「寒山落木」という句集に、v明治29年(1896年)の夏に詠まれた句として収録されています。
その前年、明治28年(1895年)の春には、正岡子規は日清戦争の従軍記者として大陸に渡り、その帰途で結核菌が原因で喀血、それから療養生活に入っていました。
結核菌は子規の体の中で広がり、この句を詠んだ年の春には、正岡子規は脊椎カリエスという診断が下されました。
これは、結核菌が背骨に入り、病変を起こすもので、腰や背骨に痛みを生じます。
一年前は大陸で活躍していたというのに、遠からず訪れる死を意識し、病臥することの多い生活をせざるを得ない状況でした。
そんな中、子規は「夏嵐机上の白紙飛び尽す」の句を詠みあげました。
「夏嵐机上の白紙飛び尽す」の表現技法
初句切れ
句切れとは、意味やリズムの切れ目のことです。
句切れは「や」「かな」「けり」などの切れ字や言い切りの表現が含まれる句で、どこになるかが決まります。
この句の場合、初句(五・七・五の最初の五)に、「夏嵐」の名詞で区切ることができるため、初句切れの句となります。
「夏嵐机上の白紙飛び尽す」の鑑賞文
【夏嵐机上の白紙飛び尽す】は、ある夏の日の一瞬の出来事をすかさずとらえて詠みあげた句です。
夏、突如吹き込んできた南風に白い紙が一気に舞い上げられる光景が、写生のように描かれています。この句からは、その時の情景がしっかり目に浮かんできます。
突如、吹き込んできた夏の南風。湿り気を帯びた、夕立を予感させる風でしょうか?
湿った風と言えど、突風が強く吹き込んでくれば暑気を払う涼しさも感じたことでしょう。
この時机上にあった白紙は、「飛び尽す(すべて飛ばされた)」という表現から考えても一枚ではないでしょう。
たくさんの紙が一気に吹き飛ぶ一瞬の驚き、そしてむしろ爽快感すら感じさせます。
ただ、こちらの句は子規が死を意識し、病臥することの多い生活をせざるを得ない状況で詠まれています。
この句に詠まれた「机上の白紙」は、これからの創作活動のための紙であり、思うように執筆が進められない「もどかしさ」がこめられていたのかもしれません。
作者「正岡子規」の生涯を簡単にご紹介!
(正岡子規 出典:Wikipedia)
正岡子規、本名は常規(つねのり)。1867年(慶応3年)愛媛県松山市、旧松山藩士の士族の家の生まれです。
子規という雅号は、ホトトギスにちなんでいます。ホトトギスはのどから血を流して鳴くと言われており、若い頃に結核に冒され、死に至る病と向き合いながら俳句や短歌を詠み続けた彼にふさわしい雅号です。
江戸の文学もよくこなし、一方で進取の気鋭にも富み、近代以降の短歌・俳句の発展の礎を築き、近代文学史に名を残しました。
明治35年(1902年)9月19日、34歳にて子規は短すぎる生涯を閉じました。
正岡子規のそのほかの俳句
(子規が晩年の1900年に描いた自画像 出典:Wikipedia)
- 柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
- 紫陽花や昨日の誠今日の嘘
- をとゝひのへちまの水も取らざりき
- 赤とんぼ 筑波に雲も なかりけり
- 夏嵐机上の白紙飛び尽す
- 牡丹画いて絵の具は皿に残りけり
- 山吹も菜の花も咲く小庭哉
- 毎年よ彼岸の入りに寒いのは
- 雪残る頂ひとつ国境
- 柿くふも今年ばかりと思ひけり
- 鶏頭の十四五本もありぬべし