俳句は、五七五の十七音で構成されています。
通常の五七五のリズムで作られている俳句を、「正調(定型)」の俳句といいます。
それに対して、十七音で構成されていても、リズムが五七五ではないようにして作られている「破調」の俳句と呼ばれるものがあります。
今回は、破調の俳句の中で用いられる「句またがり」という手法について解説していきます。
対句表現を用いた句またがりの俳句。 pic.twitter.com/V1VwYlhWjp
— 多喰身・デラックス (@hara_ise) April 8, 2019
目次
俳句の「句またがり」とは?意味や効果について
俳句の「句またがり」とは、句の音数は五七五の十七音に収まっているものの、言葉の意味が五七五の切れ目に合わせていないものをいいます。
一つの語が二つの切れ目をまたいで使われます。「句またがり」では、語句の切れ目と、意味の切れ目にずれが生じ、新たなリズムが生まれます。
これだけでは少しわかりづらいので…、実際に「句またがり」の手法が使われている句を挙げてみましょう。
算術の 少年しのび 泣けり夏 (作:西東山鬼)
(意味:夏休み最終日、算術の宿題が終わらずこっそり泣いている少年がいることだ)
この句を五・七・五で区切ると・・・
「さんじゅつの しょうねんしのび なけりなつ」
一方、意味の切れ目で区切ると・・・
「さんじゅつの しょうねん しのびなけりなつ」
以上のように、五・四・八となり、「しのび泣けり」が「句またがり」になっています。
「しのび泣けり」から、宿題が終わらずこっそりと泣いている少年の姿を読み手に想像されているのです。
俳句の「句またがり」の手法を使うことで、俳句の五七五のリズムに合わないところで意味の切れ目をつくり、句に新しい印象付けをしています。
以上のように、十七音という決まりの中で、五七五と切るのではなく、意味の切れ目として八、四、五など通常と違う切り方をするものが、「句またがり」です。
俳句の「句またがり」の使い方やコツ・注意点
ここでは、句またがりの俳句を作るときのコツや注意点をご紹介します。
(1)まずは、十二音で考える
句またがりの俳句を作る際、どうしてよいか悩みますが、作りやすい方法として「十二音を先に作り、そこに季語を含めた五音を加える方法」があります。
例えば・・・
ひととゐる ことのたのしさ 草紅葉 (作:行方克己)
「ひととゐることのたのしさ」で十二音となり、「草紅葉」の季語を添えています。
流れるような音のリズムと、意味のずれの感覚により、とても新鮮な俳句を作ることができます。
(2)リズム、意味を考えすぎて作らない
俳句を作る際に、リズムと意味を分けて考えすぎるとよくありません。直観で詠むことが大切です。
句またがりの俳句を作る際は、特にリズムと意味を考えすぎるとかえってつながらない句になりがちです。
自分の直観を大切に作ることが大切です。
(3)むやみに使わない
句またがりの手法は、むやみに使うものではありません。
句またがりの手法を使う目的をしっかりもち、効果がはっきり出ることが明らかなときにのみ使うことが大切です。
俳句は情景を伝えるものです。しかし、情景を伝える際に、五音や、七音の中では表現することが難しいと感じるときがあります。
その時に、「句またがり」の方法を知っておくと、新たな俳句の表現をすることができます。
自分の表現方法の技術の一つとして、理解しておくことをおすすめします。
句またがりは、基本的に五七五の十七音の中で成立させる制約の中で生み出された手法です。
字余りや字足らず、五七五から大きく離れた形にしてしまうと、句またがりというよりも破調の手法が強く出てしまいます。
まずは五七五のなかで言葉を選び、どうしても五音や七音で収まらない場合に句またがりを使いましょう。
「句割れ」や「中間切れ」との違い
「句またがり」の手法と間違えやすいものとして、「句割れ」「中間切れ」があります。ここでそれぞれについて簡単に説明していきます。
句割れや中間切れなども句またがりにカウントする俳人もいますが、ここでは個別の手法として扱っておきます。
・「句割れ」・・・句の終わりではないところで文が終わること
【俳句例】「冬景色なり何人で見てゐても」
読み「ふゆげしきなり なんにんで みていても」
「ふゆげしきなり」と言い切りの形にして、終わっています。「句割れ」にすることで印象深さを増すことができます。
・「中間切れ」・・・二句の途中で切れ字や言い切りの表現を使った表現方法
【俳句例】「噴水のしぶけり四方に風の街」
読み「ふんすいのしぶけり よもに かぜのまち」
第二句「しぶけりよもに」の中に切れ字「けり」があります。「しぶけり よもに」と四・三で切ることになるので中間切れとなります。
俳句の句またがりを使った有名俳句集【10選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 海暮れて 鴨のこゑ ほのかに白し 』
季語:鴨(冬)
現代語訳:日が暮れゆく海、鴨の声がほのかに白く感じる。
「ほのかに」が二句と三句をまたぎ、「ほのかにしろし」となっています。
「鴨の声ほのかにしろし」となることで、日が暮れゆきだんだんと周りの明るさが消える中、鴨の姿も次第に闇の中へ消えていく印象を強くしています。
【NO.2】山口誓子
『 虹のぼり ゆき中天を くだりゆき 』
季語:虹(夏)
現代語訳:虹が天高く上ってゆき、天の中心から下ってくる。
「のぼりゆき」が句またがりになっています。読みとしては、七・五・五となります。
上五が七音になることで、空にかかる虹の高く大きな姿が印象付けられます。
【NO.3】加藤鍬邨
『 大学の さびしさ冬木 のみならず 』
季語:冬木(冬)
現代語訳:大学の寂しさは、冬になり葉を全て落としてしまった木のせいだけではない。
句またがりで、「ふゆきのみならず」とすることにより、自らの寂しさと冬の枯れ木の寒々とした様子が調和しています。
【NO.4】正岡子規
『 春惜しむ 宿や日本の 豆腐汁 』
季語:春惜しむ(春)
現代語訳:春が過ぎていくのを惜しむ宿で、日本の豆腐汁がある。
この句では、切れ字「や」によって中七が切られ、句またがりになっています。句またがりの典型的な例といえます。
【NO.5】石田波郷
『 拭きおこる 秋風鶴を あゆましむ 』
季語:秋風(秋)
現代語訳:鶴が羽を休めていると、秋風が吹きおこり鶴を空へ急き立てた。
「ふきおこるあきかぜ」とすることで、秋風が突風となり鶴を慌てさせている様を強く表現しています。
【NO.6】小林一茶
『 うまさうな 雪がふうはり ふわりかな 』
季語:雪(冬)
現代語訳:おいしそうな雪がふうわりふわりと落ちてくるなぁ。
「うまさうな雪」と初句と二句にまたがっています。意味を考えれば句またがりであるにも関わらず、五七五調で読むことができるため、作者の力量の高さが伺える一句です。
【NO.7】加藤楸邨
『 木の葉ふりやまず いそぐな いそぐなよ 』
季語:木の葉ふり/木の葉降る(冬)
現代語訳:木の葉が降り止まない。急ぐな、急ぐなよ。
「木の葉ふりやまず」で初句と二句にまたがっています。読む音としては八四五になっているため一見すると自由律俳句にも思えますが、音を数えるときちんと十七音で収まっているのが見事です。
【NO.8】飯田龍太
『 大寒の 一戸もかくれなき 故郷 』
季語:大寒(冬)
現代語訳:大寒の日は、一戸も隠れる場所がないくらいよく見える故郷だ。
「一戸もかくれなき」と二句と三句にまたがっています。「かくれなき」を句またがりにすることで、遮蔽物がなにもなく家がよく見える情景を読む人に持たせる一句です。
【NO.9】池田澄子
『 よし分かった きみはつくつく法師である 』
季語:つくつく法師(秋)
現代語訳:よし分かった、きみはつくつく法師のようにうるさい人である。
「つくつく法師」が二句から三句にかけてまたがっています。六七六と字余りにもなっているため破調とされることもありますが、「つくつく法師」という単語が二句と三句にまたがることから句またがりにも該当する一句です。
【NO.10】黛まどか
『 旅終へて よりB面の 夏休 』
季語:夏休(夏)
現代語訳:旅を終えてからB面の夏休みが始まる。
「旅終へてより」と初句と二句にまたがって詠まれています。B面とはレコードやカセットテープの裏面の曲のことで、「夏休みのメインである旅を終えてから」という意味になるため、「より」は「旅終へて」にかかっていることがわかる句です。
さいごに
俳句の「句またがり」についてお伝えしました。
「句またがり」の表現を使うと、作者のあふれ出る感情や情景を読み手に深く印象づけることができます。
しかし、「句またがり」の手法は、定型の五七五のリズムを理解しておくことが前提となります。
定型のリズムをまずはしっかり理解し、そして「句またがり」の俳句を多く鑑賞して、この手法を深く理解することが大切です。
「句またがり」の手法を知っておくと俳句の表現の幅が広がりますので、ぜひ自分の技の一つとして取り入れていきましょう。