【口中一顆の雹を啄み火の鳥や】俳句の季語や意味・表現技法・鑑賞・作者など徹底解説!!

 

日本には、著名な俳人によって数多くの俳句が残されています。

 

その中には、おとぎ話しのようなシーンを扱った作品がいくつかあります。

 

今回ご紹介する「口中一顆の雹を啄み火の鳥や」もその中の1つです。

 

 

本記事では、「口中一顆の雹を啄み火の鳥や」の俳句の季語・意味・表現技法・鑑賞・作者について徹底解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

「口中一顆の雹を啄み火の鳥や」の季語や意味・詠まれた背景

 

口中一顆の 雹を啄み 火の鳥や

(読み方 : こうちゅういっかの ひょうをついばみ ひのとりや)

 

こちらの句の作者は、「三橋鷹女(みつはし たかじょ)」です。

 

こちらの作品は、三橋鷹女の心情を詠んだ作品です。作者の激しい想い、情熱、その一面でクールな感情を読み取れます。

 

季語

こちらの俳句の季語は「雹」で、季節は「夏」を表しています。

 

雹は現代でも四季を問わずに、突然降り注ぐイメージがありますが、本来は積乱雲が最も発生しやすい夏場に起こる、気象現象のため「雹=夏」の季語となるのです。

 

意味&解釈

こちらの句を現代語訳すると・・・

 

「口に一粒の雹を咥えた火の鳥よ」

 

となります。

 

火の鳥は、現存する生物ではなく、おとぎ話しや小説、漫画に出てくるあくまでも空想上の生き物です。その点からも鷹女が心の中で描いた空想の世界を俳句に詠んでいることが推察できます。

 

つまり、この歌は「一粒の雹を口に咥えて、火の鳥がますます赤く燃える炎に身を包んでいる」と解釈できます。

 

冷たい雹は焔に包まれる火の鳥に啄まれて、より氷の輝きを増していきます。

 

一方で火の鳥は、雹の冷たさにより一層光り輝く焔に包まれているのです。冷ややかでもあり熱くもあり、そんな情熱的な作者の性格が伝わってきます。

 

「口中一顆の雹を啄み火の鳥や」の表現技法

切れ字「や」

切れ字とは、句の切れ目に用いられ、強調や余韻を表す効果があります。特に「や・かな・けり」の三語は、詠嘆の意味が強く込められており、切れ字の代表ともいえます。

 

この句の切れ字は、下五「火の鳥や」の「や」です。

 

こちらの作品では、雹を啄んでいる火の鳥を読者がイメージしやすい作品に仕上がっています。

 

また、文末に「や」を用いることで独特の余韻が生まれており、神秘さを感じさる独特な作風となっています。

 

字余り「口中一顆の

字余りとは、俳句の定型「575」のリズムに対して、音が多い表現技法です。

 

こちらの作品では上句「口中一顆の」の部分が「字余り」です。

 

こちらでは中句が「こうちゅういっかの」と7音のため、2音多くなっています。

 

字余りとすることで、独特のリズムに仕上がっていますし、作者が意図することをイメージやすくなっています。

 

「口中一顆の雹を啄み火の鳥や」の鑑賞

 

火の鳥は、熱い焔に包まれていて、人に例えると情熱的であり気性が激しいように感じられます。

 

一方で雹は冷たくもあり、その多くは雷などの激しい気象条件の元で天から降り注いでくるものです。

 

このように尺度を変えて考察すると、「火の鳥」・「雹」ともに温度は異なりますが「激しさ」を象徴する言葉と解釈でき、鷹女の情熱的な心の内を作品に込めたのではと推察できます。

 

焔激しい火の鳥に啄まれている雹は、より一層冷たさを増して氷のように美しく輝いています。その一方で、火の鳥は冷たい雹によって、より一層激しく燃える焔に包まれて、美しさを増します。

 

氷と雹と相反するもの同士が、互いに相乗効果を発揮しながら、美しく輝く様子を巧みに詠んだ作品です。

 

さらに深読みすると、鷹女の氷のような冷ややかな一面、それに反して焔のように熱く燃える感情が伝わってきます。作者が情熱的な女性であることが伺えます。

 

作者「三橋鷹女」の生涯を簡単にご紹介!

 

三橋鷹女は、1899年12月24日に現在の千葉県成田市にて誕生し、本名は「たか子」で「鷹女」は俳号です。

 

次兄慶次郎が若山牧水や与謝野晶子に師事し句作をしていたことが影響して、俳句をはじめました。

 

1922年に俳人の医師東謙三と結婚。夫の指導を受けながら句作に励んでいたようです。夫とともに「鹿火星」や「鶏頭陣」に入会しますが、いずれも退会。1936年には「紺」にて女流俳句欄の選考を担当しています。

 

1953年に高柳重信の誘いにより、富沢赤黄男「薔薇」にて活動をはじめ、「俳句評論」で活躍し、1969年には同雑誌の顧問となりました。

 

1972年4月7日に逝去。中村汀女・星野立子・橋本多佳子らとともに四丁と評され、その中でも激しい表現と斬新さで注目された女流俳人です。

 

 

三橋鷹女のそのほかの俳句