啓蟄(けいちつ)は二十四節気の1つで、旧暦では1月の後半から2月の初め、現在のカレンダーでは3月6日付近のことです。
大地があたたまり、虫が地中から出てくることを意味しており、啓蟄は春と虫に関する俳句が多くあります。
今日は二十四節気の啓蟄(けいちつ)です。名前の由来は、虫達が土から這い出てくる様子からきました。野菜も同じく、この季節、命を繋ぐために土から芽を出します。アスパラも芽物野菜ですね。#啓蟄 #春先野菜 pic.twitter.com/Ck7FsY2qUa
— 青果店 築地御厨 (@612_sss) March 5, 2015
啓蟄とは3/6頃、春分までの期間。太陽黄径345度。雨水から数えて15日目頃。啓は「ひらく」、蟄(ちつ)は「土中で冬ごもりしている虫」の意味で大地が暖まり冬眠していた虫が、春の訪れを感じ、穴から出てくる頃。#啓蟄 pic.twitter.com/I3dGimwGjg
— キリンビール / KIRIN BEER (@Kirin_Brewery) March 6, 2015
今回は、そんな「啓蟄(けいちつ)」に関する有名俳句を30句紹介していきます。
啓蟄に関する有名俳句【前編10句】
【NO.1】高浜虚子
『 犬耳を 立て土を嗅ぐ 啓蟄に 』
季語:啓蟄(春)
意味:犬が耳を立てて土を嗅いでいる啓蟄の日の散歩道だ。
「土の中から虫が出てくる日」ということで、犬が虫を探して嗅ぎ回っています。1年を通して見られる行動ですが、啓蟄の日ということでより感慨深く感じている句です。
【NO.2】高浜虚子
『 啓蟄や 日はふりそそぐ 矢の如く 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だなぁ。日差しが矢のようにふりそそいでいる。
3月上旬という春の陽気に、矢のようにふりそそぐ日差しという表現をしています。厳しい日差しの表現として使われることが多いですが、虫たちを土から出そうとしている日差しを詠んでいる一句です。
【NO.3】水原秋桜子
『 香薬師 啓蟄を知らで 居給へり 』
季語:啓蟄(春)
意味:盗まれた香薬師如来よ。啓蟄の日が来たことを知らないでどこかにいらっしゃるのだろう。
「香薬師」とは、昭和18年に新薬師寺から盗まれた仏像のことです。どこにあるか分からないため、啓蟄の日が来たことも知らないのだと嘆いています。なお平成28年に右手だけが発見されたことで話題になった仏像でもあります。
【NO.4】高橋淡路女
『 啓蟄の わが門や誰が 靴のあと 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日の我が家の玄関先に誰の靴のあとがあるのだろうなぁ。
実際に誰かが訪問してきたのか、虫が地中から出てくることを「靴のあと」と表現したのか、想像が膨らむ句です。虫のいた痕跡を誰かの訪問詠んだのかもしれません。
【NO.5】山口青邨
『 啓蟄の 蚯蚓の紅の すきとほる 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日に見かけたミミズは、赤い色が透き通るような色をしていた。
土の中から出てくる虫といえばミミズを想像する人も多いでしょう。春ということも手伝って、赤い色が美しく見えています。
【NO.6】川端茅舎
『 啓蟄を 啣へて(くわえて)雀 とびにけり 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄で地中から出てきた虫をくわえて雀が飛んで行った。
「啓蟄」という言葉を日付以外に「地中から出てきた虫」という意味でも使っています。雀は虫を食べるため、活発に動き出している春の様子の句です。
【NO.7】臼田亞浪
『 啓蟄の 虫におどろく 縁の上 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄で這い出てきた虫がいて驚く縁側の上である。
【NO.8】波多野爽波
『 啓蟄の 土かき消して 雨となる 』
季語:啓蟄(春)
意味:虫が地中から出てくるという啓蟄だが、土をかき消すように雨が降っている。
雨天の啓蟄の日で、地表に虫が出てこられないだろうと詠んでいます。春は雨の日も多いため、必ずしも暦どおりとはいかないのが面白いところです。
【NO.9】加藤楸邨
『 啓蟄の 風さむけれど 石は照り 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日をむかえた。風はまだ寒いけれど、石は日の光を反射して照っている。
3月上旬である啓蟄は、春とはいえまだ寒い地域が多い日にちです。そんな中でもあたたかな日の光を受けた石は反射しているように照らし出されていて、春ののどかさを予感させます。
【NO.10】長谷川かな女
『 啓蟄や 皆手に持てる 虫眼鏡 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だなぁ。みんなが手に虫眼鏡を持っている。
虫が出てくる日、ということで虫を探して虫眼鏡を持ち出しているのでしょう。幼い子供たちの活気に満ちた声が聞こえてくるようです。
啓蟄に関する有名俳句【中編10句】
【NO.11】阿部みどり女
『 啓蟄や 幼児のごとく 足ならし 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だなあ。まるで幼児に戻ったかのように足を鳴らしてみる。
子供たちが春の訪れに喜ぶように、作者も足を鳴らして喜んでいます。春になって野原をかけまわる活動的な雰囲気がよく表れている句です。
【NO.12】飯田蛇笏
『 啓蟄の 夜気を感ずる 小提灯 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日の夜の空気を感じる小さな提灯の明かりだ。
啓蟄とはいえ3月の上旬のため、夜はまだ冷え込みます。そんな夜の空気を一層感じる小さな提灯は、屋台や居酒屋の明かりなのでしょう。
【NO.13】星野立子
『 啓蟄の 虻はや花粉 まみれかな 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄になってあらわれた虻は、早くも花粉を運んで花粉まみれであることだなぁ。
【NO.14】高木晴子
『 よき日なり 啓蟄の日は 輝かし 』
季語:啓蟄(春)
意味:良い日である。啓蟄の日は輝かしいほどだ。
春の日差しもあたたかい啓蟄の日を称えている句です。シンプルな句だからこそ、春ののどかな日がより際立ちます。
【NO.15】鈴木真砂女
『 啓蟄や 豆を煮るとて 落し蓋 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だなぁ。豆を煮るために落し蓋をしよう。
春の陽気を窓の外に見ながらゆっくりと料理をしています。豆を煮る鍋の湯気やコトコトといった音が聞こえてくるような穏やかな1日です。
【NO.16】林信子
『 啓蟄や この世のものの みな眩し 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄がきたなぁ。この世のものがみな眩しく見える日だ。
春の日の眩しさを称えた句です。暦の上でだけでなく、実際の気候も春めいてくるため、全てのものがキラキラとして見えているのでしょう。
【NO.17】阿波野青畝
『 啓蟄の 土はみみずの 腹中に 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄で虫が出てきた土は、みんなミミズが食べて腹の中におさめてしまった。
ミミズは土を食べると言われていることから、ミミズの出る春の野原の様子を詠んでいます。這い出てくるために柔らかくなった土を食べている様子を詠んだ句です。
【NO.18】中村汀女
『 啓蟄や われらは何を かく急ぐ 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日がきたなぁ。我々は何をこんなにも急いでいるのだろうか。
あくせくと働いていると、新年からあっという間に3月になるという体感は誰でも感じたことがあるでしょう。何をそんなに急いでいるのか、もっとのんびりとしたらいいではないかという人生賛歌の俳句です。
【NO.19】日野草城
『 啓蟄や はればれとして 東山 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だ。晴れ晴れとした東山が見える。
「東山」とは京都にある景勝地でしょう。冬の間は天気が悪く雪が降ることも多い京都ですが、春を迎えて晴れ渡る空が見えるような一句です。
【NO.20】角川春樹
『 啓蟄や 衣干したる 雑木山 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄がきたなぁ。洋服を干してある雑木山だ。
「衣干したる」という表現と山を詠んでいることから、持統天皇の「春過ぎて 夏来たるらし 白たへの 衣ほしたり 天の香具山」が下地にあるとわかる句です。雑木山とは材木を切り出す許可が出ている山のことで、山形県にあったものが有名です。
啓蟄に関する有名俳句【後編10句】
【NO.21】飯田蛇笏
『 啓蟄の いとし児ひとり よちよちと 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日に、可愛らしい子供が一人よちよちと歩いている。
暖かくなり始めた日に、一人歩きができるようになった子供を見て詠んだ一句です。「よちよち」という擬音から可愛くて仕方がない様子が伺えます。
【NO.22】原石鼎
『 啓蟄や ただ一疋(いっひき)の 青蛙 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だなぁ。地面にはただ1匹の青ガエルしか見えない。
啓蟄は虫が地面から出てくる日と言われていますが、作者はまだ青ガエルしか見ていないと詠んでいます。カエルは虫を食べるため、もしかしたら食べられてしまった後なのかもしれません。
【NO.23】阿波野青畝
『 啓蟄と 共に勾玉 出でにけり 』
季語:啓蟄(春)
意味:虫と共に勾玉が土の中から出てきた。
虫によって埋まっていた勾玉が土の中から出てきたという面白い一句です。土の中の生き物があけた穴によって埋まっていた遺物が見つかることもあるため、ロマンあふれる一句になっています。
【NO.24】高浜虚子
『 蜥蜴以下 啓蟄の蟲 くさぐさなり 』
季語:啓蟄(春)
意味:トカゲ以下、啓蟄で出てきた虫はかなりの種類がある。
啓蟄は虫が地面に出てくるという意味ですが、この「虫」にはトカゲやカエルも含まれています。様々な生き物が冬眠から覚めて出てきた様子を詠んだ句です。
【NO.25】加藤楸邨
『 啓蟄の なほ鬱として 音もなし 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だが、気候はなお鬱々として音もない。
啓蟄は春の訪れですが、まだ空気が冬の鬱々としたもので、鳥の鳴き声なども聞こえないと詠んでいる句です。実際にまだ冬の空気なのか、作者の心情が鬱々としていたのか、どちらにも取れます。
【NO.26】橋本多佳子
『 啓蟄の 土の汚れや すきを掃く 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日の土の汚れやすさを掃いている。
虫が土から出てくることに掛けて、土埃が目立つようになった家を掃除しています。風などで土が入ってきてしまったのでしょうか。
【NO.27】大野林火
『 啓蟄の 大地月下と なりしかな 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の大地も月の光の下になったことだなぁ。
【NO.28】阿部みどり女
『 啓蟄の カーテン引けば 常の夜 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日でも、カーテンを引けばいつもの夜である。
暦の上では区切りとなる啓蟄の日でも、カーテンを引けばいつもの夜だと詠んでいます。劇的に変わる訳では無い気候を詠んだ一句です。
【NO.29】吉岡禅寺洞
『 啓蟄や 日暈(ひがさ)が下の 古畠 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だ。太陽の周りにできた輪の下には古い畑がある。
「日暈」とは「ハロ」とも呼ばれ、太陽の周りに円状の光が現れる現象のことです。そんな太陽の下には誰も耕さなくなった古い畑があるという、情緒あふれる一句になっています。
【NO.30】中村汀女
『 啓蟄の すぐ失へる 行方かな 』
季語:啓蟄(春)
意味:啓蟄の日だが、すぐに行方が分からなくなるのだなぁ。
「行方(ゆくえ)」とだけ詠まれているため、啓蟄の何を探しているのか想像が色々できる日です。暖かくならずに寒さが戻ってくるとも、虫の姿がどこにも見えないとも取れます。
以上、啓蟄に関するおすすめ有名俳句30選でした!
今回は、啓蟄に関する有名な俳句を30句紹介しました。
啓蟄という言葉の由来から、特に虫をテーマに詠まれたものが多いのが印象的です。
アスファルトやコンクリートで舗装された場所では難しいかもしれませんが、春になって地表に出てきた虫たちに思いを馳せて一句詠んでみてください。