神無月は「旧暦の10月」を指す言葉で、新暦(現在の暦)では11月頃になります。
日本中の神々が出雲の地に集まることから「神がいない月」として神無月と呼ばれました。出雲の地では逆に神が集まるため、「神在月」とも呼ばれています。
10月、諸国の神様が出雲に集まり、不在になるため「神のいない月」から、神無月になったという俗説があります。
その為、出雲は『神在月』、こういうユーモアって微笑ましくなります( ^ω^ )
画像は花鳥の『神無月』#tenugui pic.twitter.com/e0ODndtJJc— ジカンスタイル (@jikanstyle) October 12, 2014
今回は、そんな「神無月」に関する有名俳句を20句ご紹介していきます。
神無月に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】与謝蕪村
『 宗任に 水仙見せよ 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:梅を見せて見事に歌を詠んでみせた宗任に、今度は水仙を見せてみよ。咲き始めた神無月だから。
「宗任」とは、平安時代中期の武将の安倍宗任のことです。陸奥国の豪族だったため、梅などという風流な花は知らないだろうと侮辱された際に「わが国の梅の花とは見つれとも 大宮人は如何か言ふらむ」と即興の歌で返して驚かせたことで知られています。
【NO.2】宝井其角
『 御留守居に 申し置く也 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:留守の家をあずかっている人に申しおいて置きます。神無月なので。
「留守居」とは主人が留守の間に家を任されている人のことです。「神の留守」という表現も神無月を表すため、神社でのやり取りも連想させます。
【NO.3】山崎宗鑑
『 風寒し 破れ障子の 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:風が寒いなぁ。紙がなくて破れている障子の神無月の日である。
「紙が無い」と「神無月」が掛詞になっています。「寒し」も冬の季語ですが、掛詞になっているためこの句の季語は「神無月」の方になっています。
【NO.4】野沢凡兆
『 禅寺の 松の落葉や 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:禅寺で松の落ち葉が履き清められているなぁ。季節は神無月だ。
禅寺と松という単語の組み合わせから、静かで厳かな雰囲気を感じる句です。それぞれの単語の持つイメージがうまく噛み合った技巧派の一句になっています。
【NO.5】池西言水
『 神無月 火ともす禰宜(ねぎ)の 直キ哉 』
季語:神無月(冬)
意味:神無月の神社に火を灯す禰宜の姿勢の良さよ。
「禰宜」とは神職の1つで、神主や宮司の下で祭事を司る官職のことです。神無月は神を送り神を迎えるため、さまざまな祭事が行われていて、その様子を俳句に詠んでいます。
【NO.6】各務支考
『 鈴鹿より あちらは白し 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:鈴鹿峠からあちら側はもう雪で白くなってしまった神無月である。
鈴鹿峠は昔から交通の要所でありながら険しい峠道で有名でした。現在でも荒天時は通行止めになったり、冬は路面凍結で危険な道になったりするほどで、この句を詠んだときは風景すら一変していたのでしょう。
【NO.7】正岡子規
『 道はたや 鳥居倒れて 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:道端にある祠よ。鳥居が倒れてしまっている神無月だ。
【NO.8】高浜虚子
『 宮柱 太しく立ちて 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:宮柱が太く立っている神無月である。
こちらは太く立派な柱が立っている神社を詠んでいます。活気のある立派な神社であることが伺えるシンプルな句です。
【NO.9】夏目漱石
『 空狭き 都に住むや 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:空が狭い都に住んでいるなぁ。神々が移動する神無月なのに。
神のいる場所として山や空を連想する人は多いでしょう。空が狭いほど建物が建ち並んでいる都会と、神無月という伝統的な行事のある暦を対比しています。
【NO.10】右城暮石
『 神無月 テレビ画面に 雪降れり 』
季語:神無月(冬)
意味:神無月をむかえた。テレビ画面の向こうには雪が降っている。
昭和54年に詠まれた句のため、テレビが普及している時の様子です。かつては足を運ばなければわからなかった風景が、今では家にいながらにしてリアルタイムで見ることができる感慨深さがあります。
神無月に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】飯田龍太
『 薬草の 一束揺れる 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:薬草の1束が風に揺れている神無月だ。
薬草は煎じて飲む場合はそのままでは使えないので、干して乾燥させる必要があります。神無月という空気が乾燥してくる季節に合わせて家の軒先などに薬草が干されている、時代を感じさせる風景の句です。
【NO.12】原石鼎
『 真東に 金の月出て かみなづき 』
季語:かみなづき(冬)
意味:真東に金色の月が出る神無月だ。
秋分になると太陽と同じく月も真東に近い方向から昇ります。神無月は秋分のすぐ後のため、月は真東に近い方角から昇って来るでしょう。
【NO.13】水原秋桜子
『 神棚の 漆黒古りて 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:神棚の漆黒の色が古びている神無月である。
【NO.14】阿波野青畝
『 高き木の 立並びけり 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:高い木が立ち並んでいる神無月だ。
高い木がまっすぐ立ち並んでいると読んで真っ先に思い浮かぶのは神社の参道でしょう。神無月という神社に関係する季語もあり、少し寒くなった季節の参道を歩いている様子が浮かんできます。
【NO.15】稲畑汀子
『 賑へる 境内なして 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:神のいない神無月であるのに賑わっている境内であることだ。
祭事の上では神は不在ということになっている神社ですが、活気に満ちた様子の境内を面白く思って詠んでいます。人の営みと祭事が必ずしも一致しないことをよく表した句です。
【NO.16】阿部みどり女
『 群鳴いて 鴉過ぎゆく 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:群れで鳴いているカラスが飛んで過ぎていく神無月だ。
カラスの鳴き声を聞くとどこか寂しさや郷愁の念を感じることがあります。神無月という冬の初めの寂しげな様子とあいまって、読む人ごとにいろいろな感情を呼び起こす句です。
【NO.17】西山泊雲
『 矢大臣の 顔修繕や 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:矢大臣の顔を修繕しているなぁ。神無月であるので。
矢大臣とは、神社の門に配置される二体の神像のことで、左側の弓矢を持っている像のことを言います。神無月でちょうど留守にしているので、今のうちに修繕しておこうというユーモアが感じられる句です。
【NO.18】西山泊雲
『 神無月や 雨月の傘に 散る紅葉 』
季語:神無月(冬)
意味:神無月だなぁ。雨で見えない月の夜の傘に紅葉が散っている。
「神無月」「雨月」「散る紅葉」と季語が3つ重なっている句です。雨月と散る紅葉を神無月のある一日に一気に体験している詠嘆があることから、神無月を季語としています。
【NO.19】山口誓子
『 椎の樹の 雨はらはらと 神無月 』
季語:神無月(冬)
意味:椎の樹の葉から雨がはらはらと落ちてくる神無月だ。
椎の樹は常緑広葉樹です。神社によく見られる樹のため、この句が詠まれたのは神社に参拝して急な雨に降られたときのことかもしれません。
【NO.20】炭太祇
『 神無月 旅なつかしき 日ざしかな 』
季語:神無月(冬)
意味:神無月だ。旅をしていた日々が懐かしい日差しだなぁ。
作者は関西を中心に旅をしていたことで有名な俳人です。この「旅」は神の旅と自分自身の旅を掛けて、全てが懐かしいと締めている情緒あふれる句になっています。
以上、神無月に関する有名俳句でした!
今回は、神無月に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
神々に関する俳句や冬の始まりを実感している俳句など、いろいろな意味が神無月という月に託されています。
神々が不在の月とはあまり実感しにくいかもしれませんが、伝統的に続く行事に想いを馳せてぜひ一句詠んでみてください。