短いながらも「17音」のリズムに乗せて、自分の気持ちや感動したことなどを言葉にして表現する俳句。
俳句を組み立てるためには、「一物(いちぶつ)仕立て」または「取り合わせ」の技法が使われているということを、学校の授業で習って聞き覚えがあるのではないでしょうか。
実家にきれいな鬼灯がいけてあったのにつまらん句しか出てこない!
一物仕立ては難しい・・・ぐぬぬぬ。
(←取り合わせならスラスラ詠めるわけでもない) pic.twitter.com/xp9Wz2OwlU— あるきしちはる (@arukishi) July 18, 2015
これらの技法は、どういったものなのかを理解するのが難しいと思っている方も多いと思います。
そこで今回は、この「一物仕立て」と「取り合わせ」の違いについてスポットを当てて、簡単にわかりやすく解説していきます。
目次
「一物仕立て」と「取り合わせ」の違い
俳句を組み立てるときには、ルールとして取り決められたパターンがあります。
そのパターンには、一句に対して「一物仕立て」と「取り合わせ」のどちらか一つの構成が使われています。
これらの違いを単刀直入に言うと、『題材』が「一つ」なのか「二つ」なのかの違いです。
- 「一物仕立て」・・・題材が一つ(=一つの季語に対して句を詠む)。【例:松虫の 耳をくすぐる 響きかな】
- 「取り合わせ」・・・題材が二つ(=季語とは結び付かない言葉を取り入れ詠む)。【例:恋に落ち ブランコ揺れて 流れ星】
では、次に例を交えながら、それぞれを詳しく解説していきましょう。
「一物仕立て」とは
一句として詠むときの題材が「一つ」です。
しかし、題材には何を選んでも良いというわけではありません。必ず「季語」である必要があります。
【例】 松虫の 耳をくすぐる 響きかな
この句の解釈:松虫の「ちんちろりん」という凛とした鳴き声が、耳をくすぐるように聞こえてきて、こそばゆく感じながらも、その響きに耳を傾けている様子を表現した一句です。
このような一句にすると「題材」が『松虫』に定まり、季語を一つに絞ることができます。
一つの季語に対して句を詠むことが、「一物仕立て」における最大のルールです。
題材を決めたら季語を一つに定めて、その情景や情緒を17音に託して表現しましょう。
※「一物仕立て」では二つの季語を重ねず、一つの季語に絞りましょう。
「取り合わせ」とは
一句として詠むときの題材が「二つ」あります。
組み立て方としては、まず最初に必ず「季語」を一つ入れましょう。残りのフレーズには、季語と結び付かない「無関係な事柄」を入れてください。
【例】 恋に落ち ブランコ揺れて 流れ星
この句の解釈:片思いの相手を心に描きながらブランコに揺られ、ふと見上げた夜空に流れ星が瞬いて消えていった様子を描き、恋の成就を願って揺れる「淡い恋心」を表現した、ほんの少しだけロマンチックな一句です。
この句の題材は『流れ星』で「秋の季語」です。
残りのフレーズとなる12音が、『恋に落ち』『ブランコ揺れて』になっています。
このように、「季語」とは結び付かない言葉を取り入れると良いでしょう。
つながりがないように見えても、そこにはきちんと意味があり、情景が浮かんでくることと思います。
この予想外な展開による組み立て方が、「取り合わせ」の一句の特徴です。
【CHECK!】「取り合わせ」のBadな一句
例:きらめいて すぐに消え去る 流れ星
この句の解釈:キラリときらめいて、一筋の流れた軌跡を残しながら、一瞬のうちに儚く消え去っていった流れ星の情景を描いた一句です。
この句の題材は『流れ星』で「秋の季語」です。
そして、季語とは結び付かない12音が『きらめいて』『すぐに消え去る』になります。
しかし、これだと季語との関連性が強いフレーズとなり、「取り合わせの句」というよりも「一物仕立ての句」になっています。
実際に同じ季語を使って「一物仕立て」と「取り合わせ」の句を作って比較しよう
では最後に、同じ季語を使った「一物仕立て」の句と「取り合わせ」の句を比較してみましょう。
①一物仕立ての句
【例】 明かり待つ 月見団子に ちらし寿司
この句の解釈:十五夜の祝いに並べた「月見団子」と「ちらし寿司」が、月明りに照らされている様子を描いた風流な一句です。また、いまかいまかと月明りを待つ家族を、団子や寿司に例えているとも言えるでしょう。
ワンポイント①:テーマとなる季語は一つ。
ワンポイント②:季語に「結び付く」情景や動作などに焦点を当てて、「描写するようなイメージ」で言葉を組み立てています。
②取り合わせの句
【例】 飼い猫が 月見団子に 忍び寄り
この句の解釈:十五夜を祝っているとペットとして飼っている猫が登場し、月見団子の甘い匂いに誘われて忍び寄ってくる様子を描いています。さらには、その後の展開を自由な想像に任せてくれるという、なんともコミカルでユーモラスのある一句です。
ワンポイント①:テーマとなる季語は一つ。
ワンポイント②:季語と「結び付かない」言いまわしで表現しながら、「深読みしていくと意味がつながってくるような感覚」で、言葉を組み立てています。
一物仕立ての有名な俳句【おすすめ5選】
【NO.1】水原秋桜子(みずはら-しゅうおうし)
『 冬菊の まとふはおのが ひかりのみ 』
意味:多くの草花が枯れる頃に咲く冬菊、寒い日々の中で身にまとっているのは、陽を浴びて放つ、自分自身の光で彩られた衣装だけなのでしょうか。
【NO.2】高浜虚子(たかはま-きょし)
『 白牡丹と いふといへども 紅ほのか 』
意味:花の名前は「白牡丹」とは言うものの、うっすらとほのかに紅が差しています。
【NO.3】与謝蕪村(よさ-ぶそん)
『 春の海 終日(ひねもす)のたり のたりかな 』
意味:あたたかな季節を迎える頃、清々しい青い空が澄み渡る麗らかな春の海では、ゆるりと寄せては返す波が、丸一日中ずっと穏やかに優しく波打っています。
【NO.4】松尾芭蕉(まつお-ばしょう)
『 名月や 池をめぐりて 夜もすがら 』
意味:夜空に浮かぶ美しい中秋の名月を眺めつつ、明かりを浴びて月を映す池にも趣があり、夜どおし感動しながら散歩してしまいました。
【NO.5】松尾芭蕉(まつお-ばしょう)
『 びいと啼く 尻声悲し 夜の鹿 』
意味:びぃ~~~…と、牡鹿(おじか/♂)が女鹿(めじか/♀)を呼ぶときの甲高い鳴き声が、尾を引いて細長く聞こえてくると、夜の静けさと相まって、なんとも悲し気に感じてしまいます。
取り合わせの有名な俳句【おすすめ5選】
【NO.1】水原秋桜子(みずはら-しゅうおうし)
『 旅の夜の 茶のたのしさや 桜餅 』
意味:歩き疲れた旅の夜に身を寄せた茶店で、茶のぬくもりと桜餅の甘さで疲れを癒して、店にいる誰かと言葉を交わすことができるのも、旅の楽しみの一つです。
【NO.2】高浜虚子(たかはま-きょし)
『 虹立ちて 雨逃げて行く 広野かな 』
意味:空に七色の虹が立ち、さきほどまでの雨は降りやんで、ただただ野原だけが目の前に広がっています。
【NO.3】小林一茶(こばやし-いっさ)
『 名月を とってくれろと 泣く子かな 』
意味:煌々と明るく輝きを放つ十五夜の月。その美しさに心を奪われた子供は、「お月様を取ってください」と、おねだりをしてきます。しかし願いを叶えてあげられるはずもなく、ついに子供は泣き出してしまいました。
【NO.4】小林一茶(こばやし-いっさ)
『 やせ蛙 負けるな一茶 これにあり 』
意味:弱々しく見える痩せ細った蛙さん、どうか負けないでおくれ。私がここで声援を送っていますよ。
【NO.5】正岡子規
『 柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺 』
意味:旅で法隆寺を訪れたとき、休憩のついでに柿を食っていたら、偶然にも鐘の鳴る音が聞こえてきました。
さいごに
では最後に、今回のテーマを簡潔にまとめましょう。
- 「一物仕立て」は、『一つの季語に関連した内容』のみで組み立てています。
- 「取り合わせ」は、『一つの季語プラス関連性のない言い回し』を組み合わせています。
本文中に、それぞれのポイントを挙げながら例として詠んだ俳句を載せていますので、参考になりましたら幸いです。
最初は難しく考えなくても、言葉遊びをするような感じで構いません。ポイントを当てはめながらチェックしていくと面白いですし、理解も深まるでしょう。