夏至(げし)は季節の指標である二十四節気の1つで、1年のうちで最も昼の時間が長い日です。
夏至には、夏に「日長きに至る(きわまる)」日という意味があると言われています。夏至は毎年6月21日・22日ごろに訪れ、ちょうど梅雨の最中のため雨を詠む句も多くあります。
毎年6月21日前後は、年間で最も昼が長くなる頃。二十四節気ではこの日を、夏に至ると書いて『夏至(げし)』と定めています。多くの地域では、梅雨真っ只中。こんな日は家でビールを飲みつつゲームでも。
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今回は、そんな「夏至(げし)」に関する有名俳句を20句ご紹介します。
夏至に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】三宅嘯山
『 日枝を出て 愛宕に夏至の 入日哉 』
季語:夏至(夏)
意味:比叡山を出た太陽は愛宕山に沈むのが夏至の夕日であることだ。
京都盆地は東に比叡山、西に愛宕山がある立地です。「日枝」とは比叡山の意味で、京都の東と西を山で表現しています。
【NO.2】正岡子規
『 のびきつて 夏至に逢ふたる 葵かな 』
季語:夏至(夏)
意味:伸びきって夏至に間に合った葵の花だなぁ。
葵は下から花をつけていく植物です。上まで咲かなければ部屋の中からは見えないため、夏至の日までに上まで花をつけて「夏至に逢ふたる」状態になったことを詠んでいます。
【NO.3】正岡子規
『 夏至過ぎて 吾に寝ぬ夜の 長くなる 』
季語:夏至(夏)
意味:夏至が過ぎて、私は眠れない夜が長くなっていく。
夏至は1年のうちで最も夜の短い日です。夏至から徐々に夜が長くなっていきますが、この句を詠んだときの作者は病床にいたため、1人眠れない夜が長くなっていくことを嘆いています。
【NO.4】高浜虚子
『 夏至今日と 思ひつつ書を 閉ぢにけり 』
季語:夏至(夏)
意味:夏至は今日だったと思いながら本を閉じた日だ。
本を読んで熱中している様子が読み取れます。ふと気がつくとまだ日が高く、そういえば今日は夏至だったかと思い至る経験がある人もいるのではないでしょうか。
【NO.5】長谷川かな女
『 竹青く 磨ける夏至の 流れかな 』
季語:夏至(夏)
意味:竹を青く磨いているような夏至の日の川の流れであることだ。
清流の傍の竹林といういかにも涼し気な風景が浮かんでくる句です。1番昼の長い夏至の光がより一層竹の青さを際立たせています。
【NO.6】飯田蛇笏
『 白衣着て 禰宜(ねぎ)にもなるや 夏至の杣(そま) 』
季語:夏至(夏)
意味:白い衣を着ると、まるで神に仕える禰宜にもなるのが面白い。夏至の日の木こりよ。
「禰宜」とは神職の1つ、「杣」とは木こりのことです。夏至の頃は神事が忙しいため、ただの木こりでも白い着物を着れば神職に早変わりする面白さを詠んでいます。
【NO.7】飯田蛇笏
『 ハープひく 漁港の船の 夏至白夜 』
季語:夏至(夏)
意味:ハープをひく漁港の船は夏至の白夜をこえてきたのだろうか。
【NO.8】原石鼎
『 夏至の日の 幽かに聴こゆ 馬の鈴 』
季語:夏至(夏)
意味:夏至の日に微かに聴こえる馬の鈴だ。
「馬の鈴」とは荷物を運ぶ馬に取り付けられる馬具に付ける鈴です。最近では見かけなくなりましたが、観光地などで馬を歩かせているときはカランカランと鈴の音をさせながら歩く馬の姿を見られます。
【NO.9】原石鼎
『 緞帳(どんちょう)を たれてピアノや 夏至籠 』
季語:夏至(夏)
意味:緞帳を垂らしてピアノを弾こう、暑い夏至は家に籠るに限る。
「緞帳」とは舞台と客席を区切る幕のことです。ここでは「緞帳を垂らす」ことで家の中にこもって思う存分ピアノを弾いている様子を詠んでいます。
【NO.10】臼田亜浪
『 心澄めば 怒濤(どとう)ぞ聞こゆ 夏至の雨 』
季語:夏至(夏)
意味:心を澄ませると、怒涛のように聞こえる夏至の雨である。
「怒濤」とは荒れ狂う大波という意味です。夏至は6月下旬のため梅雨の最中であることが多く、まるで大波のような音を立てて雨が降ることもあります。
夏至に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】臼田亜浪
『 禁煙す 夏至の夕べの など永き 』
季語:夏至(夏)
意味:禁煙している夏至の夕べのなんと長いことか。
夏至は夜が最も短い日ですが、禁煙している人にとってはそんな短い夕方から夜もとても長いもののように感じるようです。「など」と強調しているところから嘆きが伝わってきます。
【NO.12】百合山羽公
『 萍(うきくさ)や 夏至の太陽 やや西に 』
季語:夏至(夏)
意味:浮草が浮いている。夏至の太陽はやや西に傾いた。
川や池の浮草をながめていると、太陽が西に傾くほど時間が経っていたという光景を詠んでいます。夏至は水草も生い茂る季節なので、観察していたのでしょうか。
【NO.13】皆吉爽雨
『 空にふと 蛾を追ふ雀 夏至夕べ 』
季語:夏至(夏)
意味:空をふと見上げると、蛾を追う雀が飛んでいる夏至の夕べだ。
【NO.14】高木晴子
『 お人柄 惜しみつ仰ぐ 夏至の月 』
季語:夏至(夏)
意味:亡くなった方のお人柄を惜しみつつ仰ぐ空に夏至の月が出ている。
夏至は6月21日前後という梅雨の最中のため、空梅雨でない限り月が出ることはめずらしい日です。亡くなった方の人柄を表すように煌々と月が照っていたのでしょう。
【NO.15】桂信子
『 泛子(うき)沈む 水のくぼみも 夏至の昼 』
季語:夏至(夏)
意味:浮きが沈む川の中の水のくぼみも夏至の昼の太陽に照らされている。
「泛子」とは釣りで使う浮きのことです。浮きを沈めた川の中のくぼみに、昼時になってちらちらと光がさしてきている様子が浮かんできます。
【NO.16】草間時彦
『 飯食ひに 出て肩濡るる 夏至の雨 』
季語:夏至(夏)
意味:食事を食べに外に出たら雨が降ってきて肩が濡れた夏至である。
夏至はまだ梅雨の最中のため、雨が上がっていてもすぐに降り出すことがあります。作者は晴れているからと傘を持たずに食事に出たのでしょう。
【NO.17】阿部みどり女
『 枝を伐る 夏至の日深く 響きたり 』
季語:夏至(夏)
意味:枝を切る音が、夏至の日はいっそう深く響いている。
「深く」という表現から、街路樹などの伐採ではなく森の中の間伐の光景が浮かんでくる句です。青々とした緑の中で、木を切る音が遠くまで響いています。
【NO.18】右城暮石
『 つくづくと ひとりの我が歩 夏至歩く 』
季語:夏至(夏)
意味:しみじみと1人で歩く私の歩みだ。夏至の日も外を歩く。
「つくづくと」とはしみじみと、ぼんやりとという意味です。ここでは「我が歩」と言い切っていることから、ぼんやりではなくしみじみとという意味に取りました。
【NO.19】角川源義
『 金借りに 鉄扉(てっぴ)重しや 夏至の雨 』
季語:夏至(夏)
意味:お金を借りに開ける鉄の扉が重いなぁ。夏至の雨が降っている。
夏至である6月は四半期の決算の月です。作者は経営者でもあったため、金勘定には頭を痛めていたのかもしれません。気の重さがそのまま鉄の扉の重さにつながっています。
【NO.20】岡本眸
『 夏至の日の 手足明るく 目覚めけり 』
季語:夏至(夏)
意味:夏至の日の朝だ。手足が明るく軽くなったように目が覚めた。
季節がちょうど半分巡ったという、特別な一日を実感している朝の心情です。季節の変わり目に自分の手足も明るく輝いているようなさわやかさを感じます。
以上、夏至に関する有名俳句でした!
今回は、夏至に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
夏至は昼の長さと梅雨の季節という2つの要素があるため、詠む人によって心情が変わる句が多いのが特徴です。
雨の降り続く季節ですが、これから少しずつ日が短くなっていく季節に思いを馳せて一句詠んでみてはいかがでしょうか。