人生の中で「卒業」というものを何度も経験すると思います。
卒業することは、別れることの寂しさと同時に、これからの新しい未来への期待や不安、さまざまな感情が入り混じって複雑な気持ちになります。
今回は、「卒業」について有名俳人が詠んだ有名句を30句紹介していきます。
「不合格しづかに踵かへしけり〉(井出野浩貴)
「一人だけ口とがらせて入学す」(福島 胖)「卒業す翼持たざる者として」(井出野浩貴)
「卒業の涙はすぐに乾きけり」(今橋眞理子)
「卒業期もつとも遠き雲の朱」(能村登四郎)
「運命は笑ひ待ちをり卒業す」(高浜虚子)— ルーシュン5.3 (@luxun1000) April 1, 2015
卒業に関するおすすめ有名俳句【前編10句】
【NO.1】今橋眞理子
『 卒業の 涙はすぐに 乾きけり 』
季語:卒業(春)
意味:卒業式での涙はすぐに乾いてしまう。
卒業式で教え子を送り出し、たくさんの涙を流す。でもその涙はすぐに乾いてしまう。そう聞くと少々さっぱりしすぎていて寂しく感じます。しかし、こちらを振り向くことなく新しい未来へ前を向いて進んでいってほしい、と願う気持ちからくるものだと思うと、先生の深い愛情ととてもあたたかい想いを感じます。
【NO.2】山口誓子
『 卒業の 日の病棟に 在る患者 』
季語:卒業(春)
意味:卒業式の日に病院に入院している患者がいる。
病院に入院中の患者さんはその年に卒業を迎える方なのかもしれません。卒業式の日、その患者さんはもちろん病室にいる。卒業という晴れやかで明るい日にそれとは対照的なような環境にいる患者さんの想いを考えるととてもつらい気持ちになります。
【NO.3】橋本榮治
『 棒切れの ごとき記念樹 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:まだ棒切れのような記念樹を植えて卒業した。
卒業に際して、生徒皆さんで記念樹を植えたのでしょう。まだまだ「棒切れの」ような記念樹。卒業後、きっと生徒皆さんと同じようにぐんぐん成長していくことでしょう。次に生徒皆さんで会う時が楽しみですね。
【NO.4】宮田珠子
『 卒業の 前夜に流す 涙かな 』
季語:卒業(春)
意味:卒業式の前夜に涙を流す。
卒業式を翌日に控え、今までの学校生活のこと、友達のこと、先生のこと。きっとさまざまなことを思い出し、胸にぐっとくるものがあったのでしょう。良い思い出だけでなく、嫌な思い出もあったかもしれません。でもそれら全てが自分の中に心の糧として残っていくのではないでしょうか。
【NO.5】富安風生
『 ともかくも 卒業したる めでたさよ 』
季語:卒業(春)
意味:とにかく卒業することができたのでめでたいことである。
卒業できるかどうか、少々難しい状況だったのでしょうか。もしかしたら成績内容的に足りない、もしくはぎりぎりだったのかもしれませんね。「ともかくも」に作者の安堵した想いがしっかりと込められているように思います。
【NO.6】林昌華
『 門柱を 撫で振返る 卒業子 』
季語:卒業子(春)
意味:門柱を撫でながら振り返る卒業生たち。
「卒業子」は「そつぎょうし」と読み、卒業する学童・学生のことをいいます。卒業式を終えた後でしょうか。何度も通った学校の門柱。その門柱に触れ別れを惜しみながら、改めて学校を振り返ったのでしょう。自分の心の中に大切な思い出としてしっかりと刻み込まれたのではないでしょうか。
【NO.7】黛まどか
『 交換日記 少し余して 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:交換日記を少し残して卒業した。
【NO.8】稲畑汀子
『 卒業の 子の行く道は あるがまゝ 』
季語:卒業(春)
意味:卒業する我が子の進む道はあるがままである。
卒業する我が子への想いを詠んでいます。卒業したあとどのような道を進んでいくのか、親としては気になるところだと思います。でも作者は、我が子が進む道は我が子が決めること、自然にみえてくるはず、と我が子のことを真っすぐに信じています。とても深い愛情を感じます。
【NO.9】赤澤新子
『 校長と 初めて握手 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:校長先生と初めて握手をし卒業した。
個々それぞれ、さまざまなタイプの校長先生がいると思います。積極的に関わる方もいれば、一番後ろからどしっと見守る方、いざという時に一番前に立つことができる方、いろいろですね。卒業式の日、今まで校長先生とお会いしたことがあったのかは分かりませんが、「初めて握手」したことがとても印象に残っているのでしょう。確かに、校長先生と握手するような機会はなかなかないですよね。
【NO.10】石田桂郎
『 口に出て われから遠し 卒業歌 』
季語:卒業(春)
意味:卒業式での歌がふと口をついて出た、自分にとって遠い昔のことである。
口をついて出た懐かしい卒業歌。歌っているうちに、自分にとって遠い日である卒業式のことを思い出した作者。懐かしい思い出に浸りつつ、もう二度と自分自身が卒業式で歌うことがない年齢になっていることを改めて感じたのでしょう。胸の奥の方が少し痛くなるような一句です。
卒業に関するおすすめ有名俳句【中編10句】
【NO.11】森田峠
『 なんとよく 泣くよ今年の 卒業子 』
季語:卒業(春)
意味: 今年の卒業生はなんてよく泣くのだろう。
受け持つクラスによって個性があり、カラーがあります。学年によって雰囲気が全く違います。作者が今年受け持ったクラスは、卒業式にてとてもよく泣くクラスだったのでしょう。クラスの生徒たちと作者、深い絆と愛情があったのではないでしょうか。
【NO.12】中村草田男
『 校塔に 鳩多き日や 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:校塔を見上げると今日はなんて鳩がたくさんいることかと思い卒業した。
「校塔」とは、中村草田男氏の造語で、時計塔等高くそびえる学校施設をイメージしている、とされています。卒業式の日、ふと高くそびえる学校を改めて見上げてみると驚くほどたくさんの鳩がいたのでしょう。自分たちの新しい一歩、門出を祝福してくれているように感じたのではないでしょうか。
【NO.13】蔦三郎
『 起立礼 起立礼して 卒業す』
季語:卒業(春)
意味:起立礼、起立礼をして卒業した。
【NO.14】本井英
『 天井を 見て卒業の 歌うたう 』
季語:卒業(春)
意味:天井を見て卒業の歌を歌う。
卒業式。さまざまな卒業の歌がありますね。「天井を 見て」歌うのは何故でしょうか。天井を見ていないと、涙がたくさんこぼれ落ちてしまうから、ではないでしょうか。卒業の歌に誘われて涙が止まらない状態なのでしょう。そのくらい素敵な学校生活だったのでしょうね。
【NO.15】山口青邨
『 卒業の 窓に垂れたり 絲桜 』
季語:卒業(春)
意味:卒業の日に窓に垂れていた絲桜。
「絲(いと)」は「糸」の旧字体です。そして「絲桜」はシダレザクラの別名です。卒業式の日の窓から見えたシダレザクラの美しさがとても深く心に残っているのでしょう。シダレザクラを見るたびに、学校生活のこと・卒業式のことを思い出すことでしょう。
【NO.16】上崎暮潮
『 学帽を 天に投げ上げ 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:学生帽を天に投げ上げて卒業した。
卒業式の日、生徒皆が学生帽を空に高く投げ上げる。映画のワンシーンのような素敵な光景ですね。卒業式にこのようなことを伝統的に行う学校もあるようで開放や喜び等の意味があるようです。卒業という大きな節目を迎え、新しい一歩を踏み出す。大きな不安もあると思いますが、そのような想いを振り切るような気持ちもあるのかもしれませんね。
【NO.17】稲畑汀子
『 末の子の 見上ぐる背丈 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:末の子は見上げるほどの背丈になり卒業した。
一番小さな末っ子さん。その末っ子さんが卒業の日を迎え、いつの間にか母親の背丈を大きく超えていたのでしょう。「見上ぐる背丈」という言葉にはお母様の、「大きくなったなぁ」という成長の喜びと共に、「もうこんなに大きくなってしまったのね…」という寂しさも込められているように感じます。
【NO.18】吉原文音
『 夢のたね 文集に蒔き 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:夢のたねを文集にまいて卒業した。
卒業に際して、生徒皆さんで卒業文集を制作したのでしょう。きっと将来の自分を想像しながら、こんな風になっていたい・このような仕事したい・こういうことをしたい…等、さまざまな「夢」を思い描きながら書いたことでしょう。「夢のたね」という言葉がとても素敵で心があたたかくなります。
【NO.19】上村占魚
『 卒業に 下宿の荷物 まとめけり 』
季語:卒業(春)
意味:卒業に際し下宿の荷物をまとめた。
学校に通うにあたってずっと下宿をしていたのですね。3年間、きっといろいろ大変なことや辛いこともあったのではないでしょうか。そして卒業式の日を迎え、いよいよ下宿先から離れるために荷物をまとめる。さまざまな思い出が心の中にこみあげてきているのではないでしょうか。
【NO.20】田口風子
『 下駄箱の 別れそのまま 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:下駄箱で別れてそのまま卒業した。
下駄箱での 別れ。とても気になる言葉ですね。気になる人に告白したのでしょうか、お付き合いしていた人とお別れしたのでしょうか。いずれにしても、下駄箱でお別れをしてその後そのまま会うこともなく卒業の日を迎えたのでしょう。心の奥が少し痛くなるようなとても切ない一句です。
卒業に関するおすすめ有名俳句【後編10句】
【NO.21】高浜虚子
『 運命は 笑ひ待ちをり 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:運命は笑って待っているぞ、今日卒業する学生たちよ。
たとえ無事に卒業出来たとしても、その後の運命はわからないという戒めの一句です。景気や会社の状況など一筋縄ではいかない今後を運命が笑って待つと表現しています。
【NO.22】秋元不死男
『 卒業や 楊枝で渡す チーズの旗 』
季語:卒業(春)
意味:卒業式だなぁ。チーズに刺さっていた楊枝を旗に見立てて渡そう。
「チーズの旗」とはお子様ランチの上にあるような楊枝に国旗のついた旗をイメージしています。実際はおつまみに刺さったただの楊枝だったのでしょうが、社会人から卒業生へ激励の意味を込めて旗に見立てて渡している一句です。
【NO.23】能村登四郎
『 たはやすく 教師忘らる 卒業後 』
季語:卒業(春)
意味:卒業したあとは容易く教師の顔は忘れられるものだ。
この句は忘れる学生か忘れられる教師かで印象が変わってきます。新生活であっという間に学生時代の記憶が朧気になったのか、何人も送り出してきてすぐ忘れてしまうさと笑っている教師の顔を思い浮かべるか、どちらの解釈でも可能です。
【NO.24】西村和子
『 ひらき見す 卒業証書 墨匂ふ 』
季語:卒業証書(春)
意味:開いてみた卒業証書はまだ墨の匂いがする。
現在は印刷になっているところが多いかもしれませんが、かつては、卒業証書は墨で書かれていました。まだ墨の匂いが残る卒業証書を手に、これからの道行きにワクワクしている様子を詠んでいます。
【NO.25】高浜虚子
『 一を知つて 二を知らぬなり 卒業す 』
季語:卒業(春)
意味:卒業しても、一を知って二のことを知らないように、まだ物事の片方しか見られていないのだ。
この句は学校を卒業しても自分の見識の浅さを自覚しなければならないという自戒の句です。学校と社会人は別物であり、これから社会の荒波にもまれる学生たちを激励しています。
【NO.26】加藤楸邨
『 卒業す 片恋少女 鮮烈に 』
季語:卒業(春)
意味:卒業していく片思いをしている少女の姿が鮮烈にうつる。
片思いをしたまま卒業していく少女を「片恋少女」と文学作品のように表現しています。どんなに強い恋心を抱いていても、進路が別れてしまうため心に秘めたまま卒業する姿を鮮烈と詠んでいます。
【NO.27】福田蓼汀
『 卒業の この門出でて いづくへか 』
季語:卒業(春)
意味:卒業のこの門を出て何処へいくのか。
【NO.28】芝不器男
『 卒業の 兄と来てゐる 堤かな 』
季語:卒業(春)
意味:卒業した兄と来ている堤だなぁ。
卒業の時期であるため、兄と共に堤防沿いに咲いている桜を見に来たのかもしれません。兄は卒業式のまま来たとしたら、リボンや卒業証書をそのままにして弟と桜を見に来ていることになります。お互いに思うことがある情緒を感じる句です。
【NO.29】上村占魚
『 卒業の 子のむすびたる リボンかな 』
季語:卒業(春)
意味:卒業する子に結ばれているリボンが揺れているなぁ。
卒業式のときは、卒業生の胸に特別なリボンを結ぶ学校も多いでしょう。今日こそ卒業なのだとそのリボンを見て改めて感動しているようすが詠嘆の「かな」から感じ取れます。
【NO.30】高浜年尾
『 卒業の 校歌に和せる 老教授 』
季語:卒業(春)
意味:卒業式の校歌を共に歌う老教授だ。
年老いた先生は、何回卒業式で校歌を歌い卒業生を送り出してきたのかとしみじみする一句です。
以上、卒業に関するおすすめ有名俳句でした!
今回は、卒業に関する有名俳句を30句紹介しました。
卒業することは悲しくて寂しくて辛い…、マイナス的な感情があると思います。しかし、その先にはきっと新しい環境・場面での新たな出会い等があり、未来への期待があります。
「卒業」への想い、是非17文字の世界に想いをのせてみてください。