「春分(しゅんぶん)」は季節の指標である二十四節気の1つで、現在のカレンダーでは3月21日前後を指します。
太陽が真東から昇り真西に沈んで、昼と夜の長さがほぼ等しくなる日で、春のお彼岸の中日でもあります。
春分【しゅんぶん】
年に2回、昼と夜の時間が同じになる日を、春は春分の日。この日を中日に前後3日の間をお彼岸と呼びます。お彼岸は、もともとは我が国の伝統的な祖先を敬い大切にする信仰に由来しており、御先祖をお祭りします。またこの日に宮中において春季皇霊祭がとりおこなわれます。 pic.twitter.com/O2ZIJ472lu
— 護国貫徹 バッキー (@backy78) March 17, 2017
今回は、そんな「春分」を季語に含む有名俳句を20句ご紹介します。
春分に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】飯田蛇笏
『 春分を 迎ふ花園の 終夜燈(しゅうやとう) 』
季語:春分(春)
意味:春分を迎える花園の一晩中付けられている終夜燈よ。
「終夜燈」とは夜通しつけておく明かりのことです。お花見のために終日明かりがつけられている幻想的な風景を詠んでいます。
【NO.2】飯田龍太
『 春分の 湯にすぐ沈む 白タオル 』
季語:春分(春)
意味:春分の日のお風呂にすぐ沈む白タオルよ。
自宅のお風呂でタオルを沈めて遊んだことのある人も多いのではないでしょうか。春分という季節の境目では、何もかも特別に見えるのかもしれません。
【NO.3】萩原麦草
『 春分や 遠くの農夫 藁(わら)梳(す)ぐる 』
季語:春分(春)
意味:春分の日だなぁ。遠くに見える農夫は藁を梳いている。
藁は畑に肥料として与えたり、縄を作るための材料にしたりと多くの用途があります。この農夫がどの用途で藁を梳いていたのかはわかりませんが、農家にとっては大切な作業でした。
【NO.4】秋元不死男
『 雨着透く 春分の日の 船の旅 』
季語:春分の日(春)
意味:雨具が透けてきた、春分の日の船の旅だ。
雨の日に甲板に出て濡れたのか、水しぶきで濡れたのか解釈の分かれる句です。どちらにせよ、雨具越しに濡れても寒くなく爽快感のある季節だということがわかります。
【NO.5】林翔
『 春分の 日なり雨なり 草の上 』
季語:春分の日(春)
意味:春分の日に雨が降っている。そんな雨を草が優しく受け止めているのだ。
「日なり」「雨なり」と断定の「なり」を連続させたところで「草の上」と着地させる技法が見事な一句です。柔らかな春の草が際立つ構成になっています。
【NO.6】星野麦丘人
『 春分の おどけ雀と 目覚めけり 』
季語:春分(春)
意味:春分の日に遊んでいる雀たちの声で目覚めたことだ。
春分は二十四節気の1つですが、同時に七十二候の「雀始巣(すずめはじめてすくう)」の期間でもあります。巣作りを始めた雀たちの賑やかな鳴き声で目覚めた春ならではの風景です。
【NO.7】百合山羽公
『 春分も 棒一本の 浅蜊掻(あさりがき) 』
季語:春分(春)
意味:春分の日でも、棒を1本持ってアサリを取りに行く。
【NO.8】宇佐美魚目
『 春分や 手を吸ひにくる 鯉の口 』
季語:春分(春)
意味:春分だなぁ。池に手をかざすと吸いに来る鯉たちの口よ。
鯉は餌を食べるとき、まるで吸い付くように水面に口を出します。餌の時間と勘違いした鯉たちと、そんな鯉の様子をながめている作者ののどかな光景です。
【NO.9】行川行人
『 春分の 入日笹子に 今滾(たぎ)つ 』
季語:春分(春)
意味:春分の日の夕日に、まだ整わない鳴き声をしていた鶯が今こそ滾るような鳴き声をあげた。
「笹子(ささこ)」とはまだ整わない鳴き声をする鶯のことで、冬の季語です。春分という日にようやくきちんとした鳴き声をあげるようになった鶯を想像して詠んだ句になります。
【NO.10】市ヶ谷洋子
『 木々の芽に 春分の日の 雨軽し 』
季語:春分の日(春)
意味:芽吹き始めた木々の新芽に、春分の日の雨は軽やかに落ちていく。
3月下旬は徐々に新芽が出てくる時期です。春は雨が多い季節でもありますが、「軽し」という表現から小雨や霧雨が連想されます。
春分に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】藤井寿江子
『 ギターの音 春分の日の 寺にかな 』
季語:春分の日(春)
意味:ギターの音が春分の日の寺の方から聞こえてくるなぁ。
「寺にかな」という表現から、お寺から確実に聞こえてくるというよりは、境内や近くの広場などで弾いているのかもしれないといったニュアンスを感じます。暖かい春になり、ギターの音楽が聞こえてきて楽しさを感じる句です。
【NO.12】山田みづ
『 春分の 日をやはらかく ひとりかな 』
季語:春分(春)
意味:春分の日の柔らかな日の光を一人で堪能していることだ。
「日」が春分という日付と、日の光の両方に掛かっています。春は花見や宴会など大勢で集まる機会の多い季節ですが、作者は一人の時間を堪能しています。
【NO.13】安養白翠
『 春分の 日の切株が 野に光る 』
季語:春分の日(春)
意味:春分の日の切り株が野原に光っている。
【NO.14】皆川盤水
『 春分の 田の涯(はて)にある 雪の寺 』
季語:春分(春)
意味:春分の日の田んぼの先にある雪をかぶったお寺よ。
3月下旬は基本的に暖かい日が続きますが、まれに雪が降るほど寒い日になることがあります。また東北地方などの雪が深い場所では積雪が溶けきっていないため、田んぼと雪の積もったお寺という風景を見ることが可能です。
【NO.15】宮坂静生
『 春分の 雨に曝(さら)して 魚箱 』
季語:春分(春)
意味:春分の日の雨にさらそう、この魚箱を。
「魚箱」とは鮮魚を入れて輸送する箱で、作者の時代には木製のものが主流でした。魚を入れたままでは痛むので、魚の入っていない箱が雨に野ざらしにされていたのでしょうか。
【NO.16】中村棹舟
『 春分の 西も東も 海ばかり 』
季語:春分(春)
意味:春分の日は西も東も海ばかり見える。
春分は昼と夜がほぼ同じ長さになる日です。海で西と東と言われると夕日や朝日を連想しますが、広い海を前にどちらを見ていたのか想像がふくらむ句です。
【NO.17】鈴木竜骨
『 春分や 呆じてゐたる 渕の龍 』
季語:春分(春)
意味:春分だなぁ。暖かな春の日にほうけている渕の龍よ。
「渕の龍」とは川や滝などで祀られる龍神のことでしょう。いかめしい龍でも春分の暖かさにぼうっとしてしまうのではないかという空想を元に詠まれています。
【NO.18】櫻井博道
『 春分の 滑り台より 眼鏡の子 』
季語:春分(春)
意味:春分の日の公園で、滑り台からメガネの子が滑ってきた。
公園で遊ぶ子供たちを見ての一句です。公園の滑り台の中にはカーブしているなどで誰が降りてくるかわからないものもあるため、そんな滑り台を見て詠まれています。
【NO.19】岡井省二
『 春分の 昼の鏡に ゆらぎをり 』
季語:春分(春)
意味:春分の日の昼の鏡に揺らぎがある。
風が吹いたのか、木漏れ日などで光が遮られたのか、春分ののどかな風景を連想させる句です。鏡越しに映る風景がどんなものなのか、読む人によって変わってくる句でもあります。
【NO.20】松岡ひでたか
『 正午さす 春分の日の 花時計 』
季語:春分(春)
意味:正午をさしている春分の日の花時計だ。
「花時計」とは花壇と時計が一体になったもので、モニュメントとして設置されていることが多いです。昼と夜の長さが等分になる日の正午という、少し特別な時間を目撃した嬉しさが伝わってきます。
以上、春分に関する有名俳句でした!
今回は、春分に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
春分という春の風景や、雪深い地域の残雪や春に降る雪と共に詠まれるなど、あまり他の季語では見られない表現が多いのが特徴です。
春分の日が暖かな日か極端に寒い日かその年によって変わってきますが、その年らしい春分の日を題材に一句詠んでみてはいかがでしょうか。