「清明(せいめい)」とは季節の指標である二十四節気の1つで、新暦ではだいたい4月5日頃を指します。
春になり万物が清らかで明るくなっていく様子を表した二十四節気で、春の真っ只中の時期を表す季語になります。
二十四節気
【清明】せいめい
[時期]4月4日〜19日頃
[意味]明るくすがすがしい空気に満ち.草や木の芽が萌える「山笑う」季節。
変わりやすいお天気に虹があらわれることもあり.桜が散り始め季節は晩春へ移る。
「春の宵」千住博 pic.twitter.com/v9SU2WM96a— ふわふわ🌸 (@fuwa_miffy) April 4, 2016
今回は、そんな「清明」を季語に含む有名俳句を20句ご紹介します。
清明に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】飯田蛇笏
『 清明の 路ゆく媼が 念珠かな 』
季語:清明(春)
意味:清明の日の道を歩くおばあさんの数珠が光っていることだ。
「嫗」とは年老いた女性、「念珠」とは数珠のことです。明るい日差しの元で、おばあさんが持っている念珠がキラリと光る一句になっています。
【NO.2】松瀬青々
『 清明や 翠微(すいび)に岐(わか)る 駅(うまやじ) 』
季語:清明(春)
意味:清明の日だなぁ。遠くに見える山の中腹に向かって別れている街道の道だ。
「翠微」とは遠くに見える薄緑色の山や山の中腹、「駅路」とは宿場など古代の街道の道です。旧街道はしばらくの間現役の道として活躍しているため、その様子を詠んでいます。
【NO.3】阿波野青畝
『 一つ葉や 清明の滝 懸りたる 』
季語:清明(春)
意味:ヒトツバが見えるなぁ。清明の日の清らかな滝がかかっている。
「一つ葉」とは夏の季語にもなっているシダ植物で、岩の上に生えています。滝の上にヒトツバが見えたため、そこに岩場を伴う滝があることがよく浮かんでくる句です。
【NO.4】吉岡禅寺洞
『 鳥ゐるや 清明節の つちくれに 』
季語:清明節(春)
意味:鳥がいるなぁ。清明節の土くれに遊んでいる。
「清明節」は中国から伝わった行事で、清明の日に先祖の墓参りに出かけ,墓前に茶菓子などを供えて半日を飲食する行事のことです。お墓の前でお祭りをしている最中に、鳥が泥遊びをしている様子を見かけたのでしょうか。
【NO.5】甘田正翠
『 清明の 風きらきらと 一里塚 』
季語:清明(春)
意味:清明の風がきらきらと光るような一里塚だ。
「一里塚」とは街道に設置されるもので、一里(約4km)ごとに樹や塚を作って旅人の目安にしたものです。現在まで残っているものは少ないですが、さわやかな風を受けて旅に思いを馳せている一句になっています。
【NO.6】岸風三樓
『 清明の 琴鳴り花火 天に爆づ 』
季語:清明(春)
意味:清明の日の琴が鳴り、花火は天に爆ぜる。
琴を鳴らし、花火を上げるというお祭りのような風景から、清明節を詠んだと思われる句です。地上の琴の音と上空の花火の音を対比させています。
【NO.7】鈴木真砂女
『 清明の 水菜歯ごたへ よかりけり 』
季語:清明(春)
意味:清明の日の水菜の歯ごたえはシャキシャキとしてよいものだ。
【NO.8】西山泊雲
『 清明節の 朝しめりよし 芋を植う 』
季語:清明節(春)
意味:清明節の日の畑は朝の湿り気がよい。芋を植えよう。
芋は春に植え付けを行うものが多いため、「芋を植う」も春の季語となります。この句では、芋を植えるのに最適な朝が清明節の日であったという意味なので、季語は清明としています。
【NO.9】桂信子
『 清明や 街道の松 高く立つ 』
季語:清明(春)
意味:清明の日だなぁ。街道沿いの松がより高く立って見えることだ。
天気の良い日に街路樹として植えられている松を見ての一句です。青空にどこまでも伸びていくような松の様子が浮かんできます。
【NO.10】相生垣瓜人
『 清明の 紛々の雨 先づ聴かむ 』
季語:清明(春)
意味:清明の日のとても細かい雨の音をまず聴いてみよう。
春になり、雨がよく降るようになった日常の風景を詠んでいます。「粉々」という面白い表現から、霧雨のようなあまり大きな音がしない雨の音を感じ取ろうとしている集中力を感じる句です。
清明に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】野澤節子
『 清明の 爆竹ゆする 土饅頭 』
季語:清明(春)
意味:清明節を祝う日の爆竹で揺すられているような土饅頭のお墓だ。
中国の北方のお墓は、土を盛る形式のお墓が多く見られます。清明節で掃除とお供え物をするお祝いの様子が浮かんでくる句です。
【NO.12】大嶽青児
『 清明の 波打ちのべし 上総(かずさ)かな 』
季語:清明(春)
意味:清明の日の波が打ち寄せては離れていく上総の海岸沿いだなぁ。
「上総」とは旧国名の1つで、現在の千葉県市原市や君津市一帯を指す国名でした。東京湾と太平洋どちらにも面しているため、どんな海を詠んだのか想像がふくらむ句です。
【NO.13】皆川白陀
『 校門へ 清明の日の 坂長し 』
季語:清明(春)
意味:校門へ向かおう。清明の日の校門までの坂はいつもより長く感じる。
【NO.14】大峯あきら
『 清明や 木樵(きこり)の庭の 鶏白し 』
季語:清明(春)
意味:清明の日が来たなぁ。木こりの庭で買っている鶏がより白く見える。
明るい印象を与える清明の日と、鶏の白い美しさを対比させている句です。雪が解け、林業も本格化する時期に備えている木こりたちの様子が浮かんできます。
【NO.15】下村ひろし
『 清明や 神域よりの 流れ水 』
季語:清明(春)
意味:清明だなぁ。神社の神域から流れ出す水が清らかなことだ。
「清明」という単語から感じ取る清らかさと、神社という神域から流れ出す水の清らかさが共鳴しているかのような句です。境内に川や池がある神社だったのでしょう。
【NO.16】池田秀水
『 朝風呂を 出て清明の 日なりけり 』
季語:清明(春)
意味:朝風呂を出ると清明の日だなぁと実感する。
さわやかな朝風呂は気持ちがいいものです。朝風呂を出てさわやかな陽気に触れ、春がきたことを実感する句になっています。
【NO.17】猪俣千代子
『 清明の 夜雲送りし 海のうへ 』
季語:清明(春)
意味:清明の夜の雲を送っている海の上だ。
夜中に出ている早い動きの雲が、海に向かって流れていく様子を詠んだ句です。まるで広い海へ送り出されているように雲が動いていく壮大な風景が浮かんできます。
【NO.18】深川正一郎
『 清明に 梅開かんと しつつあり 』
季語:清明(春)
意味:清明の日に梅が花開こうとしている。
梅は4月上旬にはすでに開花を終えていますが、この句が詠まれたのは北の開花が遅い地域かもしれません。東北地方では4月からゴールデンウィークにかけて、多くの春の花が咲き乱れます。
【NO.19】蓬田紀枝子
『 清明や 草引く指に 血が差して 』
季語:清明(春)
意味:清明の日だなぁ。草に触ろうとして切ってしまった指に血が出てきた。
草の葉に触れようとしてうっかり指を切ってしまった経験は誰にでもあるでしょう。冬の枯れ野から草が生い茂る春になったことを怪我で表現する面白い句です。
【NO.20】三木基史
『 清明や 草に投げ出す 旅鞄 』
季語:清明(春)
意味:清明だなぁ。草に旅鞄を投げ出すくらい良い陽気だ。
寒い冬が終わり、暖かく花も咲く春は旅に最適な季節です。あまりの良い陽気に、草原に旅鞄を投げ出して堪能している様子が浮かんできます。
以上、清明に関する有名俳句でした!
今回は、清明に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
春の盛りの季節であることと、「清明」という表現から感じる清らかで明るいイメージから、春の美しさを詠んだ句が多い印象です。
4月5日頃といえば入学シーズンでもあるので、記念に一句詠んでみてはいかがでしょうか。