長月は旧暦9月の異称で、現在の暦で9月下旬~11月上旬頃を指します。
残暑の厳しい時期から秋めいて涼しくなってくる月で、夜が長くなる月でもあります。
長月(9月)の由来・語源
秋も深まり、夜が長くなる頃で、「夜長月(よながつき)」の略とする説が最も有力。
他に旧暦だと稲刈りの時期であることから「稲刈月(いなかりづき)」「稲熟月(いなあがりつき)」「穂長月(ほながづき)」がある。 pic.twitter.com/vTO1QCczWg— 美帆 (書家) (@shoka__miho) September 1, 2016
今回は、そんな「長月(ながつき)」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介していきます。
長月の季語を使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】小林一茶
『 長月の 空色袷 きたりけり 』
季語:長月(秋)
意味:長月の空のような青い袴を着ている。
秋の空は空気が澄んでいるため、美しい青空になることが多い月です。この句では、まるで空の色のような袴を着ていることを喜んでいる様子が伺えます。
【NO.2】服部土芳
『 かへり花 照るや長月 仏の日 』
季語:長月(秋)
意味:寒いのに咲いている春の花を照らす長月の仏の日の光よ。
「かへり花」とは初冬の頃に桜や桃など春の花が咲く現象を表す季語です。この句では長月にも関わらず咲いているという意味になるので、季語は「長月」としています。
【NO.3】斯波園女
『 長月を 懸けがねさしに 別れかな 』
季語:長月(秋)
意味:長月を扉の掛けがねのようにさして別れることだ。
「懸けがね」とは扉を閉ざすかんぬきの金具のことです。長月という月を、扉を閉じる掛けがねに例え、長い別れを惜しんでいます。
【NO.4】巒寥松
『 長月の 有明の月や けしの花 』
季語:長月(秋)
意味:長月の有明の月だなぁ。ケシの花が咲いている。
「長月の有明の月」は万葉集の頃から使われている序詞で、「あり」という言葉を導きます。この句では有明の月で句切れになっていますが、ケシの花が「ある」という風景を強調しています。
【NO.5】正岡子規
『 星もなし 月は長月 十四日 』
季語:長月(秋)
意味:星も出ていない。よく見える今日の月は長月の14日、仲秋の名月だ。
「長月十四日」とは仲秋の名月のことです。この句が詠まれた明治27年の長月の満月は14日頃でした。この句では仲秋であることを強調するため、季語は月ではなく長月となります。
【NO.6】正岡子規
『 長月は 十六夜といはで あはれ也 』
季語:長月(秋)
意味:長月は十六夜の月ではなくても寂しく思うことだなぁ。
十六夜とは満月の次の日の月の名前で、ためらいという意味もあります。秋の夜空の美しさと、月が欠けていく寂しさを詠んだ句です。
【NO.7】上村占魚
『 長月の 望を上げたり 赤城山 』
季語:長月(秋)
意味:長月の満月が昇った赤城山よ。
【NO.8】鈴木道彦
『 長月の 秋や小松も 荒に就く 』
季語:長月(秋)
意味:季節は長月になって秋になったなぁ。若い松も荒々しく見えることだ。
「小松」は若い松や小さい松のことを表します。秋も深まる長月になると、若い松も荒っぽく見えてくるという季節の移り変わりを詠んだ句です。
【NO.9】野村喜舟
『 長月や 夜々の薫物(たきもの) 貝の中 』
季語:長月(秋)
意味:長月だなぁ。夜に焚く薫物は貝の中に入っている。
「薫物」とはさまざまなお香を粉末にして作った練り香のことです。いれものの中に入れて保管しますが、貝という古風な物の中に入れているところに風流を感じます。
【NO.10】増田龍雨
『 長月の 竹をかむりし 草家かな 』
季語:長月(秋)
意味:長月で伸びた竹が被さっている草家であることだ。
夏に成長した竹が、草葺きの家に覆いかぶさっています。草です葺いているため、竹の葉もまるで屋根の一部のように見えていることを面白く思っている句です。
長月の季語を使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】松村巨湫
『 長月や みやこのなかの 黍の丈 』
季語:長月(秋)
意味:長月が来たなぁ。都の中で育てているキビもかなり丈を伸ばしてきたようだ。
キビは秋に収穫される雑穀の一つです。畑で育てられるために街中で見かけることはめずらしいですが、そのめずらしいキビの成長を見て長月という秋を実感しています。
【NO.12】岡井省二
『 長月の 昼の日を置き 松の枝 』
季語:長月(秋)
意味:長月の昼の太陽の置き場所のような松の枝だ。
松の枝越しに秋の太陽を見ている絵画のような一句です。太陽は季節によって昇る場所が変わってきますが、ちょうど長月の頃に松の枝に置かれるような位置に昇るのでしょう。
【NO.13】神尾久美子
『 長月の 残れる日数 繭を煮て 』
季語:長月(秋)
意味:長月の残った日数を繭を煮て生糸を作って過ごそう。
【NO.14】酒井黙禅
『 長月や 明日鎌入るる 小田の出来 』
季語:長月(秋)
意味:長月だなぁ。明日稲刈りの鎌を入れる小さな田んぼの出来はどんな具合だろう。
「小田」とは小さな田んぼを意味します。収穫を前に、この田んぼの稲の出来はどのようなものだろうと期待と心配が入り交じっている心境を詠んだ句です。
【NO.15】尾崎迷堂
『 長月を よき頃なりし 吉野かな 』
季語:長月(秋)
意味:長月を良い季節にしている吉野であることだ。
奈良県の吉野といえば桜の花で有名ですが、秋になると紅葉が見事なことでも知られています。また、万葉集に収録されている天武天皇の「よき人の よしとよく見て よしと言ひし 吉野よく見よ よき人よく見」を下地にしているとも考えられます。
【NO.16】金子兜太
『 粛(しじ)まる霜の長月 薪には樗(ちょ)の木 』
季語:長月(秋)
意味:身が引き締まるほど寒くなって霜が降りる長月なので、薪にセンダンの木を選ぼう。
「樗の木」は「おうちのき」とも読み、センダンの別称です。寒さが際立ってくる秋の終わりを句またがりによってよく表しています。
【NO.17】池内友次郎
『 長月の 今日のひと日の 紅を恋ふ 』
季語:長月(秋)
意味:長月の今日という一日に見たあの紅を恋しく思う。
長月という季節から、紅が表すものが紅葉の赤とも、女性が差している紅とも取れる句です。一期一会という言葉が思い浮かぶほど、特別な印象を持ったのでしょう。
【NO.18】長谷川かな
『 長月の 夜を切る南瓜へ 夕立てて 』
季語:長月(秋)
意味:長月の夜を切るようなカボチャの中身は夕方の光のようなオレンジ色だ。
「夕立つ」には夕立が降るという意味の他に、夕方にいろいろな現象が起きるという意味があります。ここでは秋の夜のような深い色をしたカボチャを切ると、夕日のようなオレンジ色が見えたと解釈しました。
【NO.19】辻桃子
『 長月の てんぷらあぶら 古りにけり 』
季語:長月(秋)
意味:長月の秋の味覚を揚げようとしたが、天ぷら油が古くなってしまった。
天ぷら油など揚げ物に使う油は何度か使い回すことがあります。しかし、何度も使い回すと劣化が進み、おいしく揚げられなくなります。そんな家庭の一コマを詠んでいる句です。
【NO.20】大屋達治
『 長月尽く 神神に宿 割り振れば 』
季語:長月(秋)
意味:長月も終わる。今頃は神無月で出雲に向かう神々の宿を割り振っているのだろうか。
長月が終わると、神々が出雲へ赴く神無月が訪れます。神々が出発する前に、宿を決めているのだろうかというユーモアのあふれる一句です。
以上、長月に関する有名俳句でした!
今回は、長月に関する有名俳句を20句ご紹介しました。
仲秋の名月を暗に示す俳句や、深まる秋を詠む俳句など、いろいろな表現のある俳句が多いのが長月という季語の印象です。
現在のカレンダーではいよいよ秋本番という季節のため、長月の自然や食べ物などを題材に一句詠んでみてはいかがでしょうか。