「星」は春夏秋冬どの季節であっても俳句の題材としてよく詠まれます。
われの星
燃えてをるなり
星月夜 高浜虚子 pic.twitter.com/ZeQVoGaCcg
— 桃花 笑子 (@nanohanasakiko) September 2, 2014
今回は、過去に有名な俳人が詠んだ「星」にまつわる有名俳句(名句)を30句紹介していきます。
是非ご一緒に「星の美しさ」を詠った句を味わってみましょう。
星にまつわる有名俳句集【春編 7選】
【NO.1】柴田白葉女
『 春の星 ひとつ潤めば みなうるむ 』
季語:春の星(春)
現代語訳:春の星が一つ潤みだせば、周りのどの星も潤みはじめる。
冬の星の鋭い輝きから一転、大気が緩むように春の星々もまたゆるゆると潤むように瞬いていく様子を表しています。
【NO.2】夏目漱石
『 春の星を 落して夜半の かざりかな 』
季語:春の星(春)
現代語訳:春の星が落ちてきて飾ったかのような髪飾りだ。
この句は『草枕』の一節、月と女の題材で次々と連想していくシーンに登場します。この前後で女性について詠んでいるため、女性の髪飾りを連想しています。
【NO.3】稲畑汀子
『 駅を出て 街の灯抜けて 星朧 』
季語:星朧(春)
現代語訳:駅を出て、街頭のある道を抜けると朧のような星が見える。
賑やかな駅前から街頭の灯る市街地を抜け、暗くなるにつれて朧のような星空が出迎える光景が見えるようです。
【NO.4】前田普羅
『 乗鞍の かなた春星 かぎりなし 』
季語:春星(春)
現代語訳:乗鞍岳の彼方に春の星が限りなく続いている。
【NO.5】楠本憲吉
『 うるむ春星 亡母に手紙 書きたくて 』
季語:春星(春)
現代語訳:春の星が潤んでいる。亡き母に手紙を書きたいのだ。
【NO.6】中村汀女
『 旅さびし 汐満つ音と 春の星 』
季語:春の星(春)
現代語訳:どこか寂しく感じる旅だ。潮が満ちていく音を聞き、春の星を眺めていると。
【NO.7】富安風生
『 綺羅星の 中にわが星 春の星 』
季語:春の星(春)
現代語訳:あの夜空に輝く星の中に私の星があるに違いない、春の星だ。
星にまつわる有名俳句集【夏編 7選】
【NO.1】若木一朗
『 梅雨の星 闇へピンセットで 飾る 』
季語:梅雨の星(夏)
現代語訳:梅雨の晴れ間に見える星を、夜の闇へピンセットで摘んで飾ろう。
【NO.2】岸風三楼
『 星涼し 遊歩甲板の 籐椅子に 』
季語:星涼し(夏)
現代語訳:星が出ている夜は涼しい。船のデッキの藤椅子に座っている。
【NO.3】正岡子規
『 草枕の 我にこぼれよ 夏の星 』
季語:夏の星(夏)
現代語訳:草の上に寝転んで夜空を見上げると、私の方にこぼれてきそうな夏の星だ。
【NO.4】星野立子
『 アラビヤの 空を我ゆく 夏の星 』
季語:夏の星(夏)
現代語訳:アラビアの空を私は行く、夏の星の間を。
【NO.5】有働亨
『 ふるさとや 豊年星の 旱星(ひでりぼし) 』
季語:旱星(夏)
現代語訳:故郷は豊作だろうか、豊年星である旱星が見える。
【NO.6】日野草城
『 夏の星 小さきが一つ 流れけり 』
季語:夏の星(夏)
現代語訳:夏の星が出ている。小さい星が1つ流れていった。
【NO.7】三橋鷹女
『 夏の星 我が齢までは 数へられる 』
季語:夏の星(夏)
現代語訳:満天の夏の星空だ。私の年齢の数までなら数えられる。
星にまつわる有名俳句集【秋編 8選】
【NO.1】正岡子規
『 暁の しづかに星の 別れかな 』
季語:星(七夕の意/秋)
意味:明け方に、織姫と彦星が静かに別れを告げている。
ここで言う星とは七夕のことで、明け方に白む空に静かに沈んでいく2つの星を表しています。
【NO.2】室生幸太郎
『 梟時計 鳴くこと忘れ 星月夜 』
季語:星月夜(秋)
意味:フクロウ時計すら鳴くことを忘れるほどの満天の星夜よ。
星月夜とは月が出ていると錯覚させるほど明るい、月のない星空のことを指します。時計すら止まる錯覚を覚えるほど見惚れている一句です。
【NO.3】高浜虚子
『 われの星 燃えてをるなり 星月夜 』
季語:星月夜(秋)
意味:私の星はあの満天の星空の中に燃えているのだ。
【NO.4】水原秋櫻子
『 流星の きらめき落つる 地獄谷 』
季語:流星(秋)
意味:流れ星がきらめきながら地獄谷に落ちていく。
【NO.5】飯田蛇笏
『 秋の星 遠くしづみぬ 桑畑 』
季語:秋の星(秋)
意味:秋の星は桑畑の遠く彼方に沈んでいった。
【NO.6】稲畑汀子
『 さそり座を 憶えし吾子に 星流れ 』
季語:星流れ(秋)
現代語訳:さそり座を覚えたわが子の前で星が流れていった。
【NO.7】西島麦南
『 夕ごころ はなやぎ迎ふ 二星かな 』
季語:二星(秋)
現代語訳:夕方だなぁ。早くも天の川は凪いで織姫と彦星を迎えていることだ。
【NO.8】芥川龍之介
『 風落ちて 曇り立ちけり 星月夜 』
季語:星月夜(秋)
現代語訳:風が落ちるように吹き、雲が湧き上がるように立ってきた。せっかくの星月夜だったのに。
星にまつわる有名俳句集【冬編 8選】
【NO.1】塩野谷仁
『 やくそくの 数だけ落ちる 冬の星 』
季語:冬の星(冬)
意味:約束や願い事の数だけ、冬の流れ星が落ちている。
【NO.2】中村草田男
『 寒星や 神の算盤 ただひそか 』
季語:寒星(冬)
意味:神様の算盤の玉のような冬の星が、密やかにただそこにある。
【NO.3】山口誓子
『 手を洗ひ 寒星の座に 向かいけり 』
季語:寒星(冬)
意味:手を洗いに外に出ると、冬の星座に正面から向かうことだなぁ。
当時のトイレは外にあり、ふと見上げた満天の星空と相対した感動を詠んでいます。
【NO.4】水原秋櫻子
『 枯木星 またたきいでし 又ひとつ 』
季語:枯木星(冬)
意味:枯れ木越しに星がまた一つ瞬いて出てきたことだ。
枯木星とは葉が落ちた木の枝から見る星のことです。近くの枯れ木と遠い星空の見事な対比の一句になっています。
【NO.5】正木浩一
『 傾きて オリオンは夜の 凧(いかのぼり) 』
季語:オリオン(冬)
意味:傾いたオリオン座は、夜にあがる凧のようだ。
直接星という単語はありませんが、オリオンも冬の季語です。傾いたオリオン座が凧揚げのように夜空に張り付いている光景が目に浮かびます。
【NO.6】加藤楸邨
『 生きてあれ 冬の北斗の 柄の下に 』
季語:冬の北斗(冬)
現代語訳:どうか生きていてくれ。あの冬の北斗七星の柄が指し示す下で。
この句は作者が出征していった教え子たちを思って詠んだ句です。あの北斗七星の柄の辺りにいるだろう教え子たちが、どうか生きていて欲しいと願う心が込められています。
【NO.7】石原八束
『 狼が 空に来てゐる 冬銀河 』
季語:冬銀河(冬)
現代語訳:空に輝く狼が来ているような冬の銀河だ。
冬の夜空で狼と言えば、天狼星とも呼ばれるシリウスが思い浮かびます。強い輝きを放つシリウスが昇って来たことを、狼が空に来たと表現したのかもしれません。
【NO.8】篠原梵
『 吹き晴れて くらき大地と 寒の星 』
季語:寒の星(冬)
現代語訳:風が吹いて空が晴れて、暗い大地と冬の星空が見える。
雪が降っている曇り空などは夜でもかなり明るく見えますが、よく晴れた冬の夜は真っ暗になります。そんな大地と対照的に、空気が澄んでいることでよく見える星空が輝いているという絵画のような一句です。
以上、季節別(春夏秋冬)の星にまつわる有名俳句30選でした!
今回は星の俳句を30句、珍しい季語を使用したものを含めて紹介してきました。
季節ごとに表している情景が変わっていくのが星の俳句の魅力です。
夜に見上げた星をどのように表現するのか考えながら、一句詠んでみてはいかがでしょうか。
俳句:
真夏の晴れた夜空には 狼がいっぱい走っていたなと思い出しました。 若い時にはへんな妄想をもつものです。
夏闇も狼走る星も好き
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— Gatten da Vinci (@gattendavinci) June 10, 2013