「浴衣」は夏を通して使える季語です。
浴衣が夏の季語になったのは江戸時代の後期と言われており、松尾芭蕉はもちろん小林一茶の時代でもまだ季語ではなかったと言われています。
祖父の俳句
旅つづき一夜一夜の宿浴衣
浴衣が夏の季語です。 pic.twitter.com/fuNxmyOi0u
— Kamachov (@kyokokamata310) July 14, 2017
今回は、そんな「浴衣」を季語に使った俳句を20句ご紹介していきます。
浴衣を季語に使った有名俳句【10選】
【NO.1】 宝井其角
『 浴衣着て 瓜買ひに行く 袖もがな 』
季語:浴衣(夏)
意味:浴衣を着て、瓜を買いに行く袖があればなぁ。
この句が作られた時代は、まだ浴衣が季語として認められていません。そのため、この句の当時の季語は「瓜」でした。まだ下着としての浴衣の側面が強いので、「袖があればなぁ」という現在の感覚では不思議な結句になっています。
【NO.2】森川許六
『 鬼灯の 種にきはづく 浴衣かな 』
季語:浴衣(夏)
意味:鬼灯の種で染みや汚れが目立つ浴衣であることだ。
「きはづく」は「際付く」と書き、汚れが目立つことを言います。この句の時代もまだ浴衣は季語ではないため、当時は「鬼灯」が季語です。浴衣姿で歩き回っていたら、鬼灯の実の汁で汚してしまった、微笑ましい光景を詠んでいます。
【NO.3】正岡子規
『 草鞋(わらじ)解いて 浴衣着て飯の うまさ哉 』
季語:浴衣(夏)
意味:草鞋を脱いで、浴衣を着て食べる旅先の食事のなんとおいしいことよ。
【NO.4】高浜虚子
『 旅鞄 開けて着なれし 古浴衣 』
季語:古浴衣(夏)
意味:旅行先に持ってきた鞄を開けて、着慣れた古い浴衣を取り出そう。
こちらも旅行先での一句です。宿に置いてある浴衣ではなく、着慣れた浴衣を持ってきて着ることで、よりくつろいだひと時を過ごせるのでしょう。
【NO.5】山口青邨
『 ものを書く こころにかなひ 古浴衣 』
季語:浴衣(夏)
意味:物を書くときの心情に適うのは、古い着慣れた浴衣であることだ。
新品の浴衣や手入れをきちんとした浴衣は、糊がピシッと効いて着心地が硬いことがあります。文章を書くときはそのような浴衣ではなく、着慣れた古い浴衣こそふさわしいという作者の実感がこもった句です。
【NO.6】杉田久女
『 張りとほす 女の意地や 藍ゆかた 』
季語:藍ゆかた(夏)
意味:張り通そう、女の意地であることだ。こ藍染めの浴衣は。
倒置法に体言止めと、どこか凄みを感じさせる一句です。藍染めの浴衣で女の意地を張り通そうとした相手はいったい誰なのか、考えてみると面白いでしょう。
【NO.7】河東碧梧桐
『 掛香(かけごう)や 派手な浴衣の 京模様 』
季語:浴衣(夏)
意味:掛香の香りがする。派手な浴衣が京都の流行だろうか。
掛香とは、汗の匂いなどを防ぐために小さな袋に香料を入れたものです。派手な柄の今風の浴衣と、伝統的な掛香の香りが対になっています。
【NO.8】日野草城
『 糊利いて 肌につれなき 浴衣かな 』
季語:浴衣(夏)
意味:糊が聞いていて、肌に合わない浴衣であることだ。
新品の浴衣や手入れした後の浴衣は糊がきいているため、着心地が固くなります。糊を落とすことも可能ですが、落とさないまま着たら肌に合わない、という現代にも通じる悩みです。
【NO.9】山口誓子
『 藍浴衣 蛍の火には 黒浴衣 』
季語:藍浴衣(夏)
意味:藍染の浴衣でも、蛍の光の下で見てみると黒い浴衣に見える。
藍染の浴衣は深い青色が美しい浴衣ですが、暗い夜に蛍の光のみの光源で見ると真っ黒に見えてしまいます。照明の多い現代ではあまり遭遇しない状況かもしれません。
【NO.10】三吉みどり
『 口開けて 金魚のやうな 浴衣の子 』
季語:浴衣(夏)
意味:口を開けて、金魚のように赤い帯をひらひらさせている浴衣の子供よ。
初めてのお祭りに来た幼い子でしょうか。まるで金魚のような帯と、口をぱくぱく開けている様子が見えるようです。
浴衣を季語に使った素人オリジナル俳句【10選】
【NO.1】
『 山の湯や 浴衣はらりと 岩の上 』
季語:浴衣(夏)
意味:山の中にある露天風呂だ。浴衣をはらりと脱いで岩の上に置いておく。
【NO.2】
『 やはらかき 鋳型のやうな 浴衣かな 』
季語:浴衣(夏)
意味:柔らかい鋳型のような浴衣であることだ。
新品の糊のきいている状態を、「柔らかい」が「鋳型のよう」と例えているのが面白い一句です。布の柔らかさと糊の鋳型のような硬さの対比が質感を表現しています。
【NO.3】
『 光年や 眦(まなじり)深き 藍浴衣 』
季語:藍浴衣(夏)
意味:宇宙の光年という距離の途方もなさよ。視線を深く、夜空のような藍染の浴衣に向ける。
藍染の浴衣の色を宇宙に例え、そこから光年という途方もない距離の単位へ連想をつなげています。すぐそこに見えている藍浴衣と、見ることのできない宇宙の距離というミクロとマクロの対比が見事です。
【NO.4】
『 後れ毛の まだ幼くて 緋の浴衣 』
季語:浴衣(夏)
意味:結い上げた髪の後れ毛がまだ幼い子の、緋色の浴衣よ。
初めて浴衣を着た子供でしょうか。緋色の浴衣にあわせて結い上げた髪の後れ毛が幼さを強調しています。
【NO.5】
『 朝市の 地物を覗く 宿浴衣 』
季語:宿浴衣(夏)
意味:朝市で地元の名産品を覗く、宿の浴衣のままで。
旅行先の楽しみとして、朝市を覗くことが挙げられるでしょう。宿の近くで開かれている朝市をぶらついているのか、宿のエントランスまでくる小さな朝市を朝食がてら覗いているのか、どちらにも取れます。
【NO.6】
『 背が伸びて 去年の浴衣 つんつるてん 』
季語:浴衣(夏)
意味:子供の背が伸びて、去年は着られた浴衣がつんつるてんだ。
成長期の子供の背はよく伸びます。1年で10cmと伸びてしまう子もいるほどです。去年はぴったりだった浴衣がつんつるてんになるほど成長した、親の喜びも感じ取れる句になっています。
【NO.7】
『 すれ違い 藍の匂ふや 初浴衣 』
季語:初浴衣(夏)
意味:すれ違うと、藍染の匂いがふることだなぁ。初めておろした浴衣だろう。
藍染の浴衣は独特の香りがします。その香りがするということは、おろしたばかりの新品の浴衣を着ているなと推測できる、視覚や聴覚ではなく嗅覚をメインにした一句です。
【NO.8】
『 ミニ浴衣 疾走渋谷 交差点 』
季語:ミニ浴衣(夏)
意味:裾の短い浴衣で、渋谷交差点を疾走している。
二文字以外は全て漢字、かつ「渋谷交差点」が句またがりになっているとても面白い句です。口に出して読んでみるといそいでいる雰囲気が伝わってきて、文字で見ても音で考えても楽しい俳句になっています。
【NO.9】
『 メトロより 湧きたる浴衣 みな右へ 』
季語:浴衣(夏)
意味:メトロの駅から湧いた浴衣姿の人が、みんな右へ進んでいく。
地下鉄の駅から人がどっと湧き、浴衣姿の人たちがみんな右へ進んでいく、まるで水の流れのような光景を詠んでいます。右にはお祭り会場か花火会場など、人の集まる場所があるのでしょう。
【NO.10】
『 ユーチューブをコマ送りで やっと浴衣着る 』
季語:浴衣(夏)
意味:ユーチューブの着付け動画ををコマ送りで見て、やっと浴衣を着ることができた。
現代ならではの着付けの仕方です。字あまりの破調で、着付け同様に俳句の方も新しさを感じる韻律になっています。
以上、浴衣をテーマにした俳句集でした!
今回は、「浴衣」を題材にした俳句を、有名なもの10選とオリジナルの俳句10選にわけて紹介してきました。
浴衣は夏のお祭りや温泉、盆踊りや夕涼みなど多くの場面で使われ、夏の象徴のような季語です。
浴衣を着る機会があればぜひ一句詠んでみてください。