卯月は旧暦4月の異称で、現在の暦で4月下旬から6月下旬を指します。
卯の花が咲き誇ることから「卯月」と呼ばれていて、小さな白い花は波にも例えられるほど美しいものです。
【4月は旧暦の「卯月」】
卯月の由来は 「卯の花の咲く月」という意味が有力。卯の花とは、ユキノシタ科ウツギ属の空木(ウツギ)という植物の花のこと。今は5月に咲く花のイメージだが、陰暦に置き換えると4月頃に花を咲かせていたそうである。 pic.twitter.com/BbHrktQJI3— こーらいおん(ω)きくらげ (@neriame0411) March 31, 2016
今回は、「卯月」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介していきます。
卯月の季語を使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】与謝蕪村
『 巫女町に よききぬすます 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:巫女町では良い衣を洗い清める卯月であることだ。
「巫女町」とは霊を口寄せするイタコのような巫女が集まっていた地域で、作者の住んでいた近畿地方だと大阪にあったことが知られています。夏へと変わる季節に着物を洗い清め、夏に供えている様子です。
【NO.2】加賀千代女
『 日はながし 卯月の空も きのふけふ 』
季語:卯月(夏)
意味:卯月になり日が長くなってきた。空も昨日今日とで変わってきているように見える。
夏至が近づくにつれて昼間が長くなっていきます。卯月という春と夏の境界をこえたことで、1日ずつ実感する様子を詠んだ句です。
【NO.3】立花北枝
『 はやり来る 羽織みじかき 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:短い羽織が流行っている卯月だなぁ。
上着である羽織の丈は流行によって長いときと短いときがありました。作者がこの句を詠んだときには短い羽織が流行っていたようで、当時の習俗がわかる句になっています。
【NO.4】桜井梅室
『 水底の 草も花さく 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:水底にある水草も花を咲かせるような卯月であることだ。
水草の中には水中で花を咲かせる種類もあるため、作者はその水草を見たのかもしれません。水の中でも緑が広がり、花が咲く様子に初夏の訪れを感じています。
【NO.5】正岡子規
『 寝ころんで 酔のさめたる 卯月哉 』
季語:卯月(夏)
意味:寝転んでいると、酔いが覚めたように生き生きとしている卯月になっていたことだ。
春は「春眠暁を覚えず」とも言われるように、のどかで眠たげな雰囲気を醸し出します。そんな中で卯月になり、春から初夏へ季節が変わったことで酔いがさめたように動き出そうとしている様子を表した句です。
【NO.6】正岡子規
『 ぬぎかへて 衣に風吹く 卯月哉 』
季語:卯月(夏)
意味:春物から夏物へ脱ぎ変えた洋服に風が吹き込んでくる卯月であるよ。
春の装いから初夏の薄着へと衣替えをした句です。さわやかな初夏の風とともに歩いている様子が想像できます。
【NO.7】高浜虚子
『 蚊の居ると つぶやきそめし 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:蚊がいるなぁとつぶやきはじめる卯月であることだ。
【NO.8】青木月斗
『 牛蒡たく匂ひに 卯月曇かな 』
季語:卯月曇(夏)
意味:ゴボウをたいている匂いがまるでこもっているかのように感じる卯月の曇りの日であるよ。
曇り空はどこか空気がこもっているように感じます。ここでは料理しているときに出る湯気と曇り空を掛けている表現です。
【NO.9】夏目漱石
『 溜池に 蛙闘ふ 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:ため池にカエルが戦っている暖かな卯月の気候であることだ。
カエルの繁殖期は4月頃から7月頃で、卯月はちょうどその時期に当たります。作者はふと見かけたため池でオス同士の喧嘩を見守っていたのでしょう。
【NO.10】萩原麦草
『 立山の 卯月の谺(こだま) 返しくる 』
季語:卯月(夏)
意味:卯月の立山は、叫ぶと木霊を返してくる。
初夏は登山シーズンの始まりです。立山連峰はまだ積雪が残っている場所もありますが、登山の心地の良さに思わず叫んで木霊が返ってくる様子を詠んでいます。
卯月の季語を使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】高木晴子
『 生涯の 佳き日給はる 苑卯月 』
季語:卯月(夏)
意味:生涯でとても良い日をこの庭園で過ごさせてもらった卯月であることだ。
この句は、父である高浜虚子の句碑がロンドンのキュー・ガーデンに設置されたときの除幕式の句です。「苑」は外国の庭園を表しています。
【NO.12】長谷川かな女
『 磧(かわら)はしる 水筋多き 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:普段は水の流れていない場所でも川になるほど水が多い卯月であるなぁ。
「磧」とは、普段は水の流れていない砂地などを意味します。卯月になって雪どけ水が川に流れ込み、水流が多くなった川を見ての一句です。
【NO.13】尾崎迷堂
『 山落ちて 野を行く水の 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:山から落ちてきて、野を行く水が多くなる卯月であることだ。
【NO.14】阿部みどり女
『 椎茸の 山へ卯月の 水を引く 』
季語:卯月(夏)
意味:椎茸が生えている山へ、卯月の豊富な水を引いている。
椎茸は広葉樹の枯れ木に自生するキノコですが、作者の時代には栽培方法が確立していたと思われます。栽培の際には水をやる必要がないキノコなので、自生する山に雨などで水が流れている様子を詠んだのかもしれません。
【NO.15】稲畑汀子
『 島近し 卯月ぐもりの 日は殊に 』
季語:卯月ぐもり(夏)
意味:島が近く見える。卯月のくもりの日は殊更だ。
晴れた日の島影はくっきりと見えるため、遠くに見えます。この句ではくもりの日のため、島の影はぼんやりとしていて遠近感がつかみにくく、殊更近くに見える様子を詠んでいます。
【NO.16】右城暮石
『 松影は 卯月こよなき しづけさよ 』
季語:卯月(夏)
意味:松の影ができる卯月はこの上ない静けさであることだ。
春は花が咲き鳥が鳴くことで、夜でもにぎやかなイメージがあります。にぎやかさが初夏になってなりを潜めた、静かな夜の印象が強くなる一句です。
【NO.17】村越化石
『 卯月の夜 夢見むための 身の眠り 』
季語:卯月(夏)
意味:卯月の夜だ。夢を見るためにこの身を眠らせよう。
いつまでもまどろんでいられるような春が終わり、段々と暑くなっていく初夏が訪れました。夜も寝苦しくなっていくため、なんとか夢を見ようと目を閉じている様子を詠んでいます。
【NO.18】飯田蛇笏
『 水虎鳴く 卯の花月の 夜明けかな 』
季語:卯の花月(夏)
意味:河童が鳴くような卯の花が咲き誇る夜明けであることだ。
「水虎」とは日本でいうカッパのことだと言われています。カッパは「ひょうひょう」といった鳴き声をあげると言われていて、初夏の夜明けの風をカッパに例えた一句です。
【NO.19】三橋鷹女
『 卯月来ぬ ましろき紙に 書くことば 』
季語:卯月(夏)
意味:卯月が来た。真っ白な紙に書く言葉は何にしよう。
卯月は季節の変わり目であり、手紙や仕事での創作などで心機一転をはかるのによい季節です。「ことば」と平仮名で表現しているところがどんなことを書こうかと思案している様子を表しています。
【NO.20】鈴木真砂女
『 仕入れたる 茄子の小さき 卯月かな 』
季語:卯月(夏)
意味:仕入れた茄子がとても小さい卯月であることだ。
ナスは5月から収穫が始まりますが、旬は7月から8月の夏の野菜になります。この句ではまだ小さいナスしかなく、その小ささから季節がまだ初夏であることを実感している句になります。
以上、卯月に関する有名俳句でした!
今回は、卯月に関する有名俳句を20句ご紹介しました。
旧暦の卯月は初夏から暑い夏になる気候であるのに比べ、現在の暦での卯月は4月という春真っ盛りと暦による違いがハッキリと出るのが面白い季語です。
春から初夏にかけての気候の移り変わりが面白い卯月を題材に、ぜひ一句詠んでみてください。