俳句は五七五の十七音の韻律で構成された詩で、季節を表す季語を詠み込みます。
江戸時代に俳句文化を確立した松尾芭蕉をはじめとして、多くの俳人が旅先で俳句を詠んでいます。
今回は、そんな旅先で詠まれたを有名な俳句を20句紹介していきます。
おもしろや今年の春も旅の空(松尾芭蕉) #俳句 #春 pic.twitter.com/iU0qehlGEg
— iTo (@itoudoor) March 28, 2016
旅先で詠まれた有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 おもしろや 今年の春も 旅の空 』
季語:春(春)
意味:楽しいなぁ。今年の春もまた旅に出ている。
この句は「おくのほそ道」の旅に出ている時に弟子に出した書簡に書かれていた俳句です。芭蕉はそれまでの春も「野ざらし紀行」などの旅に出ており、今年もまた旅の途中だと面白がっています。
【NO.2】松尾芭蕉
『 今日よりや 書付消さん 笠の露 』
季語:露(秋)
意味:1人きりになってしまった。今日からは「同行二人」という書付を消さなければならない、笠にたまった露で。
この句は「おくのほそ道」の旅の途中で体調を崩した弟子の曽良と別れたあとに詠まれています。「同行二人」と二人旅であったことを示す笠の書付を、露に例えた自身の涙で消さなければならない一人旅の寂しさを詠んだ句です。
【NO.3】松尾芭蕉
『 旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる 』
季語:枯野(冬)
意味:旅の途中で病気に倒れたが、夢はあの枯野を駆け巡っている。
松尾芭蕉の絶筆の句として有名な一句です。作者は関西地方への旅の途中で病に倒れ、大阪でこの句を詠んだ数日後に亡くなっています。
【NO.4】与謝蕪村
『 行々(ゆきゆき)て ここに行々(ゆくゆく) 夏野かな 』
季語:夏野(夏)
意味:旅人がやってきて、またここから旅立っていく夏の野原だ。
「行く」という言葉を連続して使うことで、旅人が行き交う道を表現しています。「夏野」という言葉からは日陰のない炎天下が連想され、そんな道でも歩いていかなければならないという人生観にも通じる一句です。
【NO.5】与謝蕪村
『 水ぬるむ 頃や女の わたし守 』
季語:水ぬるむ(春)
意味:水が温む頃だなぁ。あそこには女性の渡し守がいる。
「わたし守」とは「渡し守」と書き、橋のかかっていない川で旅人や客を背負って川を渡らせる人のことを指します。江戸時代ではこうした渡し守に川を渡してもらう順番を待つため、近くの宿場町が栄えていました。
【NO.6】小林一茶
『 春風や 牛に引かれて 善光寺 』
季語:春風(春)
意味:春風が吹いているなぁ。かの昔話の牛に引かれるように善光寺参りをしよう。
「善光寺」を詠んだ俳句の中で最も有名なものです。これは牛として姿を現した観音菩薩を追いかけて善光寺にお参りをするという伝説を元にしていて、思いかげない行動が良い方向に向かうという意味でもあります。
【NO.7】小林一茶
『 秋の夜や 旅の男の 針仕事 』
季語:秋の夜(秋)
意味:秋の夜だ。旅の途中の男性は、服を繕うために針仕事をしている。
【NO.8】小林一茶
『 年已(すで)に 暮んとす也 旅の空 』
季語:暮んとす/年暮る(暮)
意味:年がもう暮れようとしているなぁ。私は今も旅の途中だ。
年末になってもなお旅先にいる自身の境遇を詠んだ句です。作者にはお正月の宿の様子を詠んだ句もあり、年末年始にかけて旅をしていたことがわかります。
【NO.9】正岡子規
『 朝寒や 木曾に脚絆(きゃはん)の 旅心 』
季語:朝寒(秋)
意味:朝が肌寒い季節になった。木曽へ向かうのに脚絆を巻き付けていると旅をする心で沸き立つ。
「脚絆」とは脛に巻き付けて保護するものです。江戸時代から旅人の足の保護や脚の疲労軽減のために使われていて、この句でも作者は脚絆を巻き付けることと旅心をイコールで結んでいます。
【NO.10】高浜虚子
『 鹿に乗る 神もまします 旅路かな 』
季語:鹿(秋)
意味:鹿に乗る神様もいらっしゃるこの旅路だなぁ。
「鹿に乗る神」というユニークな表現ですが、奈良の春日大社近くには多くの鹿が生息しています。まるで神様の乗り物のように自由に過ごす鹿たちに、奈良の旅路をしみじみと実感している一句です。
旅先で詠まれた有名俳句【後半10句】
【NO.11】水原秋桜子
『 旅の夜の 茶のたのしさや 桜餅 』
季語:桜餅(春)
意味:旅先の夜のお茶を飲むのが楽しいなぁ。桜餅もおいしい。
旅先で飲むお茶とお茶請けの桜餅に舌鼓を打っている一句です。旅館の中で寛いでいるのか、夜桜見物に出かけた時の様子なのか、想像が広がります。
【NO.12】中村草田男
『 秋の航 一大紺 円盤の中 』
季語:秋(秋)
意味:秋の航海では辺り一面が紺色で、まるで円盤の中にいるようだ。
秋の深い色をした海の上の航海を詠んだ句です。周囲にはなにもなく、なだらかな水平線もあいまってまるで巨大な円盤の中にいるようだと感動しています。
【NO.13】種田山頭火
『 分け入っても 分け入っても 青い山 』
季語:無季
意味:分け入っても分け入っても周りは青い葉をつけた山ばかりだ。
【NO.14】日野草城
『 けふよりの 妻(め)と来て泊(は)つる 宵の春 』
季語:宵の春(春)
意味:今日から妻と来て泊まるホテルだ。春も宵が深まってきた。
「新婚旅行」をテーマにした連作の1つです。今日からここに泊まるのだと夫婦揃ってホテルを見上げている春の夜の様子を詠んでいます。
【NO.15】草間時彦
『 葛切や すこし剩りし(あまりし) 旅の刻 』
季語:葛切(夏)
意味:葛切りを食べよう。少し時間が余ってしまった旅のスケジュールだ。
「葛切」とは葛粉から作られた細長い麺のような食べ物です。列車の発車時刻まで少し時間が空いてしまったので、どうせなら葛切りを食べようという旅の醍醐味を満喫しています。
【NO.16】飯田蛇笏
『 やまざとの 瀬にそふ旅路 秋の雨 』
季語:秋の雨(秋)
意味:山里に流れる小川に沿って旅路をゆく。秋の雨が降ってきた。
山里の小川沿いにある道を旅していたら雨が降ってきたという、どこか寂しさを感じる句です。いまでは舗装された道も多いですが、この句からは未舗装の道を歩き続けている雰囲気があります。
【NO.17】星野立子
『 夕月夜 人は家路に 吾は旅に 』
季語:夕月夜(秋)
意味:夕方に月が出る時間帯になった。人々は家路につくが、私はこれから旅に出るのだ。
夕方になって月が見える時間帯に家路に急ぐ人々と、これから旅行に行く自分を対比しています。「に」の繰り返しから、皆が家路に急ぐように私は旅路に急ぐのだという楽しそうな心情が伝わってくる句です。
【NO.18】篠原鳳作
『 しんしんと 肺碧きまで 海のたび 』
季語:無季
意味:しんしんと呼吸するとまるで肺が青くなるような海の旅だ。
海の旅をテーマにした連作の1つです。この句には季語がありませんが、呼吸をすると肺まで青くなってしまいそうだという心情を詠んだこの句は作者の代表作になるほど有名になりました。
【NO.19】角川春樹
『 旅びとに 夕かげながし 初蛍 』
季語:初蛍(夏)
意味:通り過ぎる旅人に夕暮れの影を流していくように飛んで光る初蛍だ。
通り過ぎる人々を一瞬照らし出してはすぐに夕闇に消える、幻想的な蛍の様子が詠まれています。絵画というよりは映像に近い印象の句で、多数の映像作品を世に送り出してきた作者ならではの句と言えます。
【NO.20】大高翔
『 何もかも 散らかして発つ 夏の旅 』
季語:夏(夏)
意味:何もかもを散らかして旅立とう、夏の旅に。
色々と準備や宿題はあったが、全部帰ってきてからにしようと勢いよく旅立っていく様子を詠んだ句です。夏ならではの生命力と、長期休暇の旅を楽しみにする心がよく伝わってきます。
以上、旅先で詠まれた有名俳句集でした!
今回は、旅先で詠まれた有名俳句を20句紹介しました。
旅先はめずらしい風景や旅を楽しむ感情、旅情について思いを馳せる心境など多くの題材で俳句が詠まれています。
修学旅行や観光でどこかへ訪れた際にはぜひ一句詠んでみてください。