ブランコは、子どもから大人まで楽しめる遊具です。ブランコで遊んだ、たくさんの思い出を持つ方も多いでしょう。
「ブランコ(鞦韆)」は、歴史のある遊具であり、俳句の世界では様々な呼び名で登場し多彩な表現ができる語です。
今回は、そんな「ブランコ(鞦韆)」にまつわる俳句を30句紹介していきます。
鞦韆は漕ぐべし愛は奪うべし 三橋鷹女 pic.twitter.com/ZRsKPW1iq2
— つかだ (@a_oneko) May 22, 2016
季語「ブランコ(鞦韆)」について
ブランコは鞦韆(しゅうせん)とも書き、春の季語です。
ブランコは他に、「ふらここ」「ふらんど」「ゆさわり」「半仙戯(はんせんぎ)」ともいわれます。
ブランコ(鞦韆)が春の季語となったのは、「ブランコ(鞦韆)」の歴史が関係しています。
日本のブランコ(鞦韆)は、中国の「鞦韆」が伝来したものです。古代中国では農耕儀礼として、女性が寒食(かんしょく:清明の前日、四月四日頃)または春節(旧正月)に「鞦韆」に乗っていました。
そのため、中国の書物では「鞦韆」は春の景物として記されることが多く、その影響を受け日本でも「鞦韆」は春のものとして定着しました。
鞦韆は、日本では「揺れる」「振る」の語に関し、「ぶらんこ」「ふらここ」「ふらんど」「ゆさわり」などとも呼ばれます。「ぶらんこ」と呼ばれるようになったのは、江戸時代からとされています。「ぶらんこ」の由来は、ポルトガル語からきたとするものや、擬態語の「ぶらり」「ぶらん」からきたとするものなど、諸説あります。
「ぶらんこ」は女性が儀式で乗るものとして使われていたことから、古来は優雅なイメージがありました。
それに対して、現在で使われる「ブランコ」は、明治政府が富国強兵のための体力増強できる器具として、西洋からブランコを輸入したものから始まっています。
ブランコ(鞦韆)にまつわる有名俳句【15選】
【NO.1】小林一茶
『 ふらんどや 桜の花を もちながら 』
季語:ふらんど(春)
意味:桜の花を持ちながら、ブランコに乗ることだなあ。
ふらんどとは、ブランコのことです。
桜の花を手に持ちながらブランコに乗ると、ブランコも人も桜の花も全てが揺れます。春の優しい情景です。
【NO.2】炭太祇
『 ふらここの 会釈こぼるるや 高みより 』
季語:ふらここ(春)
意味:ブランコの高みから、会釈がこぼれることだ。
ふらここはブランコのことです。
作者が見ていると、ブランコが高く空へ上がったその時、ブランコの漕ぎ手から会心の笑顔がこぼれたと詠っています。
高みよりの語から、ブランコが空へ高く上がった一瞬が読み手に伝わってきます。
【NO.3】星野立子
『 鞦韆に 腰かけて読む 手紙かな 』
季語:鞦韆(春)
意味:ブランコに腰かけて読む手紙であることだ。
流れるような句です。ブランコに腰かけて読む手紙、それは愛しい人、友達、親、誰であろうかと読み手に想像させる、美しい句です。
【NO.4】三橋鷹女
『 鞦韆は 漕ぐべし愛は 奪ふべし 』
季語:鞦韆(春)
意味:鞦韆は漕ぐもの、愛は奪うものだ。
一度聞くと忘れられないような、読み手に衝撃を与える句です。
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべしと対句表現を用いています。
この句は、有島武郎の評論『惜みなく愛は奪ふ』の影響を受けて作られたともいわれます。
漕げば漕ぐほど高さを増し、恐怖心さえも募らせる鞦韆を漕げ、募らせた愛も情熱的に奪え、作者のほとばしる感情がべしの語から伝わってきます。
また、鞦韆がもともと女性が儀式で使っていたものであることから、この句では鞦韆に艶やかな女性のイメージも込めているように感じられます。
【NO.5】三宅嘯山
『 ふらここや 花を洩れ来る 笑ひ声 』
季語:ふらここ(春)
意味:桜の木の下でブランコを漕ぐ人の声が、漏れ聞こえてくる。
俳句での花は桜の花を指します。
満開の桜の下、ブランコを漕ぐ人の笑い声が漏れ聞こえてくる。
咲き誇る桜と、ブランコの様子が色鮮やかに読み手に想像させます。
【NO.6】前田普羅
『 鞦韆に しばし遊ぶや 小商人 』
季語:鞦韆(春)
意味:鞦韆でしばらくの間遊ぶのは、小商人であることだ。
小商人(こあきんど)とは、わずかな資金をもとに商売を行う人のことです。
ブランコでしばらくの間遊ぶのは、子どもでなく小商人でした。骨休めのためか、と思いながら作者はその様子を眺めているのでしょうか。
【NO.7】渡邊白泉
『 日の暮れの ぶらんこ一つ 泣き軋る 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:日暮れ時、ブランコが一つ泣くように軋る音を出している。
キーキーとブランコが一台鳴くように軋む音が響く、日暮れ時。
泣き軋るとブランコに擬人法を用いることで、ブランコの軋む音が響く夕方の切ない感情を醸し出しています。
【NO.8】阿波野青畝
『 仰ぐ人たちが逆さよ 半仙戯 』
季語:半仙戯(春)
意味:ブランコを下から仰ぐ人たちが逆さに見えることだよ。
この俳句は、句またがりの句法を使うことで、上の句と中の句が仰ぐ人たちが逆さよとつながり、リズムある句になっています。
半仙戯はブランコのことです。
この句は、ブランコに乗った者から見た景色を詠っています。
ブランコを仰ぎ見る人たちが上から逆さに見える程、空高くブランコを漕いだのでしょう。
【NO.9】山口誓子
『 鞦韆や 舞子の駅の 汽車立ちぬ 』
季語:鞦韆(春)
意味:舞子の駅の汽車が出発してしまった鞦韆であることだ。
舞子の駅は、兵庫県神戸市にある駅を指します。
汽車立ちぬは、立つの連用形立ちに完了を意味する助詞ぬがつき、汽車が出発したという意味です。
鞦韆と汽車の取り合わせが印象的な句です。
【NO.10】橋本多佳子
『 鞦韆を 父へ漕ぎ寄り 母へしりぞき 』
季語:鞦韆(春)
意味:鞦韆を父の方へ漕ぎ寄り、母の方へしりぞく。
ブランコの前側にいる父親と、後ろ側にいる母親。
作者は、思い切り漕いで父親の方へ寄ったり、母親の方へ寄ったりします。
家族三人の楽し気な声が聞こえてきそうな句です。
【NO.11】芝不器男
『 鞦韆の 月に散じぬ 同窓会 』
季語:鞦韆(春)
意味:ブランコを照らす月に散開する同窓会だ。
童心に返って同級生たちとブランコで遊んでいたのでしょう。そんな気分も月がブランコを照らしだし、現実に戻らなければならないとみな帰っていく寂しさを感じています。
【NO.12】後藤夜半
『 ふらここの 他にも音の 軌むもの 』
季語:ふらここ(春)
意味:ブランコの他にも音の軋むものがある。
ブランコはキィキィと軋む音を立てます。作者はブランコ以外の音を聞いているので、規則正しいブランコの軋み以外の音を聞いたのかも知れません。風で何かが軋んでいたのか、懐かしさから自分自身が幼少期の頃の音を聞いていたのか、想像が膨らむ句です。
【NO.13】星野立子
『 父と子と 母と子とをり ふらここに 』
季語:ふらここ(春)
意味:父と子と、母と子がいるブランコだ。
父親と子供、母親と子供とそれぞれの家族がブランコで遊んでいる様子を詠んでいます。あちこちに遊ぶ家族がいる様子を詠んだ句です。親が子の背を押してブランコで遊んでいる公園の風景です。
【NO.14】加藤楸邨
『 鞦韆や わがための星 一つあり 』
季語:鞦韆(春)
意味:ブランコがあるなぁ。私のための星が一つあるのだろう。
ブランコと星という関連性のない言葉が並びますが、作者はブランコに乗りながら空を見上げていたのでしょう。あそこに私のために輝く星がある、と空を見上げて考えていたのかもしれません。
【NO.15】原石鼎
『 鞦韆の 花にうもれて 見ゆるかな 』
季語:鞦韆(春)
意味:ブランコが花に埋もれるように見えるなぁ。
春は様々な花が咲きます。たんぽぽや菜の花が咲いていたのか、ブランコが花に埋もれるように見えている楽しげな風景を詠んだ句です。
ブランコ(鞦韆)にまつわる一般俳句作品【15選】
【NO.1】
『 ぶらんこの 揺れて思い出 なつかし 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:ぶらんこが揺れて思い出がなつかしい。
中学生が詠んだ句です。作者はブランコが揺れるのを見て、幼いころブランコで遊んだ頃を懐かしく思い出しているのでしょう。
【NO.2】
『 ブランコを 大きくこげば 赤つつじ 』
季語:ブランコ(春)
意味:ブランコを大きくこぐと、赤つつじが咲いていた。
小学生が詠んだ句です。ブランコを大きく漕ぐと、向こうの方に赤つつじが咲いているのが見えたのでしょう。
春に咲く赤つつじとブランコの取り合わせがとても色鮮やかな句です。
【NO.3】
『 ぶらんこや 好きな子の背は 強く押す 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:好きな子の背中は強く押すブランコでのことだ。
中学生が詠んだ句です。
ブランコに乗る友達を押してあげている作者。好きな子のブランコは、さりげなく強く押してあげるのです。恋の初々しさが伝わってきます。
【NO.4】
『 ぶらんこで ぶつかる風と しゃべったよ 』
季語:ぶらんこ
意味:ぶらんこを漕いでいると、ぶつかる風としゃべったよ。
小学生が詠んだ句です。ブランコを大きく漕ぐと、風がびゅんびゅんと肌に当たります。
ぶつかる風としゃべったよと、風に擬人法を使っています。ブランコが楽しくてたまらない作者の姿が浮かびます。
【NO.5】
『 ブランコに 乗ってだんだん 風になる 』
季語:ブランコ(春)
意味:ブランコに乗ると、だんだん風になっていく。
小学生が詠んだ句です。ブランコは強く漕げば漕ぐほど、体が風に包まれます。
だんだん風になっていくような自分、ブランコに乗らなければ味わうことができない感覚でしょう。
【NO.6】
『 ぶらんこの 子の蹴り上げし 夕日かな 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:ブランコの子が蹴り上げた夕日であることだなあ。
子どもが空へ届くほど大きくブランコを漕いでいます。その蹴り上げた足の先には、夕日が輝いているのです。
夕日に包まれる、公園のブランコの一瞬の世界をうまく表現した句です。
【NO.7】
『 ふらここを 鳩すり抜ける 夕ごころ 』
季語:ふらここ(春)
意味:ぶらんこを鳩がすり抜けていく夕方でのことだ。
夕方誰もいなくなった公園では、鳩(はと)がブランコのくさりをすり抜けていったのです。
子どもたちのにぎやかな声が去った公園で、夕暮れ時の一瞬の切なさが伝わってきます。
【NO.8】
『 夜のぶらんこ 揺らしただけの 二人かな 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:夜のぶらんこを揺らしただけの二人であることよ。
夜の公園で、並んでゆっくりとブランコに座る二人は、まだお互いに想いを伝え合えずにいます。切ない恋の句です。
【NO.9】
『 ブランコや 大事な話 あとにする 』
季語:ブランコ(春)
意味:大事な話をあとにするブランコでのことよ。
大事な話をしたくて相手を呼び出した作者。
それなのになかなか言うことができず、ブランコをただ漕ぐばかりなのでしょう。
大事な話あとにするの語が、恋別れ色々な想像を読み手にさせる句です。
【NO.10】
『 公園の ブランコに雪が すわっている 』
季語:雪(冬)
意味:公園のブランコで、雪が座っている。
小学生が詠んだ句です。季語は雪、季節は冬の句です。
公園のブランコに積もった雪。雪に擬人法を用いて、雪もブランコに乗って遊びたいのだろうと感じた作者の視点が印象的です。
【NO.11】
『 ふらここの 揺れ残る影 みな帰ろ 』
季語:ふらここ(春)
意味:ブランコがユラユラと揺れて残っている影がある。みなで家に帰ろう。
家に帰ろうとブランコから降り、誰もいなくなった様子を詠んだ句です。遊んでいた名残としてブランコの影だけが揺れています。家に帰る時間を告げる夕日で出来た影でしょう。
【NO.12】
『 ぶらんこを 立ちこぎぼくは お兄ちゃん 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:ブランコを立ちこぎできる僕はお兄ちゃんだ。
ブランコの立ちこぎは危険なので、小さいうちはさせてもらえなかった人も多いのではないでしょうか。そんな立ちこぎができたので、今日からお兄ちゃんだと張り切っている様子が伺えます。
【NO.13】
『 ふらんどに 揺られて光る 膝小僧 』
季語:ふらんど(春)
意味:ブランコに揺られて膝小僧が光っている。
短パンを履いた子供の膝小僧が、日光を受けて光っている様子を詠んだ句です。「揺られて光る」とあることから、日陰で陽のあたる場所がブランコによって変わっている様子が浮かんできます。
【NO.14】
『 ぶらんこの 鎖の味を 何故か知る 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:ブランコの鎖の味を何故か知っている。
ブランコの鎖は鉄製のものが多く、錆びていることもあります。舐めた記憶は無いのに何故かその鎖の味を知っているような気がする、と不思議な感覚に陥っている一句です。
【NO.15】
『 ぶらんこの 揺れに物理を 当て嵌(は)める 』
季語:ぶらんこ(春)
意味:ブランコの揺れに物理学を当て嵌めてみる。
ゆらゆらと揺れるブランコの往復運動に物理学を当て嵌めてみている人の様子を詠んだ句です。色々な公式が頭の中を流れているのでしょうか。ブランコに乗りながら色々と考えているのかもしれません。
以上、ブランコ(鞦韆)の季語を含むオススメ俳句でした!
ブランコ(鞦韆)は、古代中国が起源の歴史がある遊具で、もともと女性が儀式で乗ったものということもあり、ブランコ(鞦韆)には優美でロマンチックなものが多くあります。
また、俳句では「春」の季語とされ、春のうららかな世界を表現できる語です。
「ブランコ(鞦韆)」を詠った句は、先人から現代の俳人たちが詠ったものまで多くあります。
ぜひ、「ブランコ(鞦韆)」の俳句を味わってみてください。