霜月は旧暦11月の異称で、現在の暦で12月頃を指します。
旧暦11月は霜が降り始める月という意味で「霜月」と名付けられるほど寒さが厳しくなり始めます。
11月「霜月」の由来は文字通り霜が降る月の意味である。他に、「食物月(おしものづき)」の略であるとする説や、「凋む月(しぼむつき)」「末つ月(すえつつき)」が訛ったものとする説もある。また、「神楽月(かぐらづき)」、「子月(ねづき)」の別名もある。 pic.twitter.com/PJlUXqINV3
— 美帆 (書家) (@shoka__miho) November 1, 2016
今回は、そんな「霜月(しもづき)」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介します。
霜月の季語を使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】各務支考
『 霜月の 霜のひかりや 月と花 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月の霜が光っているなぁ。空には月が出て地には花が咲いている。
「霜月」と「霜」を掛けた一句です。月の光で照らされた霜が花に見えているのか、実際に山茶花などの冬の花が咲いているのか想像の余地があります。
【NO.2】池西言水
『 霜月の 晦日よ京の うす氷 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月の終わりの日に京都は氷が薄く張るほど寒くなっている。
旧暦11月30日の京都の風景を詠んだ句です。冬の最中で桶などの水面に薄い氷が張っています。
【NO.3】向井去来
『 霜月や 日まぜにしけて 冬籠 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月だなぁ。1日ごとに天気が悪くなるので家の中に籠ろう。
「日まぜに」とは一日おき、「しけて」とは天気が悪くなって雪や雨が降ってくる様子のことをいいます。寒い上に天気が悪いとなると家の中で過ごしたくなるのは、江戸時代でも現代でも変わらない感覚のようです。
【NO.4】山本荷兮
『 霜月や 鸛(こう)のつくつく 並びゐて 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月が来たなぁ。コウノトリが真っ直ぐ並んで飛んでいる。
「鸛」はコウノトリ、「つくつく」とはまっすぐにという意味です。コウノトリが並んで飛んでいる様子を見て、その仲の良さに感心しているのでしょうか。
【NO.5】桜井梅室
『 霜月も こぼるるものは 松葉かな 』
季語:霜月(冬)
意味:松の葉は初夏に落ちると言うが、霜月になってもこぼれるように松葉が落ちている。
夏の季語に「松落葉」というものがあり、松の葉が落ちる様子を表しています。歳時記では夏の現象とされていますが、霜月になっても相変わらず葉は落ちているなぁという感慨の句です。
【NO.6】正岡子規
『 霜月や すかれすかれの 草の花 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月をむかえたなぁ。まるで梳かれているように生えている草の花である。
11月は草木が枯れていく季節です。まるで梳いたようにまばらに生える草木が花をつけている、冬の枯れ野を思わせる表現になっています。
【NO.7】正岡子規
『 霜月や 雲もかからぬ 昼の富士 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月だなぁ。晴れて雲もかからない昼の富士山が見える。
【NO.8】高浜虚子
『 霜月や 日ごとにうとき 菊畑 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月になったなぁ。日ごとにまばらになっていく菊の咲いていた畑だ。
「うとき」とは疎遠になる、よそよそしいという意味で使われます。菊の花は秋の象徴ですが、霜月という冬をむかえるにあたって1日ごとに枯れていき、まばらになっていく様子を詠んだ句です。
【NO.9】飯田蛇笏
『 霜月や 大瀬にうかぶ 詣(もうで)船 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月だなぁ。大瀬神社に参拝するために浮かぶ詣船がある。
大瀬とは沼津市にある大瀬神社のことです。この神社は駿河湾の豊漁を祈願する神社で、付近の海を反時計回りに船で3周する習わしがありました。
【NO.10】水原秋桜子
『 霜月も 末の雨浸む 菊葎(きくむぐら) 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月の末の日の雨が降り注ぐ菊葎よ。
「菊葎」とは林などに生育するアカネ科の植物で、草丈は30cmほどです。開花の時期は7月頃のため、既に花の散った菊葎に冬の雨が降り注ぐ寂しさを詠んでいます。
霜月の季語を使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】阿部みどり女
『 渡殿や 人行き交うて お霜月 』
季語:お霜月(冬)
意味:立派な渡殿だなぁ。多くの人が行き交っているお霜月の法要だ。
「お霜月」とは11月の霜月のことではなく、浄土真宗の親鸞聖人の忌日である11月22日から28日に行われる法要のことです。浄土真宗本山で行われるため、立派な渡り廊下である渡殿にいそがしく人が行き交っています。
【NO.12】日野草城
『 霜月のかたつむり こときれてゐし 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月に見たカタツムリはみな寒さで死んでしまっている。
カタツムリといえば初夏から夏に見かけるものです。冬である霜月に見るものは越冬できないかった個体のため、死んでしまっているものを庭先で見つけたのでしょうか。
【NO.13】前田普羅
『 霜月や 酒さめて居る 蝮(マムシ)取り 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月だなぁ。酒がさめてここにいる、マムシ取りをしよう。
【NO.14】吉岡禅寺洞
『 提灯の 下にあそぶ子 お霜月 』
季語:お霜月(冬)
意味:法要の提灯の下で遊ぶ子たちよ。お霜月の法要が始まるよ。
子供たちにとっては法要よりも縁日やきれいな提灯の方に興味があるでしょう。提灯の下ではしゃぎ回る子供たちの声が聞こえてくるようです。
【NO.15】佐藤鬼房
『 霜月の 朔(ついたち)何か ありさうで 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月の一日は何かがありそうな予感がする。
月が変わって1日をむかえると、心機一転する気分になります。「ありさうで」と具体的に感情を詠んでいないところが、ワクワクしているような感情の表現です。
【NO.16】飯田龍太
『 霜月の 沼ひとつある 山の中 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月の沼が一つだけある山の中の静けさよ。
まるで水墨画を思わせる風景を詠んだ句です。池ではなく沼としているところが、動きのない静謐とした山の中の雰囲気を感じさせます。
【NO.17】原月舟
『 霜月や 松ぽぐり干す 草の宿 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月だなぁ。松ぼっくりを干すような草の宿だ。
「松ぽぐり」とは松ぼっくりのことです。野外での宿泊を思わせる草の宿という言葉から、旅の途中の風景を連想させる句になっています。
【NO.18】村上鬼城
『 霜月や かたばみ咲いて 垣の下 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月が来たなぁ。季節外れのカタバミの花が咲いている垣根の下よ。
カタバミの花の開花時期は5月から10月とされているため、11月である霜月では季節外れです。垣根の下にひっそりとまだ咲いているカタバミを見つけたときの喜びを詠んでいます。
【NO.19】寺田寅彦
『 霜月や 下駄の音冴ゆる 大通り 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月だなぁ。空気が澄んで下駄の音も冴え渡るような大通りだ。
冬は空気が冴え渡り、音が遠くまで聞こえる気がします。最近では下駄の音を聞くことはまれですが、カランコロンと下駄を鳴らしながら大通りを闊歩する粋を感じさせる句です。
【NO.20】鈴木真砂女
『 霜月の ひかり泛(うか)べて 青畳 』
季語:霜月(冬)
意味:霜月の光に照らされて浮かんでいるように見える青畳だ。
この句の「ひかり」は太陽か月の光か言及されていません。平仮名で表記されているところから柔らかな光を連想するため、夏の厳しさのなくなった昼の太陽の光が思い浮かびます。
以上、霜月に関する有名俳句でした!
今回は、霜月に関する有名俳句を20句ご紹介しました。
11月という秋と冬の境界の時期であることから寒さを詠んだものや、季節外れの花を詠んだものが多かった印象です。
1日ずつ冬に向かって寒くなっていく霜月ですが、咲いている花や人々の動向などに目を向けて一句詠んでみてはいかがでしょうか。