俳句は五七五の十七音の中に季節を表す季語を詠む文学で、江戸時代に始まりました。
明治大正の伝統俳句や新興俳句の隆盛を経て、現在に到るまで多くの人が俳句を詠み続けています。
今回は、昭和後期から現在にかけて活躍し続けている「大高翔(おおたか しょう)」の人物像や有名俳句を紹介します。
春愁は机の傷の深さほど
大高翔 pic.twitter.com/5Q2lZito4D
— 蓮夏 (@hasunone123) April 11, 2016
大高翔の人物像や作風
大高翔(おおたか しょう)は、1977年(昭和52年)に徳島県阿南市に生まれました。
地元の俳句会である「藍花俳句会」の主宰をつとめていた母親の勧めで、13歳という若さで俳句を詠み始めます。また、母親のほかに青柳志解樹に師事するなど真剣に取り組んでいく様子が伺える期間です。
大学在学時代の10代で第一句集『ひとりの聖域』を出版したことにより若手俳人として脚光を浴びました。その後はNHKの「俳句王国」への出演、「全国高校俳句選手権大会」の審査員など子供たちの間に俳句を広める活動を行っています。
俳人の大高翔さんと一緒に、京都造形芸術大学で、短歌と俳句の講義を行いました。長時間でしたが楽しかったです。ホワイトボードに書かれているのは、ゾンビ先生付け句。 pic.twitter.com/BDIrAk3vdE
— 笹公人@第5歌集『終楽章』 (@sasashihan) October 21, 2016
大高翔の作風は、率直に青少年の悩みを詠んだ第一句集から、妻となり母となった第三句集の『キリトリセン』以降で、大きく人間の捉え方が変わっていくのが特徴です。
大高翔の有名俳句・代表作【20選】
【NO.1】
『 春の窓 ふいて故郷に 別れを告ぐ 』
季語:春(春)
意味:春の窓を拭いて故郷に別れを告げる。
「春の窓」とは卒業する学校の窓とも、実家を離れる際に掃除をしている窓とも解釈できます。故郷から旅立つ寂しさと決意を感じる一句です。
【NO.2】
『 藤棚の 真昼間吾(われ)を 幽閉す 』
季語:藤棚(春)
意味:藤棚の見事な花が、真昼間から私を幽閉しているようだ。
藤棚は藤の花が一面に垂れている場所のことです。藤の花に囲まれているとまるで昼間から閉じ込められてしまったような錯覚を覚えています。
【NO.3】
『 春雪や 産み月の身の うすくれなゐ 』
季語:春雪(春)
意味:春の雪が降っている。臨月の私の体はすこし薄紅に染まっている。
雪が降るほどの寒さなので、作者も寒さから少し赤くなっているのでしょう。春という言葉から連想される薄紅の花もあり、どこか艶やかな雰囲気を感じます。
【NO.4】
『 ペンダント 冷たい重さ 花の雨 』
季語:花(春)
意味:ペンダントが冷たい重さに感じる花の雨だ。
作者が学生の時に作られた一句です。このペンダントは誰かからの贈り物だったのか、関係が冷えてしまったことを重さと花が散っていく雨で表しています。
【NO.5】
『 朧夜の 香水そっと つけたして 』
季語:朧夜(春)
意味:朧夜に香水をそっと付け足して外出しよう。
朧夜に香水を付け足すという、ぼんやりとした風景にほのかな香りという視覚と嗅覚を想像させる一句です。どこから良い香りが漂ってきているのかつい探したくなります。
【NO.6】
『 何もかも 散らかして発つ 夏の旅 』
季語:夏(夏)
意味:何もかもを散らして旅立つ夏の旅だ。
作者の代表句の1つです。後始末も何もかも置いておいてとにかく旅に出る活発さと、夏という季節の持つ旺盛な生命力が感じられます。
【NO.7】
『 逢ふことも 過失のひとつ 薄暑光(はくしょこう) 』
季語:薄暑光(夏)
意味:会うことも過失の1つになりそうな初夏の日の光だ。
「薄暑光(はくしょこう)」とは初夏の太陽の日差しのことを指す季語です。恋人に会えた喜びと、いつか会いに行ったことを後悔するかもしれないという「過失」の間でせめぎ合う心を詠んでいます。
【NO.8】
『 何かしら 昼寝のなかに 置いてきし 』
季語:昼寝(夏)
意味:何かしらを昼寝の中に置いてきてしまったようだ。
うとうととした昼寝ではよく夢を見やすい状態です。夢の中で何かがあったような気がしても、覚醒と同時に忘れていく様子を詠んでいます。
【NO.9】
『 夕薄暑 青い果実の やうな時間 』
季語:薄暑(夏)
意味:夕方の初夏の太陽だ。青い果実のような時間帯である。
日の光を「青い果実」と例えているのが面白い一句です。この句からは青春時代の恋の様子が連想され、夕暮れを恋人と一緒に歩くドキドキとした時間を表現しています。
【NO.10】
『 夏怒涛(なつどとう) ひとりでゆける ところまで 』
季語:夏(夏)
意味:夏の荒れ狂う海が見える。1人で行けるところまで行ってみよう。
夏の荒々しい海を見ながら海辺を歩いている様子を詠んでいます。散歩というよりは探検といった雰囲気を感じる一句です。
【NO.11】
『 天高く 踵(きびす)をかへす 鳶(とんび)かな 』
季語:天高く(秋)
意味:天高く踵をかえすように飛んでいるトンビだなぁ。
空高く飛んでいるトンビが、急に踵をかえすように飛ぶ方向を変えた瞬間を詠んだ句です。トンビは旋回して飛ぶ鳥のため、急に方向を変えたように見えたのでしょう。
【NO.12】
『 残る虫 宿の枕の やや高き 』
季語:残る虫(秋)
意味:秋の遅くまで虫の声が残っている。宿の枕は私にはやや高いようだ。
「残る虫」とは秋が深まってもまだ鳴いている虫の声を指す季語です。旅に出ている作者は慣れない枕とともに旅情を感じています。
【NO.13】
『 叢雲を 漕ぎ出てきたる 月と星 』
季語:月(秋)
意味:叢雲を漕ぎ出てきたような月と星が見える。
「叢雲(むらくも)」とは幾重にも集まった雲のことです。空を覆い隠してしまっていた雲から、まるで漕ぎ出てきたように月と星が顔を覗かせています。
【NO.14】
『 両翼は 孤を愛しつつ 鷹渡る 』
季語:鷹渡る(秋)
意味:その両翼は孤独を愛しているように鷹が渡ってくる。
鷹は秋になると南方へ渡る種と日本に越冬のためにやってくる種がいます。群れを作らないことが多い鷹に対して、孤独を愛しているのだろうと想像している一句です。
【NO.15】
『 秋天に 東京タワーと いふ背骨 』
季語:秋天(秋)
意味:秋の空に東京タワーという背骨が立っている。
秋の青空に東京タワーの赤が映えている風景が浮かんできます。真っ直ぐに立つ東京タワーを背骨に例えたユーモアのある表現です。
【NO.16】
『 はろばろと 雪野駆くれば みな駿馬 』
季語:雪野(冬)
意味:遥々と雪の野原を駆ければみんな駿馬なのだ。
「はろばろ」とは「遥々」という意味の古語です。どんな馬でも雪原を走る馬は駿馬に見えるという作者の感動を詠んでいます。
【NO.17】
『 深雪晴(みゆきばれ) 見失ふもの 美しく 』
季語:雪晴(冬)
意味:とても晴れた雪の日だ。あまりの白さに見失うものも美しく見える。
「深雪晴」とは雪が降った翌日に空が晴れ渡る様子を指す季語です。日の光が雪面に反射して、まぶしさで目を細めている様子が浮かんできます。
【NO.18】
『 黒々と 木は荒星を 捉えたり 』
季語:荒星(冬)
意味:黒々と見えている木は、冬の強い光の星を捉えたようだ。
「荒星」とは冬の強い光を放つ星のことです。シルエットとして黒々と浮かぶ木々の枝が、まるで星を捉えるように伸びている様子を詠んでいます。
【NO.19】
『 一本の 詩として眠る 冬木かな 』
季語:冬木(冬)
意味:1本の詩として眠っているような冬の木であるなぁ。
「1本」が詩と冬木に掛かっている一句です。木を詩に例えている面白い俳句で、季節によって姿を変える木を詩のようだと表現しています。
【NO.20】
『 凩(こがらし)に 放てば獲られて しまふ声 』
季語:凩(冬)
意味:木枯らしが吹く中で放てば風にとられてしまう声だ。
木枯らしは冬の初めに吹く強い風で、かなりの音を立てています。話しかけても風の音で聞こえないという様子を「獲られて」とまるで木枯らしに声を横取りされたような表現が面白い一句です。
以上、大高翔の有名俳句20選でした!
今回は、大高翔の作風や人物像、有名俳句を20句紹介しました。
高校生という若い時期から俳人として頭角を表した作者は、ライフステージに合わせて作風や題材が変化していく特徴があります。
現代俳句では女流俳人も多くいるので、ぜひ詠み比べてみてください。