如月とは陰暦の2月のことで、現在の暦では3月頃です。
暦の上では春ですが、まだ寒い日が続くため服を重ね着する 「衣更着(きさらぎ)」という言葉が語源とも言われています。
今日から2月。如月。
暖かくなりつつあるなかで感じる寒さ 。更に服を着重ねるので「衣更着」。
季節が変わっていくので「気更来」。あるいは「息更来」、「草木張り月」、「鋤凌(すきさらぎ)」等々とも言う。
2月の花、梅から梅見月とも。 pic.twitter.com/qQTMAISdw4— 咲良 (@sakuranotabi) January 31, 2015
今回は、そんな「如月」に関する有名俳句を20句ご紹介していきます。
如月に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】加舎白雄
『 煤ちるや はや如月の 台所 』
季語:如月(春)
意味:煤が散っているなぁ。まだ如月である台所よ。
年末に大掃除をしたのに、2月になってもう煤が散っているという愚痴めいた一句です。大自然の営みから時間の経過を感じるだけでなく、生活のちょっとしたことを詠んでいるのが特徴になっています。
【NO.2】上島鬼貫
『 きさらぎの 日和もよしや 十五日 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月の良い天気の日であるなぁ。この15日は。
旧暦2月15日は西行法師の命日とされています。西行法師は「その如月の望月の頃」という自身の句のとおりに亡くなったため、この句は西行法師を思い浮かべての一句です。
【NO.3】井上士朗
『 如月や 入日の底に なく千鳥 』
季語:如月(春)
意味:如月だなぁ。夕日が沈む底に千鳥が鳴いている。
日が沈んでいく場所にちょうど千鳥がいて鳴いている、という絵画のような俳句です。千鳥は甲高い声で鳴くため、まだ寒い日没の寂しさが感じ取れます。
【NO.4】正岡子規
『 死はいやぞ 其きさらぎの 二日灸 』
季語:二日灸(春)
意味:死ぬのは嫌だ。西行法師は「其の如月の」と詠んだが長生きするために二日灸を据えよう。
二日灸とは旧暦2月2日に据えるお灸のことで、効果が倍になる、長生きするなどの効能がうたわれていました。「死」と「其きさらぎの」という表現からは、西行法師の「願はくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月の頃」という和歌を下地にしていることがわかります。
【NO.5】正岡子規
『 きさらぎの 笈摺(おいずり)赤し 子順礼 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月の笈摺が赤い子供が巡礼をしている。
「笈摺」とは四国八十八箇所などの巡礼に着る白い着物のことです。両親が健在なら白、片親なら中心が青、いない場合は中心が赤など家族構成が決まっています。この句では赤いと言われていますが、御朱印を笈摺に記してもらう場合もあるため、解釈が分かれています。
【NO.6】高浜虚子
『 如月の 駕(かご)に火を抱く 山路かな 』
季語:如月(春)
意味:如月のまだ寒い時期に、カゴに火を入れて抱いて歩く山道であることだ。
まだ寒く日が落ちるのも早い2月の山道では、明かりと暖を取れるものが必須です。「駕に火を抱く」という表現をすることで、あたたかな光源を抱えながら山道を歩いている様子が浮かんできます。
【NO.7】日野草城
『 きさらぎの 藪にひびける 早瀬かな 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月になり春へ向かうことで勢いを取り戻し始めた薮に日がさしこみ、流れの早い急流の音が響いていることだ。
【NO.8】原石鼎
『 如月や 障子の外の 楠落葉(くすおちば) 』
季語:如月(春)
意味:如月だなぁ。障子の外には楠の落ち葉がある。
楠は落葉樹の中では春に落葉することで有名です。季語としては夏の季語になりますが、この句では如月になり春を迎えたことで楠の葉が落ち始めたという意味のため、如月が季語になります。
【NO.9】鈴木真砂女
『 如月や 芦に微塵の 青さなく 』
季語:如月(春)
意味:如月だなぁ。芦には微塵の青さもなくまだ春は遠いことだ。
「枯葦」という枯れた葦(芦)が冬の季語になるほど、冬の芦は茶色くなってしまいます。暦の上では春ですが、芦は変わらず茶色のままで少しも緑にならないと嘆いている一句です。
【NO.10】久保田万太郎
『 きさらぎや うぐひすもちの 青黄粉 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月だなぁ。鶯餅の青きな粉の季節だ。
「青黄粉」とは青大豆を使って作られるきな粉のことで、鶯餅には欠かせないものです。暦の上では春となったことで、初春のお菓子である鶯餅が食べられると喜んでいます。
如月に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】飯田蛇笏
『 きさらぎの 門標をうつ こだまかな 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月の季節の、門標をカタカタと打っているこだまのような風であることよ。
春の初めとはいえまだ風の強い日が多い2月です。そんな外から吹き込む風で、門に掛ける表札である門標が揺らされている様子をこだまに例えています。
【NO.12】臼田亞浪
『 如月の 烈風釘を 打つ音す 』
季語:如月(春)
意味:如月の強い風は釘を打ち付けるような音がする。
前の句と違い、こちらは激しく吹く風が周りのものにぶつかり、釘を打つような音がすると表現しています。小石が吹き飛ばされて物に当たっている音が聞こえるようです。
【NO.13】木村蕪城
『 きさらぎや 白うよどめる 瓶の蜜 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月だなぁ。まだまだ寒くて白く固まってにごっている瓶の中の蜂蜜であることだ。
【NO.14】服部嵐雪
『 きさらぎや 火燵のふちを 枕本 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月になったなぁ。寒くて炬燵の縁を枕元に寄せてしまう。
「火燵」とはコタツのことで、江戸時代には火鉢を使った置き炬燵が登場しました。2月とはいえまだ寒いため、暖を取ろうとあたたかい炬燵を引き寄せている様子が浮かんできます。
【NO.15】中村草田男
『 如月や 値札ふかぶか 豆の中 』
季語:如月(春)
意味:如月をむかえたなぁ。値札が深々と豆の中に埋まっている。
2月です豆といえば思い浮かぶのは節分です。節分用の豆かはわかりませんが、量り売りの豆の中に値札が深々と突きささっている光景はどこかで見かけたことがあるのではないでしょうか。
【NO.16】福田蓼汀
『 きさらぎの 信濃や鯉と 松葉酒 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月の信濃だなぁ。鯉料理と松葉酒を楽しもう。
信濃、現在の長野では鯉料理が有名です。また、「松葉酒」は松の葉を漬けたお酒で冬の季語にもなっています。2月の長野旅行で名物を堪能している旅の句です。
【NO.17】大野林火
『 きさらぎの 雨たまる田の 二三枚 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月に降った雨で、二三枚の田んぼに水が溜まっている。
2月の田んぼは水が抜かれていますが、雨で水を入れた時のようになっている様子を詠んでいます。田んぼは「一枚、二枚」と呼ぶので、小規模な稲作を行っていた場所であることが想像できる句です。
【NO.18】西島麦南
『 きさらぎの 捨てて火ばしる 炉灰かな 』
季語:きさらぎ(春)
意味:如月の寒い日に、使い終わって捨てた炉の灰にまだ火の気が残っていて火花が散ったことだ。
まだ肌寒い2月なので、暖房器具としての火鉢や囲炉裏は必須の時代でした。使い終わったと思った炉の灰を捨てたところ、少し残っていた火の気が火花を散らす風景は、今ではアウトドアなどでしか見かけないものになっています。
【NO.19】松尾芭蕉
『 裸には まだ衣更着の 嵐かな 』
季語:衣更着(春)
意味:裸でいるにはまだ衣を重ねて着るという如月ではまだ早い。冬のような寒さの嵐だなぁ。
如月の由来は、まだまだ寒さが厳しい時期ために更に衣を重ね着する「=衣更着(きさらぎ)という説が最も有力とされています。「如月」ではなく「衣更着(きさらぎ)」と表現することによって、裸との対比や重ね着したいほどの寒さを表現しています。冬のような寒さの嵐の中で、春はまだ遠いと実感する一句です。
【NO.20】広瀬惟然
『 衣更着の かさねや寒き 蝶の羽 』
季語:衣更着(春)
意味:衣を重ねて着る如月では、かさねのように美しい蝶の羽もそのままでは寒く見えるものだ。
「かさね」とは十二単などの着物を重ねた様子のことです。蝶の羽がかさねのように美しいことを称えつつ、寒空の中では衣を重ねた方がいいなというユーモアのある句になっています。
以上、如月に関する有名俳句でした!
今回は、如月に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
暦の上では春の始まりとされる月とはいえまだ寒さの残る様子や、西行法師の「願はくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月の頃」という和歌を下地にした句が多いのが特徴です。
冬の寒さと春の兆しが同時に訪れる1ヶ月を題材に、一句詠んでみてはいかがでしょうか。