土筆は全国に自生しているスギナの胞子茎の事で、草原や河原などに多くみられる春の風物詩です。
俳句においては「仲春(太陽暦では3月頃)」の季語で、春の野遊びや味覚として登場します。
今回は、「土筆(つくし)」をテーマにした俳句20句をご紹介します。
摘む人もなき山里の土筆かな#俳句 #写真haiku #土筆 pic.twitter.com/futliAHLyD
— とんぼ (@tonbo_yu_yu) March 6, 2016
土筆(つくし)をテーマにした有名俳句【10選】
【NO.1】正岡子規
『 看病や 土筆摘むのも 何年目 』
季語:土筆(春)
意味:ずっと私の看病をしていた妹よ。春に土筆を摘むのは何年ぶりのことだろうなぁ。
子規の妹は子規の看病をしていることが多く、土筆摘みのようなちょっとした野遊びに出かけることも少なかったと言われています。そんな中で子規の病状が安定したため、兄妹そろって野遊びに出かけた喜びが「看病や」という言い切りにあふれています。
【NO.2】星野立子
『 ままごとの 飯もおさいも 土筆かな 』
季語:土筆(春)
意味:おままごとのご飯もおかずもみんな土筆で表現していることだ。
「おさい」とはおかずのことです。春の野原でおままごとをしている子供たちをよく見ると、ご飯もおかずもみんな摘まれた土筆で表現しています。実に可愛らしい句です。
【NO.3】北原白秋
『 つくしが出たなと 摘んでゐれば 子も摘んで 』
季語:つくし(春)
意味:今年も土筆が出たなと摘んでいると、寄ってきた子供も一緒に摘みはじめた。
八・六・五と散文に近い韻律です。作者は俳句や短歌の他に童謡も数多く手がけていて、どこか童謡のような情景の俳句になっています。
【NO.4】宝井其角
『 すごすごと 摘やつまずや 土筆 』
季語:土筆(春)
意味:しょんぼりと摘もうか摘むまいか迷っている土筆であることよ。
「すごすごと」という言葉から何か落ち込むことが直前にあったのかもしれません。野遊びの象徴である土筆を見つけても、摘もうかどうしようか迷っている様子を表しています。
【NO.5】富安風生
『 わが机 妻が占めをり 土筆むく 』
季語:土筆(春)
意味:私の机は妻が占領していて土筆をむいている。
土筆は食べる際に下処理が必要になります。その下処理のために、仕事用の机までもが作業場にされてしまっていることに苦笑していることでしょう。
【NO.6】高浜年尾
『 一ところ ばかりではなく 土筆摘む 』
季語:土筆(春)
意味:1ヶ所だけではなく、何ヶ所にも土筆が生えているから摘みに行こう。
土筆は春になるとあちらこちらに生えてきます。1ヶ所だけではなくいくつかの場所を回ることで、たくさん取ってしまおうという茶目っ気を感じる表現です。
【NO.7】水原秋桜子
『 人来ねば 土筆長けゆく ばかりかな 』
季語:土筆(春)
意味:人が来なければ、土筆はどんどん成長していくばかりであることだ。
土筆はスギナという植物で、土筆が枯れた後に緑色の茎が生えてきます。そのため、人が土筆として利用しなければ緑色のスギナが群生する場所になり、人が立ち入っていないことがわかるのです。
【NO.8】阿波野青畝
『 卵黄に 掻きまぜられし 土筆 』
季語:土筆(春)
意味:卵黄に掻き混ぜられる土筆であることよ。
土筆は少し苦味のある春の味覚です。この句では玉子とじにして食べるのでしょうか、おいしそうな匂いが漂ってきます。
【NO.9】阿部みどり女
『 暁や 土筆摘みたる 夢を追ふ 』
季語:土筆(春)
意味:夜明けである。野原で土筆を摘んでいた夢を追おう。
もう一度寝直して夢を見ようとしたのか、早朝から実際に土筆を摘みに行ったのか、いろいろな想像がふくらむ句です。春の夜明けという幻想的な時間帯が夢とよくマッチしています。
【NO.10】有働亨
『 土筆生ふ 蘇我物部の むかしかな 』
季語:土筆(春)
意味:土筆が生えている。蘇我氏と物部氏の戦いもはるか昔であることだ。
「蘇我物部」とは蘇我氏と物部氏のことで、歴史書によると西暦587年に大阪で戦いが起き、蘇我氏が勝利しています。そんな両者の衝突も今は昔、土筆が生えている牧歌的な雰囲気になった野原を見ているのでしょう。
土筆(つくし)をテーマにした俳句ネタ集【10選】
【NO.1】
『 花びらを 日傘かわりの 土筆かな 』
季語:土筆春)
意味:花びらを日傘代わりに乗せている土筆であることよ。
土筆の頭は丸くなっていますが、そこに花びらが乗ることでまるで日傘をさしているような形になっています。季節的にこの花びらは桜の花びらでしょうか。のんびりとした春の光景です。
【NO.2】
『 一仕事 袴むく児の 土筆かな 』
季語:土筆(春)
意味:一仕事だ。土筆の袴をむく子供たちであることよ。
土筆は下部に袴と呼ばれる節のようなものがあり、調理するときはその袴を取る作業があります。子供たちはその袴取りという大事なひと仕事を任されて張り切っている様子が詠嘆の「かな」から伝わってきます。
【NO.3】
『 土筆のような チンアナゴたち そそりたつ 』
季語:土筆(春)
意味:まるで土筆のようなチンアナゴたちがそそり立っている。
水族館での一コマです。「土筆のような」という形容表現から、チンアナゴを知らない人にも「そそりたつ」様子が想像できる面白い表現になっています。
【NO.4】
『 1寸の 丈を誇りの 土筆かな 』
季語:土筆(春)
意味:たった一寸しかないようなわずかな大きさでも、誇りに思うように生えている土筆であることだ。
土筆は10cmほどの物が採取されます。ここでは一寸と表現していますが、実際の一寸は3cmほどでかなり小さくなるため、小さいものの象徴として一寸という例えを使っています。
【NO.5】
『 石佛に 荷物あづけて 土筆摘む 』
季語:土筆(春)
意味:石仏に荷物を預けて土筆を摘んでいる。
野原や河川敷にお地蔵さまのような石の仏様があったのでしょう。石仏の前に荷物を置いて、生えていた土筆を摘む様子が目に浮かびます。
【NO.6】
『 土筆たち 折れず折られず 仁王立ち 』
季語:土筆(春)
意味:土筆たちは折れず、誰かに折られることもなく仁王立ちするように生えている。
まっすぐに上に向かって生えている姿を仁王立ちと表現していることと、実際の可愛いらしい土筆の姿のギャップが面白い句です。風雨にも負けずに天を目指すように生える様子を詠んでいます。
【NO.7】
『 摘み過ぎて 袴(はかま)取らずに 土筆茹で 』
季語:土筆(春)
意味:摘みすぎて、調理のために取るべき土筆の袴の部分を取らずに茹でてしまった。
土筆は袴と表現される節を取らないと口当たりが悪くなります。しかし、摘んだ量が多すぎたために下処理が追いつかず、そのまま調理してしまったのでしょう。どんな味になったのか、少し興味がわく一句です。
【NO.8】
『 せせらぎに 駆けだしそうに 土筆生ふ 』
季語:土筆(春)
意味:せせらぎに向かって駆け出しそうに前のめりになった土筆が生えている。
河川敷の傾斜で少し斜めになって土筆が生えていたのでしょう。川のせせらぎに向かって今にも走り出しそうという表現が土筆の群生をよく表しています。
【NO.9】
『 走り人 土筆な踏みそと 祈りけり 』
季語:土筆(春)
意味:ランニングをしている人が、土筆を踏みませんようにと祈っている。
「土筆な踏みそ」とは古語で「土筆を踏まないでくれ」と表現しています。古い言い回しに合わせてランニングしている人を「走り人」と表現しているのが面白い一句です。
【NO.10】
『 土筆立つ 一年坊主の 如く立つ 』
季語:土筆(春)
意味:土筆が立っている。緊張して直立している一年坊主のように立っている。
「立つ」を2回繰り返すことで、直立している様子を強調しています。一年坊主とは小学一年生の子供のことで、緊張してじっと立っている様子を例えているよい表現です。
以上、土筆(つくし)をテーマにしたオススメ俳句でした!
今回は、土筆をテーマにした俳句を有名なもの10句、オリジナルのものを10句ご紹介しました。
昨今では河川敷の整備や空き地の減少から土筆が生えている情景が想像しにくくなっているかもしれません。春の風物詩である土筆を見つけたときには、ぜひ一句詠んでみてはいかがでしょうか。