俳句は五七五の十七音の韻律の中に季節を表す季語を詠み込み、さまざまな風景や心情を表現する詩です。
江戸時代に成立した俳句は明治大正を経て近代俳句として昇華され、さまざまな作風の俳人が登場しました。
今回は、明治から昭和にかけて童謡で知られた「北原白秋(きたはら はくしゅう)」の有名俳句を20句紹介します。
[11月2日] #白秋忌
詩人・北原白秋の1942年の忌日。明治から昭和初期にかけて活躍した北原白秋は日本を代表する詩人で歌人の一人。詩集「邪宗門」や、数多くの童謡の作詞を発表した。福岡県柳川市に記念館がある。🎵この道はいつか来た道 ああ そうだよ あかしやの花が咲いてる〜 pic.twitter.com/6CgqDz0mRe— 銀☆彡2017 (春は何処) (@nanairotonbo) November 1, 2016
北原白秋の人物像や作風
(北原白秋 出典:Wikipedia)
北原白秋(きたはら はくしゅう)は、1885年(明治18年)に熊本県で生まれ、生家の福岡県柳川家で育ちました。
学生時代より『明星』などの雑誌から詩歌に傾倒し、1901年には「白秋」の号を使って雑誌に投稿しています。
1906年には新詩社に参加したのをきっかけに多くの文豪と知り合い、詩集を発表していきます。そんな中で1913年には初の作詞となる「城ヶ島の雨」を発表し、瞬く間に人気となりました。1918年には鈴木三重吉の勧めにより『赤い鳥』の童謡欄を担当し、「からたちの花」などの童謡を発表しています。
その後も多くの歌集や詩集を発表し続けたほか、さまざまな学校の校歌の作詞も担当しています。1929年には自身の著作の集大成である『白秋全集』の発行を始めるなど精力的に活動していましたが、1937年に糖尿病と腎臓病の合併症で視力を失い、1942年(昭和17年)に57歳で亡くなりました。
(福岡県柳川市にある北原白秋生家 出典:Wikipedia)
白秋は生前に俳句の句集を発表することはなく、死後に『竹林清興』という句集が出版されました。
作風としては自身の童謡と絡めたものが見られるほか、自由な韻律の俳句にも挑戦しています。
北原白秋の有名俳句・代表作【20選】
【NO.1】
『 春の蚊よ 竹林に風呂 焚きつけて 』
季語:春の蚊(春)
意味:春の蚊が飛んでいる。竹林の中で風呂を焚き付けている最中なのに。
蚊は夏によく出る虫ですが、気温が高いと春にも出現します。春だから大丈夫だろうとお風呂に入っていたら蚊が寄ってきたときの様子を詠んだ句です。
【NO.2】
『 つくしが出たなと 摘んでゐれば 子も摘んで 』
季語:つくし(春)
意味:土筆が出たなと摘んでいれば、子供も土筆を摘みだした。
春の土筆取りはかつてよく行われていた野遊びの1つです。ふと横を見ると親の様子を真似て摘んでいる様子を詠んでいます。
【NO.3】
『 童子童子 からたちの花が 咲いたよ 』
季語:からたちの花(春)
意味:子供たちよ、子供たちよ、からたちの花が咲いたよ。
この句は作者が作詞した童謡である「からたちの花」という歌を下地にしています。童謡を歌う子供たちに、「からたちの花が咲いたよ」と歌詞と同じ言葉をかけている一句です。
【NO.4】
『 曇り硝子の しめても向うの 杉菜 』
季語:杉菜(春)
意味:曇りガラスを閉めても向こうにスギナが見える。
「杉菜」とは土筆の後に生えてくる緑色の茎のことです。土筆と違い食用にはあまり用いられませんが、咳などに効く生薬として利用されています。
【NO.5】
『 徹夜の日の出 ほろ苦い蕗の薹を焼いて 』
季語:蕗の薹(春)
意味:徹夜して日の出を見る。ほろ苦いフキノトウを焼いて食べよう。
徹夜をして朝になり、日の出を拝んでしまったという経験がある人もいるでしょう。苦いフキノトウを食べようとしていることから眠気を覚まそうとしているのでしょうか。
【NO.6】
『 紫蘭(しらん)咲いて いささかは岩も あはれなり 』
季語:紫蘭(夏)
意味:紫蘭が咲いて、少しは岩にもしみじみとしたおもむきがあるものだ。
「紫蘭」とは紫色の花を咲かせる蘭の一種です。岩だらけの殺風景な場所に紫蘭が咲くことによっておもむきがある場所になっていると感嘆しています。
【NO.7】
『 初夏だ初夏だ 郵便夫に ビールのませた 』
季語:初夏(夏)
意味:初夏だ、初夏だ。郵便配達に来た人にビールを飲ませた。
「ビール」も夏の季語ですが、2回繰り返して強調しているため「初夏」を季語としました。仕事中の人にビールを飲ませてしまうというかつてのおおらかな時代を感じさせます。
【NO.8】
『 光りかけた 時計の表 梅若葉いま 』
季語:若葉(夏)
意味:日が差し込んで光かけた時計の表面に、梅の若葉は今どうなっているのだろうとふと思った。
「梅若葉」という季語はないため、「若葉」が季語になります。夏の日差しによって梅の若葉が気になったという経緯を、時計の表面の反射光をきっかけに気がついたとしているユーモアのある句です。
【NO.9】
『 紫陽花に 馬が顔出す 馬屋の口 』
季語:紫陽花(夏)
意味:紫陽花が咲いているなぁと馬が顔を出す馬屋の入り口だ。
馬が馬屋から顔を出したのを見て、紫陽花を見に来たのかと感じている一句です。梅雨時の中の鮮やかな色彩に目を奪われる様子を詠んでいます。
【NO.10】
『 向日葵の ゆさりともせぬ 重たさよ 』
季語:向日葵(夏)
意味:向日葵のゆさりともしない重たさよ。
ヒマワリは花が大きい上に重く、風が吹いてもあまり揺れません。その重さを句切れなしで一息に詠むことによって感嘆している様子を表現しています。
【NO.11】
『 榧(かや)の木に 榧の実のつく さびしさよ 』
季語:榧の実(秋)
意味:榧の木に榧の実がついてもうすぐ冬が来ると感じるさびしさよ。
カヤの実は10月頃に実が熟して地面に落ちます。カヤの木は常緑樹のため冬でも落葉しませんが、実の様子を見て冬が近づいていることを実感している一句です。
【NO.12】
『 松笠の 青さよ蝶の 光り去る 』
季語:松笠の青さ/青松笠(秋)
意味:青い松ぼっくりの青さよ。ぼんやり見ていると蝶が日の光を受けて輝きながら去っていった。
作者が執筆をしていてふと手を止めて外を眺めた時に詠んだと言われている句です。青い松ぼっくりと光を反射して飛び去る蝶の色彩を対比しています。
【NO.13】
『 灯を消して 雨月の黄菊 我も嗅がむ 』
季語:菊(秋)
意味:明かりを消して雨月の夜の黄菊の香りを私も嗅ごう。
「雨月」とは雨が降っていて月のない夜のことを表しますが、ここでは「雨月物語」が掛かっています。雨月物語には「菊花の契」という菊にまつわるエピソードが収録されているためでしょう。
【NO.14】
『 この秋は おいらんさうの 皆しろし 』
季語:秋(秋)
意味:この秋は花魁草がみな白い花を咲かせている。
「花魁草」とはフロックスとも呼ばれる花で、紫や白、ピンクなどさまざまな色の花を咲かせます。作者が目にした花魁草はみな白い花を咲かせていたので驚いている様子を詠んだ句です。
【NO.15】
『 行く秋や 風白うして 象(すがた)あり 』
季語:行く秋(秋)
意味:秋が終わるなぁ。秋の風は白い色とされる中でも、確かにそこに秋の形があるのだ。
この句は中国の五行思想を元にしているため理解するには知識が必要です。五行思想は季節に色を配置して解釈していて、その中でも秋は白とされていました。「白秋」という作者本人の号もここから来ています。
【NO.16】
『 焚火のそばへ 射つてきた鴨 』
季語:鴨(冬)
意味:焚き火のそばに撃ちおとした鴨をどさりと置いた人がいる。
鴨打ちに来ている人達が焚き火を囲んでいるという情景から、焚き火ではなく鴨が季語になっています。獲物としてしとめられた鴨が無造作に置かれている様子を詠んだ句です。
【NO.17】
『 瓦斯燈(がすとう)に 吹雪かがやく 街を見たり 』
季語:吹雪(冬)
意味:ガス灯に吹雪がきらきらと反射して輝いている街を見た。
作者は九州で生まれ東京で過ごすという吹雪に縁のない生活を送っていました。雪国を訪れたのか、東京でもまれに訪れる大雪の日の光景なのか、吹雪がガス灯の明かりを反射する様子を見て驚いています。
【NO.18】
『 枇杷の木に 枇杷の花咲く 冬至なる 』
季語:枇杷の花(冬)
意味:ビワの木にビワの花が咲く冬至になった。
ビワは実を食べることで有名ですが、花も冬の季語になっています。黄色がかった白い花を咲かせるのが特徴で、香りがあるため目立つ花です。
【NO.19】
『 茶の花に あはい余震を 感じてる 』
季語:茶の花(冬)
意味:お茶の花に淡い余震のような震えを感じている。
お茶は5月の茶摘みが有名ですが、花は冬に白い花を咲かせます。ここで詠まれている「余震」は実際の地震だったのか、寒さから来る震えを例えたのか想像が膨らむ句です。
【NO.20】
『 物の音の 冴える夜だ 子も目をあいて 』
季語:冴える(冬)
意味:物音が冴える夜だ。子供も起きて目を開けている。
物音がよく響く冬の夜を詠んだ一句です。風で物が飛ばされたような音は夜間ではかなり響いて聞こえるため、子供もびっくりして起きてしまっています。
以上、北原白秋の有名俳句20選でした!
今回は、北原白秋の作風や人物像、有名俳句を20句紹介しました。
作者は短歌や童謡が有名であまり俳句は知られていませんが、秀句が数多く残されています。
中には自身の作った童謡とリンクしている面白いものもあるので、ぜひ読み比べてみてください。