「天の川」は夏の夜空を彩るその美しさから、多くの俳句が詠まれています。
荒海や
佐渡に横たふ
天の川 松尾芭蕉
#秋の俳句#松尾芭蕉 pic.twitter.com/EeA6euprT0
— 菜花 咲子(ナバナサキコ) (@nanohanasakiko2) October 23, 2015
うつくしや
障子の穴の
天の川 小林一茶#秋の俳句 pic.twitter.com/BAHYJlr3cJ
— 桃花 笑子 (@nanohanasakiko) August 22, 2014
今回は、「天の川」を季語に含むおすすめ有名俳句を20句ご紹介します。
※「天の川」は七夕と同様に夏の季語と間違われやすいですが、実は「秋の季語」です。
天の川に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 荒海や 佐渡に横たふ 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:荒れた日本海が広がっているなぁ。黒い影となっている佐渡ヶ島の上に横たわる天の川の美しさよ。
荒れている海、どっしりと動かない島、空にまたたく天の川と壮大かつ動きのある一句です。この句は『おくのほそ道』で新潟県に訪れた際に詠まれました。
【NO.2】松尾芭蕉
『 水学も 乗物かさん あまの川 』
季語:あまの川(秋)
意味:水からくりの名人である水学も、織姫と彦星のために船を貸してくれるだろう天の川よ。
水学とは「水学宗甫」のことで、長崎から取り入れた水を使ったカラクリの名手でした。そんな水学がきっと手助けしてくれると詠んでいるため、この年の七夕は雨だったのかもしれません。
【NO.3】小林一茶
『 うつくしや 障子の穴の 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:なんと美しいことか。障子の穴から見えるあの天の川は。
作者が病床に伏していたときの一句です。外に出て天の川を見ることはできませんが、障子の穴という小さい場所から広大な天の川を眺められる喜びを詠んでいます。
【NO.4】小林一茶
『 木曾山に 流入けり 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:木曽の山に流れて入っていくような天の川だ。
天の川は上から下に流れるように見えています。ちょうど木曽の山の中に入っていくようなアングルで天の川を見たのでしょう。
【NO.5】服部嵐雪
『 真夜中や ふりかはりたる 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:真夜中だなぁ。時間が経つにつれて見え方が変わっていく天の川よ。
時間が経つと共に動いていき、見え方が変わっていく天の川を詠んでいます。手洗いなどで外に出たときに、眠る前とは全く違う星空になっていた驚きの一句です。
【NO.6】正岡子規
『 北国の 庇(ひさし)は長し 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:北国の家の庇は長いなぁ、天の川がちょうど庇にかかっている。
北国の家は、雪や氷柱をさけるために庇が長めに作られています。夜外に出ようとしたら、その庇にかかるように天の川が見えていた風景を詠んだ句です。
【NO.7】正岡子規
『 山の温泉や 裸の上の 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:山の中の露天風呂だなぁ。裸で入る私の上に天の川が横たわっている。
【NO.8】高浜虚子
『 天の川の もとに天智天皇と 臣虚子と 』
季語:天の川(秋)
意味:天の川が広がるこの大宰府の地に、かつて天智天皇がいらっしゃり、今は臣下であるこの虚子もいるのだ。
この句は大宰府で詠まれたものです。天智天皇が唐突に出てきているように思えますが、このとき作者は白村江の戦いを連想していたのでしょう。その場にいただろうかつての天皇と、今ここにいる自分を対比している句です。
【NO.9】夏目漱石
『 別るるや 夢一筋の 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:友と別れ、病気を治すという夢を一筋の天の川に託した。
この句は作者が療養中に友人とうまく待ち合わせができなかった時に詠まれました。頼りにしている友人と会えず、それでも快癒の夢をその時見た天の川に託している一句です。
【NO.10】臼田亞浪
『 話声奪ふ 風に野を行く 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:話し声が奪われるような強い風が野を吹きすさび、空には天の川が見えている。
荒涼とした野原と強い風、上空の美しい天の川とあますことなく秋の魅力を伝えている句です。強風が木枯らしに変わるまでもう少しといった感覚を受けます。
天の川に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】山口誓子
『 海の門や 二尾に落つる 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:海の門が見えるなぁ。天の川はまるで尾が二つになったように海に向かって落ちていく。
天の川の中心部はやや暗く、まるで尾が二つあるように見えます。海という空との境界線を門と表現し、海に飲み込まれるように見えなくなっていく様子を詠んだ句です。
【NO.12】吉岡禅寺洞
『 天の川 この秋の客 誰々ぞ 』
季語:天の川(秋)
意味:天の川を見ていたら、こんな秋に客が来たようだ。いったい誰だろう。
秋が深まり、冬が近い時期のように感じる一句です。天の川が見えていることから夜の来客で、ますますこんな時間に誰だろうかという不思議そうな作者の顔が浮かんできます。
【NO.13】原石鼎
『 天の川 かはべにたてば 星の海 』
季語:天の川(秋)
意味:天の川の川辺に立てば、そこには星の海が広がっているのだろうなぁ。
【NO.14】飯田蛇笏
『 終戦の 夜のあけしらむ 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:終戦の日の夜が明けて空が白んでいく。輝いていた天の川も次第に朝の光に照らされて消えていく。
終戦の日は8月15日、俳句の季節では秋です。いつもと変わらない夜空の天の川が、いつもと変わらぬ朝日によって消えていく様子を静かに見守っています。
【NO.15】高野素十
『 わが星の いづくにあるや 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:私の星はどこにあるのだろうか、あの天の川の中に。
この句は作者の辞世の句とされています。師匠である高浜虚子にも似たような俳句があり、客観的に写生することを貫いた作者も、病床で想像を主とする主観の世界を詠んでいたことがよくわかる句です。
【NO.16】星野立子
『 昼の間の 出来ごと遠く 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:昼の間にあった出来事が遠く思われるような天の川の美しさだ。
昼間に嫌なことがあったのでしょうか。そんなことも忘れるほど美しい天の川を見て、昼間の出来事を意識の外に追い出してしまった様子が浮かんできます。
【NO.17】中村草田男
『 妻二タ夜(ふたよ) あらず二タ夜(ふたよ)の 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:私は妻に二晩会えないだけで耐えられないのに、織姫と彦星は二晩ではなく1年に1度しか会えない天の川だ。
「二夜」ではなく「二タ夜」と書いて「ふたよ」と読ませる面白い俳句です。自分は二晩会えないだけで耐えられないのに、と七夕伝説の2人に思いを馳せています。
【NO.18】荻原井泉水
『 天の川は 黒部川の水音を聞く 』
季語:天の川(秋)
意味:空に輝く天の川は、地を流れる黒部川の水の音を聞いている。
空の天の川と地の黒部川という「川」を対比しています。天の川を見上げながら、夜で見えないけれど音を立てて流れる黒部川の水音を聞いている作者の姿が浮かんできます。
【NO.19】松本たかし
『 鎌倉の 夏も過ぎけり 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:鎌倉の夏も過ぎていった。秋の天の川が美しく輝いている。
夏が過ぎ、少し涼しい夜になった鎌倉を天の川が照らしています。過ぎていった夏を惜しむ気持ちが「過ぎけり」という表現から感じられる句です。
【NO.20】加藤楸邨
『 天の川 わたるお多福豆 一列 』
季語:天の川(秋)
意味:あの天の川を渡るお多福豆が一列になっている。
「お多福豆」とはそら豆の一種で、まるでおたふくのようにふっくらとしていることから名付けられました。ここでいうお多福豆とは死者を表すのではないかという説もあり、1列になって死者たちが天の川を渡っている、とも読めます。
以上、天の川に関する有名俳句でした!
今回は、天の川に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
天の川は江戸時代から現在にいたるまで満天の星空の象徴として詠まれていて、俳句の題材として好まれていることがわかります。
現在の明るい市街地ではなかなか見えなくなってしまいましたが、星空に思いを馳せて一句詠んでみてはいかがでしょうか。