「穀雨(こくう)」は二十四節気の1つで、現在のカレンダーでは4月20日頃のことを言います。
また、立夏である5月5日頃までの期間のことも意味する「春の終わりから初夏にかけての時期を表す季語」です。
4/20の今日は「穀雨」。二十四節気で今日から立夏(今年は5/5)までのことをいい、春の雨が全ての穀物を潤すという意味です。農作業では恵みの雨となり種蒔きなどに適しているといわれます。日本酒造りに大事な《米》も苗を育てている時期、5月からはいよいよ田植えのシーズン( ◜◡◝ ) pic.twitter.com/jKZas18Kvr
— 日本名門酒会 (@meimonshu) April 20, 2017
今回は、そんな「穀雨(こくう)」を季語に含む有名俳句を20句ご紹介します。
穀雨を季語に使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】西山泊雲
『 苗床に うす日さしつつ 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:苗床に薄日がさしながら穀雨の雨が降るなぁ。
穀雨とはその名のとおり、植物が育つ頃に降る雨です。苗床という植え付け前の植物に薄曇りの空から雨が降ってくる様子を詠んでいます。
【NO.2】西山泊雲
『 掘返す 塊(つちくれ)光る 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:掘り返す土の塊も光っている穀雨の頃であることよ。
畑や庭の土を掘り返している様子が浮かんでくる句です。雨が降った後なのか、土の中の水分がきらきらと日の光で輝いています。
【NO.3】小倉緑村
『 風眠り 穀雨の音か 夕早し 』
季語:穀雨(春)
意味:風が眠るように静かな日に、穀雨の雨の音がしているのだろうか。夕方が早く感じる。
雨がしとしとと降っている日は薄暗く、夕方になるのが早く感じます。眠気をさそうような陽気であったことが伺える句です。
【NO.4】石川桂郎
『 鎌倉や 穀雨を待たぬ 窓の闇 』
季語:穀雨(春)
意味:鎌倉に来た。穀雨が降ってくるのを待たないように窓には闇が広がっている。
お寺など薄暗い場所では、外からは中の様子が暗くて見えません。また、雨が降る直前の暗い外の様子を詠んだものとも考えられます。どちらの解釈でも、古都鎌倉と雨の風情をよく表している句です。
【NO.5】長谷川かな女
『 琴屋来て 琴鳴らし見る 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:琴を作る店の人たちが来て、琴を鳴らしてもらいながら見る穀雨の雨であることよ。
「琴屋」とは琴を専門にするお店のことで、お座敷などが流行っている地域で見かけたお店です。琴の音色と雨音が聞こえてくるかのような一句になっています。
【NO.6】長谷川かな女
『 伊勢の海の 魚介ゆたかにして 穀雨 』
季語:穀雨(春)
意味:伊勢の海の魚介を豊かにするような穀雨の雨だ。
六・九・三という自由律俳句です。「穀雨」だけを独立させることによって、穀雨の時期と雨の恵みが際立つ構成になっています。
【NO.7】長谷川かな女
『 夜を境に 風邪熱落したり 穀雨 』
季語:穀雨(春)
意味:夜を境に風邪で出た熱が下がってきた穀雨の頃だ。
【NO.8】本宮鼎三
『 白隠像 眼の炯(けいけい)と 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:白隠像の目が炯々と輝いているように見える穀雨であることだ。
白隠(はくいん)とは江戸時代中期の禅僧である白隠慧鶴のことです。白隠は多くの禅画を残していますが、いずれも眼力のある力強い絵になっています。
【NO.9】峰尾北兎
『 傘立てて 穀雨の雫 地に膨れ 』
季語:穀雨(春)
意味:傘を立てると、穀雨の雨の雫が垂れて地に水溜まりを作る。
立てた傘から落ちた雫が、まだ乾いている地面に当たって染み込む前に水溜まりを作る、そんな様子が浮かんでくる句です。一瞬の現象をよくとらえています。
【NO.10】平井さち子
『 本当の 雨脚となる 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:ここから本当の雨脚の強さになる穀雨であることだ。
春のしとしとという雨から、梅雨が近づくにつれて強くなっていく雨脚を憂いている句です。大雨は外を歩くのも億劫になってしまいますが、雨は植物にとっては恵みの雨にもなるのが「穀雨かな」という詠嘆に表れています。
穀雨を季語に使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】都筑智子
『 落款(らっかん)の 少しかすれて 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:落款を押すと少しかすれている穀雨の時期であるなぁ。
「落款」とは、書や絵が完成したときに押される作者の印のことです。穀雨で空気が湿り始めたため、少しかすれてしまったようです。
【NO.12】中原道夫
『 淺瀬(あさせ)より 洲の立ちあがる 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:浅瀬から中洲が立ち上がっているように見える穀雨であることだ。
「洲」とは海の中にある中洲のことです。雨が降っているため、浅瀬にできた洲が浮かび上がって見えている様子を詠んでいます。
【NO.13】岬雪夫
『 雲すぐに 明るくなりし 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:雲がすぐに明るくなった穀雨だなぁ。
【NO.14】松田ひろむ
『 穀雨なる 決断の指 開きつつ 』
季語:穀雨(春)
意味:穀雨になった。決断するために握っていた指を開こう。
風景ではなく作者の個人的な感情を詠んだ句です。「指を開く」という表現から、決断のために握っていた手を開いていく様子が伺えます。
【NO.15】高澤良一
『 睡(ねむ)るとは 不覚穀雨の 散髪屋 』
季語:穀雨(春)
意味:眠ってしまうとは不覚をとった。穀雨の雨音がする散髪屋で。
美容院などで髪を触られていると眠くなってしまう人も多いのではないでしょうか。ただでさえ眠くなるところに、静かな雨音が響いてつい居眠りをしてしまっている作者が見えるようです。
【NO.16】滝沢伊代次
『 石臼の はればれ打たる 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:石臼がはればれとしたように打たれている穀雨であることだ。
石臼は「挽く」道具のため、ここでは石臼自体が雨に打たれていると解釈しました。ひと仕事終えた後に雨に打たれて洗われているような風景です。
【NO.17】伊藤敬子
『 穀雨かな 記紀(きき)にしるせし 野を歩く 』
季語:穀雨(春)
意味:穀雨の時期だなぁ。記紀に記されている野を歩いていく。
「記紀(きき)」とは古事記と日本書記のことです。多くは奈良や大阪での出来事が記されているため、記紀の記述に沿って周辺を探索している様子を詠んでいます。
【NO.18】鳥居おさむ
『 本読むは 微酔のごとく 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:本を読むのはまるでほろ酔いのような心地がする穀雨であることだ。
「微酔」とは「ほろ酔い」とも読みます。雨が降っている日にゆったりと本を読んでいると、まるでほろ酔いのように良い気分になるものです。
【NO.19】高木良多
『 蛸杉の 根の張つてゐる 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:杉の木の根がタコのように張っている穀雨の時期だなぁ。
「蛸杉」とは根がタコのように張り巡らされている杉の木のことです。樹齢が古く、参道や山道を連想させます。
【NO.20】鷹羽狩行
『 走り根が 大樹支へて 穀雨かな 』
季語:穀雨(春)
意味:他の根より長い走り根が大樹を支えている穀雨であることだ。
「走り根」とは他の根よりも長い根のことを言います。地中では多くの根が張っているのでしょうが、地表から見るとその根のおかげで大樹が支えられているように見えたのでしょう。
以上、穀雨に関する有名俳句でした!
今回は、穀雨に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
句は春の終わりから初夏にかけての雨の多い時期ということで、植物の成長を願う雨や過ごしやすい季節の雨の描写が多い印象です。
新年度が始まりゴールデンウィークが近いという疲れやすい時期ですが、ふと降り出した雨に一句詠んでみてはいかがでしょうか。