春の風物詩「桜」。その桜が散っていく様子は古くから多くの表現がされています。
「桜散る」と同じ意味の季語に「散る桜」「落花」「飛花」などがあり、桜が舞い散る様子は晩春の季語として俳句に詠みこみやすい題材です。
桜散る 短き日々も 悔いは無し#俳句 pic.twitter.com/aN0dwMqCJW
— すずミスト (@suzu_mist) April 6, 2015
今回は、「桜散る」をテーマにした一般の方が詠んだ俳句を30句紹介していきます。
桜散るをテーマにした俳句作品集【前編10句】
【NO.1】
『 一風に 散りきらんとし 桜散 』
季語:桜散る(春)
意味:まるで一陣の風で散りきろうとするくらい、桜の花が散っていく。
「一風に」という表現が、一陣の風で全て散ってしまうのではないかという勢いの花吹雪を巻き起こしたことが想像できます。まだ散ってほしくないのに、一気に散っていってしまう桜への呼び掛けのようにも読める句です。
【NO.2】
『 楽団の 黒き背に背に 飛花落花(ひからっか) 』
季語:飛花落花(春)
意味:外で演奏をしている楽団の、黒いスーツの背に散って飛んできた花びらが降り注いでいる。
「飛花落花」とは字のままに、飛んで落ちていく桜の花を表します。黒いスーツだからこそ薄ピンクの桜の花びらが映えたことでしょう。「背に背に」という表現が規模の大きい演奏会であることを感じさせます。
【NO.3】
『 夏の気を 匂わすように 散る桜 』
季語:散る桜(春)
意味:夏の気配を匂わせるように桜が散っていく。
桜が散って若葉が出始めると、いよいよ春も終わって初夏の到来です。桜が散っていく様子に近づく初夏の気配を感じる句です。
【NO.4】
『 散る桜 追いかける子の 影愛し 』
季語:散る桜(春)
意味:散っている桜の花びらを追いかける我が子の影が愛おしい。
桜の花びらが散っていく様子だけではなく、その花びらをつかまえようと走り回る子供を見守っている句です。「子が愛おしい」ではなく「影愛し」としているところが、はしゃぐ子供を見守る大人の目線になっています。
【NO.5】
『 画用紙の 乾かぬ雲に 散る桜 』
季語:散る桜(春)
意味:画用紙の上に描かれた、絵の具が乾かない雲の上に桜の花びらが散ってきた。
画用紙の上に絵を描いている最中に起きた出来事を詠んだ句です。絵の具が乾いていない紙の上に落ちてきたため、花びらの形に絵の具が型押しされてしまったことでしょう。
【NO.6】
『 またいつか 優しい嘘に 散る桜 』
季語:散る桜(春)
意味:またいつか会いましょうと、優しい嘘とともに桜が散っている。
恋愛関係だったのか、遠く離れる友との離別なのか、色々な関係性が「優しい嘘」から浮かんできます。散っていく花びらを涙に見立てているのかもしれません。
【NO.7】
『 堂開いて 落花の中の 観世音(かんぜおん) 』
季語:落花(春)
意味:御堂を開くと、散っている桜の花びらが入ってくる中にたたずむ観世音菩薩の像だ。
強風が吹いたのか、御堂の中にまで桜の花びらが入ってきたときの句です。御堂の薄暗さと花が散っている明るい外の対比が美しい構図になっています。薄暗い御堂の中に薄ピンクの花びらが吹き込む様が浮かんできます。
【NO.8】
『 叢(くさむら)を 白く変えたる 落花かな 』
季語:落花(春)
意味:緑の草むらが白色に変えている、散りゆく桜の花びらであることだ。
桜が本格的に散りはじめると、道路や公園が花びらで真っ白に染まっているのを見たことがある人もいるでしょう。この句では桜並木の河川敷が真っ白に染まっている風景を詠んでいます。
【NO.9】
『 カンバスに 描く桜に さくら散る 』
季語:桜散る(春)
意味:カンバスに描いている桜に、桜の花びらが散って落ちてくる。
桜を写生しているところに本物の桜が散っている様子です。描いている桜は「桜と」と漢字で表し、実際に散っている桜は「さくら」と分けているのがポイントになっています。
【NO.10】
『 空の色 川の色変へ 桜散る 』
季語:桜散る(春)
意味:空の色や川の色を真っ白に変えて桜が散っている。
桜が吹雪のように散るときは、道路や川だけでなく空も一瞬白く染まります。強風が吹いて視界が花びらで埋め尽くされた、その一瞬をとらえた一句です。
桜散るをテーマにした俳句作品集【中編10句】
ここからは中編10句を紹介していくよ!
【NO.11】
『 春酔いや 降る朧月 散る桜 』
季語:散る桜(春)/朧月(春)
意味:春の酔っているような陽気だ。朧月は地平線に沈み、桜は散っていく。
とても幻想的な一句です。春の浮かれるような陽気の中、朧月のぼんやりとした光にうつしだされて散っていく白い桜の花びらが夜の闇に映えています。
【NO.12】
『 早々と 冷たき雨に 散る桜 』
季語:散る桜(春)
意味:せっかく桜が咲いたのに、早々に降った冷たい雨で桜が散ってしまう。
「花冷え」という言葉があります。桜が咲く陽気にも関わらず寒の戻りのような寒さの日や、その冷たい空気の中で降り続く雨のことを言い、せっかく咲いた桜がすぐに散ってしまう悲しさを詠んだ句です。
【NO.13】
『 音あらば ハープ奏でて 散る桜 』
季語:散る桜(春)
意味:桜が散る音があるならば、ハープを奏でるように散っていく桜たちよ。
桜は音もなくはらはらと散っていくものですが、そこにもしも音があるなら、と想像している句です。作者はハープのような音を連想していますが、皆さんはどんな音を想像するでしょうか。
【NO.14】
『 換気する 学童の窓 桜散る 』
季語:桜散る(春)
意味:換気をするために開けた学童保育の教室の窓から、散った桜の花びらが入ってきた。
だいたいの小学校には桜が植えられています。学童保育の時間という放課後ののんびりした空気の中で桜が散っている、のどかな風景です。
【NO.15】
『 なわとびの 一二三四 桜散る 』
季語:桜散る(春)
意味:子供たちがなわとびを一二三四と数えながら飛んでいる。そのそばでは桜の花が散っているのだ。
「なわとびを飛ぶ」と直接表現するのではなく、子供たちの掛け声を詠んでいます。飛ぶという動詞が省略されることによって子供たちの元気な姿と桜が散っていく様子が目に浮かぶ句です。
【NO.16】
『 飛花落花 疏水(そすい)は遥か 琵琶湖より 』
季語:飛花落花(春)
意味:桜の花びらが飛んで落ちている。この疏水は遥か琵琶湖より流れてきているのだ。
この「疏水」とは、琵琶湖から京都市に向かって流れている「琵琶湖疏水」のことです。遥かという表現から琵琶湖から遠く離れた京都市内での句だとわかります。花びらを乗せて流れてくる疏水の源流に思いを馳せる句です。
【NO.17】
『 水に散る 桜吸い込む 鯉の口 』
季語:散る桜(春)
意味:池の水面に散っている桜ごと吸い込んでいる鯉たちの口よ。
鯉は餌を食べる際に水面で口をパクパクと動かします。この句の鯉たちは、水面に浮かんでいた花びらごと餌を食べる勢いだったのでしょう。
【NO.18】
『 鹿が花 食ひちぎるたび 落花して 』
季語:落花(春)
意味:鹿たちが桜の枝の花を食いちぎるたびに花が落ちて散っていくことだ。
自然に散る桜ではなく、枝からむしるようにして鹿に食いちぎられて散っていくというなかなか見られない光景を詠んでいます。同じ散る桜でも、この句は儚さではなく鹿の旺盛な生命力があふれる句です。
【NO.19】
『 親離れ 桜舞散る なごり酒 』
季語:桜散る(春)
意味:子供が春から独り立ちして親離れした。桜が舞い散る中で、名残を惜しむ酒を飲む。
春に合わせて就職した子を思っている句です。門出を祝う桜とお酒も、親離れという感慨深さと名残惜しさで「なごり酒」になっています。
【NO.20】
『 桜散る 窯場の屋根は 苔むして 』
季語:桜散る(春)
意味:桜が散っている。陶磁器を造る窯場の屋根は苔むしていて、桜の花びらが一際映えることだ。
窯場とは陶磁器を造る窯のある建物のことを言います。白い桜の花びらと苔むした緑色の屋根の対比が美しい一句です。
桜散るをテーマにした俳句作品集【後編10句】
【NO.21】
『 幼な子が もろ手をあげけり 桜散る 』
季語:桜散る(春)
意味:幼い子がもろ手をあげている。桜が散っているのだ。
小さい子供が手をあげて散っていく花びらを追いかけている様子を詠んだ句です。ヒラヒラと散る桜にはしゃいでいるのが目に見えるようです。
【NO.22】
『 桜散る ベンチに人の 影は無く 』
季語:桜散る(春)
意味:桜が散っている。近くのベンチに人の影は無い。
人影のないベンチに桜の花びらが積もっていくという一句です。絵画のような写実的な句です。
【NO.23】
『 桜散る 川のごとくに 流れ行く 』
季語:桜散る(春)
意味:桜が散っている。川のように流れて行く。
空を舞う桜の花びらを川に例えた一句です。風に乗って移動する様子を川に例えたユニークな句で、美しい風景に感動している様子が表現されています。
【NO.24】
『 桜散る 雨でも麗らか なる春や 』
季語:桜散る(春)
意味:桜が散る雨でも麗らかに感じる春だなぁ。
桜が咲く頃には雨も多くなります。冬の雨と違ってどこか暖かい雨に、春の麗らかさを感じている一句です。
【NO.25】
『 桜散り 一足飛びに 初夏が来る 』
季語:桜散り(春)、初夏(夏)
意味:桜が散って、一足飛びに初夏が来た。
桜が散り出すと初夏が近づいてきますが、この俳句では一気に気温が上がったのか「一足飛び」と表現しています。毎年違った様相を見せる四季を楽しんでいるようです。
【NO.26】
『 駆けていく 小さな肩に 散る桜 』
季語:散る桜(春)
意味:駆けていく小さな肩に散った桜の花びらが乗っている。
走り出した子供の肩に桜の花びらがついている様子を詠んだ句です。頭や肩など色々なところに花びらが乗る時期ならではの句になっています。
【NO.27】
『 歩を止めて 落花の中の 人となる 』
季語:落花(春)
意味:歩くのを止めて、桜の花が散る中にいる人となる。
桜の花びらが散っていく中で足を止めると、まるで花びらのシャワーの中にいる感覚に陥ります。わざと歩みを止めることで堪能している様子を詠んだ句です。
【NO.28】
『 おさなごは 落花に遊ぶ ひらひらと 』
季語:落花(春)
意味:幼い子はひらひらと散る桜で遊んでいる。
ひらひらと舞う桜を捕まえようとしているのか、遊んでいる様子を詠んでいます。集中して捕まえようとしているのか、走り回っているのか、色々な風景が浮かぶ句です。
【NO.29】
『 飛花落花 過去は記憶の 中に棲む 』
季語:飛花落花(春)
意味:桜の花が散って飛んでいく。過去は記憶の中に住んでいるのだ。
散って飛んでいく桜を見て過去を回想している一句です。以前にも似た風景を見たのか、記憶の中にこそ過去があると思い返しています。
【NO.30】
『 そよ風に 落花ヒラヒラ 肩に乗る 』
季語:落花(春)
意味:そよ風にヒラヒラと落ちてきた桜の花びらが肩に乗った。
爽やかな春の風と舞い散る桜の花びらという美しい風景を題材にしています。舞う花びらの行方を目で追っていたら肩に乗った、という主観の俳句としても読める一句です。
以上、「桜散る」に関するオススメ俳句でした!
今回は「桜散る」をテーマにした俳句を30句紹介してきました。
桜が散る様子が多くの季語で表現されていて、「桜」は俳句には無くてはならない花であることがよくわかります。
咲いている桜の花を詠むのもいいですが、散っていく桜の様子に想いを託して一句詠んでみてはいかがでしょうか。