朝顔と聞くと、暑い夏の盛り8月の早朝に咲く可憐な花を思い出しますね。
子供の頃に、夏休みの宿題で観察日記を付けた方も多いのではないでしょうか?
真夏の早朝に咲き昼過ぎには萎んでしまう花が、俳句では秋の季語とされているとは、ちょっと想像がつきにくいかもしれませんね。
朝の光を浴びるススキの袂で咲く朝顔
季語がごちゃまぜで本当に混乱するのだけれど、それは壊れた世界だと思えばどうということもない pic.twitter.com/YqzfOAWKeq— 晴🌓 (@ori_310M25) November 2, 2019
そこで今回は、「朝顔」がなぜ秋の季語になるのか?その理由をわかりやすく解説していきます。
目次
俳句の季語「朝顔」はなぜ秋の季語になる?
たくさんある俳句の季語の中で、「朝顔」はなぜ秋の季語になるのでしょうか?
最初に結論をお伝えすると…
【旧暦と新暦の違いによる1ヶ月のズレが生じているため】です。
朝顔の咲く8月は旧暦では秋の7月に当たるため、朝顔は「秋の季語」になります。
ここから詳しく解説していきます。
朝顔は俳句歳時記によると「秋」の季語とされていますが、それは暦との関係が深いです。
歳時記とは、四季の事物や年中行事などをまとめた書物のこと。特に俳句歳時記は季語をまとめたもので、作句には欠かせないものですね。
実は、朝顔が秋の季語とされているのは、この歳時記の他に暦との関係があります。
明治初期には旧暦、現在は新暦が使われています。
この旧暦と新暦では、実に1か月ものズレが存在し、俳句歳時記にもこの影響は残りました。
歳時記では旧暦を基本とし、春は1・2・3月で、これは新暦の2・3・4月に当たります。
新暦と旧暦の違い
【春の期間】
- 旧暦:1・2・3月
- 新暦:2・3・4月
【夏の期間】
- 旧暦:4・5・6月
- 新暦:5・6・7月
【秋の期間】
- 旧暦:7・8・9月
- 新暦:8・9・10月
【冬の期間】
- 旧暦:10・11・12月
- 新暦:11・12・1月
朝顔という季語はいつからいつまで使える?
それでは、「朝顔」という季語はいつからいつまで使えるのでしょうか?
朝顔の花の盛りは8月初旬から中旬ですが、実際に花の咲く時期は長く、7月下旬から10月までです。
新暦の8・9・10月は、旧暦の秋7・8・9月に当たりますので、この期間ならば「朝顔」の季語を使っても差支えないでしょう。
新暦の7月は、旧暦では夏の6月に当たります。
この場合は、季節の先取りとして、7月下旬に咲く朝顔の花も俳句に詠んでみるの良いですね。
季語「朝顔」を使った有名俳句【8選】
ここからは、朝顔の有名な俳句を8句厳選してご紹介します。
【No.1】松尾芭蕉
「蕣(あさがほ)は 下手の書くさへ 哀也」
意味:朝顔の花の絵は下手でも上手でも誰が描いても趣があっていいものだ。
【No.2】与謝蕪村
「朝がほや 一輪深き 淵の色」
意味:朝顔が一輪咲いている、その色を見ているとまるで深い淵を覗き込んでいるようだ。
【No.3】正岡子規
「この頃の 蕣(あさがほ)藍に 定まりぬ」
意味:今年も朝顔の花が咲いたが、花色は皆藍色一色になってしまった。
【No.4】杉田久女
「朝がほや 濁り初めたる 市の空」
意味:夜が明け始めた空の下、下町の朝顔が次から次へと咲き始めた。
【No.5】石田波郷
「朝顔の 紺のかなたの 月日かな」
意味:朝顔の紺色の花を見ていると、過ぎ去りし月日やこれからの日々の事が思いやられる。
【No.6】加賀千代女
「朝顔に つるべ取られて もらい水」
意味:朝顔に鶴瓶を取られてしまい、近所へ水をもらいに行った。
【No.7】正岡子規
「朝顔に われ恙(つつが)なき あした哉」
意味:朝目覚めて朝顔を無事に見ることができた。明日もまた同じように見られることだろう。
【No.8】高浜虚子
「暁の 紺朝顔や 星一つ」
意味:明け方の紺色の空の下で、朝顔が咲いている。空には星が1つ輝いている。
誤解されがちな季語を紹介!
本来は秋の季語であるのに、夏または春の季語と誤解されやすいものを集めてみました。
- 七夕
新暦では7月7日が七夕として親しまれていますが、旧暦で考えると新暦8月初旬が七夕の時季に当たります。「七夕」は秋の季語なのですね。
- 天の川
一年中夜の空に流れる天の川ですが、実は新暦8月が一番明るく輝きます。この輝く夜空の川は、七夕伝説の織姫彦星と重なりますね。「天の川」も秋の季語です。
- お盆
年中行事の中でも、このお盆とお正月は私たち日本人にとって欠かすことのできない大切な行事です。「お盆」は新暦では真夏の行事ですが、旧暦では秋の季語となります。
- 草の花
春は木の花が咲き誇りますが、秋は、菊・女郎花・露草など可憐な草の花が目に留まります。ですから「草の花」は秋の季語です。ちなみに「花」「草の若葉」ならば春の季語となります。
- 竹の春
間違いなく秋の季語です。反対に「竹の秋」が春の季語。タケノコが生える春は、竹の葉が枯れ落ちてしまいます。夏8月ともなると、タケノコも生長して立派な竹となり、葉が落ちてしまった竹もその勢いを取り戻し青々とした葉を茂らせるのです。
さいごに
旧暦から新暦に変わった折に、俳句の世界では暦と実際の季節とのズレを感じるようになってしまいました。
俳句を詠む時「朝顔の季語の季節は何?」と迷ってしまうのも、生活の中で感じる季節感のズレが迷いとなって表れるからでしょう。
それでも、自然はおおらかにその営みを続けています。