「風薫る」は「薫風(くんぷう)」といも詠まれる夏の季語で、初夏の若葉の香りを乗せた爽やかな風のことを意味します。
使われるのは梅雨に入る前の5月の初夏のため、使う際は時期に注意しましょう。
今回は、「風薫る(かぜかおる)」を季語に含む俳句を20句紹介していきます。
小畑や作付替わりて風薫る http://t.co/Ke5aj1qfO4
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お坊さんの話の中で、「この世にもあの世をもまた風薫る」という、俳句が出てきた。 pic.twitter.com/HlAT4bdKnP
— 栗山 心 (@kuriyamakokoro) June 14, 2015
「風薫る」を季語に含む有名俳句【10選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 さざ波や 風の薫の 相拍子 』
季語:風の薫(夏)
意味:風がさざ波を立たせている。初夏の爽やかな風が波に相の拍子を入れているようだ。
「さざ波」とは大津に掛かる枕詞で、この句も琵琶湖で詠まれています。琵琶湖に立つさざ波に合いの手を入れるように風が吹いているという爽やかな陽気を詠んだ句です。
【NO.2】正岡子規
『 かきわける 白ののれんや 風薫る 』
季語:風薫る(夏)
意味:白いのれんをかき分けて入る初夏の風が吹いている日だ。
夜の居酒屋に入っていく人々が連想される一句です。闇夜に白いのれんが目立つ中で、初夏の風が客とともにのれんをかき分けるようにして吹き付けています。
【NO.3】高浜虚子
『 風薫る 甘木市人(あまきいちびと) 集ひ来て 』
季語:風薫る(夏)
意味:初夏の新緑の香りがする風の中で、甘木市の人達が集い来た。
この句は1955年に作者が福岡県の公園に立ち寄った時の一句です。甘木市は、当時は市になった直後のことで、「甘木市人」という独特の表現は市になったことを寿いでいるとも考えられます。
【NO.4】河東碧梧桐
『 舞殿や 薫風昼の 楽起る 』
季語:薫風(夏)
意味:舞殿がある。薫風が昼の楽を起こしていく。
「舞殿」とは神楽を奉納するときに使う建物で、神社の中に建っています。薫風の中で雅楽が演奏されていたのか、風が木の葉を揺らす音を「楽起る」と表現したのか想像がふくらむ句です。
【NO.5】川端茅舎
『 風薫る 鹿島の杉は 剣なす 』
季語:風薫る(夏)
意味:初夏の爽やかな風が吹く。鹿島神宮の杉はまるで剣のように鋭く天に向かって立っている。
「鹿島」は茨城県鹿嶋市にある古くからある神社です。鹿島神宮には古代から伝わる剣が奉納されていて、そのこともあって杉を県に例えている一句です。
【NO.6】野村喜舟
『 薫風や 浅間の煙 吹きかはり 』
季語:薫風(夏)
意味:初夏の風が吹いている。浅間山の噴煙の吹く方向が変わっていく。
浅間山は繰り返し噴火を繰り返している山で、明治から昭和にかけても度々噴火しています。初夏の爽やかな風と噴火をもたらす山の噴煙の対比が、自然のダイナミックな営みを表している句です。
【NO.7】杉田久女
『 薫風や 釣舟絶えず 並びかへ 』
季語:薫風(夏)
意味:初夏の風が吹いている。釣り船は絶えず並び替えるように動いている。
この句は1928年に作者が高浜虚子を下関で出迎えたときの一句と言われています。初夏の風に動かされるように釣りのための船がせわしなく位置を変えていく様子を詠んでいます。
【NO.8】日野草城
『 先生は ふるさとの山 風薫る 』
季語:風薫る(夏)
意味:私の俳句の先生はふるさとの山だ。初夏の新緑の香りがする風が吹く。
作者は五感で四季をとらえる作風のため、自分の俳句は故郷の山を見続けて磨かれたのだと語っている句です。この句でも山という視覚と風という触覚、香りの嗅覚を使っています。
【NO.9】長谷川かな女
『 薫風や 子猫下り次ぐ 庭草に 』
季語:薫風(夏)
意味:初夏の風が吹いている。子猫たちがどんどん庭に降りて草と戯れている。
「子猫」は春の季語ですが、ここでは初夏の風に押されるようにして庭に降りて草と戯れている様子が主な描写なので、「薫風」が季語になります。「下り次ぐ」という表現から1匹ではなく次々と降りていく可愛らしい様子が浮かんできます。
【NO.10】寺田寅彦
『 薫風や 玉を磨けば おのづから 』
季語:薫風(夏)
意味:薫風が吹いている。玉は磨けば自分から輝くものだ。
この句は禅の「薫風自南来」と、中国の古い詩にある「白珪尚可磨」を組み合わせています。完璧な玉でも磨き続けて自己を高めていく必要性を説いた句です。
「風薫る」を季語に含む一般俳句ネタ集【10選】
【NO.1】
『 風薫る 君の髪まで 撫で下ろし 』
季語:風薫る(夏)
意味:新緑の香りを乗せた風が、君の髪まで撫で下ろしていく。
初夏の爽やかな風が「君」の髪をなびかせて揺らしている様子を詠んだ句です。髪を撫で下ろすという表現から風の動きが見える一句になっています。
【NO.2】
『 思い出の 絵本開けば 風薫る 』
季語:風薫る(夏)
意味:思い出の絵本を開けば、幼い頃に感じたようなあの初夏の風を思い出す。
初夏に関係する本なのか、5月頃に買ってもらった思い入れのある絵本なのか、想像がふくらむ句です。香りは記憶と密接につながっているとされるため、幼い頃の思い出が香りとともによみがえったのでしょう。
【NO.3】
『 風薫る 舞うスカートを 嬉し見ゆ 』
季語:風薫る(夏)
意味:初夏の風が吹く。風に舞うスカートを嬉しく思いながら見ている。
ヒラヒラとしたスカートが風に舞っている様子が浮かんでくる表現です。初夏に着るつもりで買った服が、思ったとおりの着心地だった嬉しさが伝わってきます。
【NO.4】
『 散髪の 耳に触りて 風薫る 』
季語:風薫る(夏)
意味:散髪した髪が耳に触れて、初夏の風もまた触れている。
髪を短く切った後に慣れずに耳に触れている様子を詠んだ句です。耳にかかる髪や風を感じて落ち着かずに触れている様子が浮かんできます。
【NO.5】
『 風薫る 歩みを止めて 深呼吸 』
季語:風薫る(夏)
意味:初夏の若葉の香りがする。歩みを止めて深呼吸をしよう。
森林浴のような雰囲気を感じる一句です。夏へと駆け足で向かう前に、1度止まって深呼吸をして備えようという作者の気合いのようにも読み取れます。
【NO.6】
『 風薫る 加速したい 今日の午後 』
季語:風薫る(夏)
意味:初夏の心地よい風が吹いている。今日の午後の仕事は加速したいなぁ。
天気の良い外の様子を見て、早く仕事を終わらせたいなぁと考えている様子を詠んでいます。仕事や授業の時間が早く過ぎないかと考えたことのある人は共感できる句でしょう。
【NO.7】
『 草刈り機 音かろやかに 風薫る 』
季語:風薫る(夏)
意味:草刈り機がかろやかな音を立てている。外は初夏の風が吹いている。
初夏になり草刈りが必要になってきた庭や畑仕事を詠んだ句です。「かろやかに」とあることから、草刈り機での作業も苦にならないほど心地よい屋外作業であることがわかる表現です。
【NO.8】
『 風薫る スープカレーの キッチンカー 』
季語:風薫る(夏)
意味:初夏の風に乗ってカレーの匂いがする。スープカレーのキッチンカーだ。
爽やかな若葉の香りではなく、食欲をそそるカレーの香りが漂ってくるような一句です。昼食を食べに外に出た時に、風とともに香るカレーの匂いでキッチンカーを見つけた時の様子を詠んでいます。
【NO.9】
『 風薫る 妻とペアキーチェーンつけ 』
季語:風薫る(夏)
意味:風が薫る初夏だ。妻とペアのキーチェーンをそっと付けてみる。
学生の頃はお揃いのキーチェーンを付けてみることはよくあるでしょうが、夫婦となってからはどこか気恥しくてできないという人は多いでしょう。誰もが浮かれ気分になる初夏だからこそ挑戦してみたという微笑ましい一句です。
【NO.10】
『 縄文の 太き柱や 風薫る 』
季語:風薫る(夏)
意味:縄文時代にはこんなに太い柱が建っていたのだなぁ。初夏の爽やかな風が吹いている。
縄文時代の太い柱というと青森県にある三内丸山遺跡が連想されます。緑に囲まれた遺跡に、初夏の新緑の香りを運ぶ風が今も昔も変わらず吹いているという感動を詠んでいます。
以上、「風薫る」を季語に含む俳句集でした!
今回は、「風薫る」を季語に含む有名俳句とオリジナル俳句を10句ずつ紹介してきました。
爽やかな若葉を渡る風の様子が伝わってくる俳句が多く、初夏を表しやすい季語としてよく使われていることがわかります。
花の季節である春から移り変わっていく季節を表すのにぴったりな季語なので、ぜひ初夏の俳句を詠んでみてください。