「芒種(ぼうしゅ)」は二十四節気の1つで、現在の暦では6月6日前後のことを言います。
稲の穂先のような形を「芒(のぎ)」と呼び、稲や麦などの種をまくことから「芒種」と呼ばれるようになりました。現在ではもっと早い時期に種がまかれますが、農業が活発になり梅雨に向けて雨雲も増えてくる時期です。
【二十四節気】
今日は「芒種(ぼうしゅ)」です。「芒(のぎ)」の字は「稲・麦などの実の殻にある針状の毛」という意味。
芒のある穀物の種まき、麦の刈り入れ、稲作だと田植えの目安とされる時季だそうです。
田植えは大きな行事、農家さんはこれから忙しくなりますね。 pic.twitter.com/ht4dKrkLjP— 古武孝仁(タコ)味噌汁オジサン (@tako_kotake) June 5, 2017
今回は、そんな「芒種(ぼうしゅ)」を季語に含む有名俳句を20句ご紹介します。
芒種を季語に使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】能村登四郎
『 芒種とふ こころに播かん 種子もがな 』
季語:芒種(夏)
意味:芒種という日は、心に種をまく日にふさわしい日であってほしい。
植物の種をまく日が芒種ということで、稽古や瞑想などで自らを見つめ直そうとしている一句です。「心に種をまく」という表現から心機一転する決意が伝わってきます。
【NO.2】秋山幹生
『 朝粥や 芒種の雨が みづうみに 』
季語:芒種(夏)
意味:朝食のお粥だ。芒種の日に降った雨がまるで湖に見えるくらいの水溜まりを作っている。
夜通し雨が降った日の翌朝の暖かいお粥と、降り続いた雨が対比になっています。水溜まりが広がって地面がほとんど見えないため、梅雨が始まっているのかもしれません。
【NO.3】弦巻淑子
『 田に畑に 人影動く 芒種かな 』
季語:芒種(夏)
意味:田んぼに畑に人影が動いている芒種であることだ。
田植えや畑作で人が多く動き回っている時期をシンプルに表しています。梅雨が来る前にいろいろな作業をしているのでしょうか。
【NO.4】高澤良一
『 打集ひ 何を芒種の 鍛錬会 』
季語:芒種(夏)
意味:大勢の人が集まり、芒種の日に何の鍛錬会をするのだろうか。
「打集ひ」とは多くの人が集まる様子を言います。鍛錬会とありますが、俳句になっていることから句会を開いていた様子が伺えます。
【NO.5】宇多喜代子
『 大灘(おおなだ)を 前に芒種の 雨しとど 』
季語:芒種(夏)
意味:大灘を前に芒種の日に雨がしとどに降り始めた。
「大灘(おおだな)」は静岡県伊東市にある釣りの名所、もしくは遥かな沖合を意味します。どちらの意味で使っているかによって印象が変わってきますが、広大たな海に雨が降り続く様子を眺めた句ということはわかります。
【NO.6】石原八束
『 ささやくは 芒種の庭の 番鳩(つがいばと) 』
季語:芒種(夏)
意味:ささやいているように聞こえるのは芒種の日に庭に飛んできた番の鳩だ。
ささやくような鳥の鳴き声を聞いて、庭に様子を見に来た時の句です。番の鳩が顔を寄せあって鳴き声をあげている様子が浮かんできます。
【NO.7】鷹羽狩行
『 芒種はや 人の肌さす 山の草 』
季語:芒種(夏)
意味:芒種だなぁ。人の肌を刺すように生い茂る山の草だ。
【NO.8】藤田あけ烏
『 木の穴に をとこを祀る 芒種かな 』
季語:芒種(夏)
意味:木の穴に男の神が祀られている芒種であることだ。
そのまま解釈すると、田畑など農業の神として祠のようになっている木の穴に神様をお祀りしている様子を詠んだ句です。農業には古くから多くの伝統的な祭りがあるため、その一種でしょう。
【NO.9】後藤昭女
『 暁の 西より晴るる 芒種かな 』
季語:芒種(夏)
意味:夜明け近くの西から晴れてきた芒種の夜であるなぁ。
芒種は梅雨が近く、雨が降りやすくなってくる時期です。夜中ずっと雨が降っていましたが、夜明けが近くなるにつれて西の方から晴れてきた様子が薄明かりで見えています。
【NO.10】草間時彦
『 芒種なり 水盤(すいばん)に粟 蒔くとせむ 』
季語:芒種(夏)
意味:芒種である。水盤に粟を蒔くとしよう。
「水盤(すいばん)」は浅く水を張るお盆のこと。ここでは粟を栽培するために利用しています。粟はかつて雑穀の一種として盛んに栽培されていました。
芒種を季語に使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】岡田詩音
『 中空に 見えて芒種の 月の暈(かさ) 』
季語:芒種(夏)
意味:中空に見える芒種の夜の月の暈だ。
「月の暈」とはハローとも呼ばれる現象で、月の周りに円を描くような光の輪が現れます。空が薄曇りのときに発生しやすいため、この時の夜空が少し曇っていたことがわかる句です。
【NO.12】金田咲子
『 ガラス器と 芒種の湖と がやがやす 』
季語:芒種(夏)
意味:ガラスの器と芒種の日の湖がガヤガヤとしている。
透明なガラスの器と湖を対比しています。ガヤガヤとしているという表現から、外の湖には雨が降っているのでしょうか。
【NO.13】後藤綾子
『 引潮に 砂緊り(しまり)たる 芒種かな 』
季語:芒種(夏)
意味:引き潮に砂が固まっている芒種であるなぁ。
【NO.14】小泉八重子
『 干し傘の ふと飛んでゆく 芒種かな 』
季語:芒種(夏)
意味:干している傘が風でふと飛んでいく芒種であることだ。
外は強風が吹いていたのか、干してあった傘が飛んでいっています。雨は止んだものの風が強い日に起きそうな親近感のある句です。
【NO.15】夏井いつき
『 海に月 しらじら映ゆる 芒種かな 』
季語:芒種(夏)
意味:海に月が白白と映えている芒種の日であるなぁ。
静かな海面に映る月を詠んだ句です。梅雨が始まって海面が荒れる直前の静けさを詠んでいます。
【NO.16】夏井いつき
『 ごんごんと 芒種の水を 飲み干せり 』
季語:芒種(夏)
意味:ごんごんと芒種の日の水を飲み干した。
この句は「自分が飲み干した」解釈と、「何かが飲み干した」解釈の2つに分かれます。暑い日が続いているので水を一気飲みした風景の他に、田畑など水を必要とする場所が飲み干すように水を吸収している風景が浮かんできます。
【NO.17】小早川忠義
『 大股に 歩く芒種の 河原かな 』
季語:芒種(夏)
意味:大股に歩く芒種の日の河原であることだ。
晴れた日に河原を散歩しているときの様子を詠んだ句です。大股で歩いているのは気温が高い日だったからでしょうか。
【NO.18】筑紫磐井
『 騙されて 芒種に傘を 持ち歩く 』
季語:芒種(夏)
意味:騙されて芒種の日に傘を持ち歩いている。
今日は雨が降るという天気予報が外れ、傘を仕方なく持ち歩いている様子が浮かんできます。芒種は梅雨の直前ですので、まだ梅雨じゃないだろうという気持ちが伝わってくる句です。
【NO.19】北川美美
『 たしか芒種 「種まく人」の 絵の前に 』
季語:芒種(夏)
意味:確か芒種の日だった。「種をまく人」という絵の前に立ったのは。
「種をまく人」とはミレーとゴッホの2人の画家によってそれぞれ描かれています。ゴッホの「種をまく人」には収穫前の麦畑が描かれているため、作者が見たのはゴッホの作品でしょう。
【NO.20】曾根毅
『 碌々(ろくろく)と 唱え止まざる 芒種かな 』
季語:芒種(夏)
意味:たいしたこともできないなぁと唱えるのを止めざるを得ない芒種であることだ。
「碌々と」とは平凡な、たいしたこともないという意味です。芒種は新たに種をまく日であるため、嘆いていられないと心機一転する句になっています。
以上、芒種に関する有名俳句でした!
今回は、芒種に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
梅雨の前の暑さや「種をまく」という芒種自体の意味を詠んだ句が多いのが特徴です。
田畑が青々として梅雨が始まる前の暑さも感じる日々ですが、一句詠んでみてはいかがでしょうか。