皐月は旧暦5月、新暦では6月を指します。
皐月は五月雨など梅雨の時期の季語で、俳句には初夏が終わり暑くなっていく様子がよく詠まれます。
皐月の由来・語源
皐月は、 「耕作」を意味する古語の「さ」から、稲作の月の事を指して「さつき」になったそうです。
別名にもある早苗を植える月である 「早苗月(さなえづき)」
が略され、「さつき」になったという説もあります。#書道 pic.twitter.com/ksSBWvzaV3— 美帆 (書家) (@shoka__miho) May 1, 2016
今回は、そんな「皐月(さつき)」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介していきます。
皐月の季語を使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】与謝蕪村
『 小田原で 合羽買たり 皐月雨 』
季語:皐月雨(夏)
意味:小田原で合羽を買った。皐月雨が降り出したのだ。
この句は五月雨を題にした連歌のひとつのため、季語は合羽ではなく皐月雨の方になります。旅の最中に雨に降られ、カッパや傘を買った経験のある人も多いのではないでしょうか。
【NO.2】白井鳥酔
『 出て見せつ 隠れつ雲の 皐月不二 』
季語:皐月不二(夏)
意味:出て見せたり、隠れてみたりする雲の中の皐月の富士山よ。
快晴の空ではなく、白い雲が流れていく5月の空を連想させる句です。富士山の山頂が雲で見えたり隠れたりするのどかな様子を詠んでいます。
【NO.3】桜井梅室
『 桟(かけはし)や 藤つなゆるむ 皐月雨 』
季語:皐月雨(夏)
意味:川を渡るための桟橋があるなぁ。藤で作った綱もゆるむほどの皐月雨が降っている。
梅雨の大雨で川を渡るための橋が壊れかけている様子です。かつては藤のつるで編んだ橋や、板を渡した橋が多くありました。
【NO.4】桜井梅室
『 露さへも 旅はおもきに 皐月雨 』
季語:皐月雨(夏)
意味:小さな露さえも旅では重く感じる皐月雨であることだ。
江戸時代は現在のような雨具はなかったため、かさばるものを持ち歩けない旅で雨に降られるとどうしても濡れてしまいます。ほんの少し濡れただけでも歩く旅ではとても重く感じるという、旅情にあふれた句です。
【NO.5】鶴田卓池
『 ゆくそらも ありや皐月の 雨烏 』
季語:皐月(夏)
意味:皐月の雨の中を飛んでいくカラスがいる空だなぁ。
雨の日は鳥は飛ばずに羽根を休めていることが多いですが、雨が弱まったときにふと空を見上げた光景を詠んだ句です。倒置法を使用することで雨の中のカラスの姿が際立ちます。
【NO.6】常世田長翠
『 松にます 蔭はあらじな 皐月山 』
季語:皐月(夏)
意味:松にある蔭は増えていないだろうな、皐月の晴れた山には。
「ます」とは「いらっしゃる」という意味の坐すと増すを掛けています。皐月のよく晴れた山を見て、影もできないほど日当たりがいいと感じたことから詠まれた句です。
【NO.7】望月宋屋
『 仮橋や 人に抱つく 皐月川 』
季語:皐月(夏)
意味:仮の橋が掛かっている。人に抱きついて渡るような危なっかしい皐月の川だ。
【NO.8】三宅嘯山
『 立ぬれの 牛静かなり 皐月雨 』
季語:皐月雨(夏)
意味:立ったまま濡れている牛が鳴かずに静かにしている皐月雨の日だ。
江戸時代では牛は耕作に欠かせなかったため、今よりもよく見かける光景でした。梅雨に濡れても鳴きも暴れもせずに立っている姿が、どこか神々しくも感じます。
【NO.9】正岡子規
『 ごうごうと 皐月の海の 鳴り渡る 』
季語:皐月(夏)
意味:ごうごうと音を立てて皐月の海が鳴り渡っている。
皐月のどこか荒れた海を思わせる一句です。広大な海と大きな波音が、ちっぽけな自分を浮き彫りにさせるような感覚になります。
【NO.10】正岡子規
『 皐月寒し 生き残りたるも 涙にて 』
季語:皐月(夏)
意味:皐月といえども寒いものだ。生き残っても涙が出て濡れて寒い。
この句は明治29年6月に起きた明治三陸地震を受けての一句です。9番の句では勇壮たる海を詠んでいましたが、この句では前書きが「海嘯三陸の民を害す」とあるように、被害の大きさを物語っています。
皐月の季語を使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】高浜虚子
『 つつじ散り 皐月つつじは まだの頃 』
季語:皐月つつじ(夏)
意味:つつじは散ったが、皐月つつじはまだ咲かないこの頃だ。
「皐月つつじ」とは「サツキ」と呼ばれている花で、5月から6月にかけて咲きます。ツツジとの見分け方は花が先に咲いてあとから葉が出てくるのがサツキです。
【NO.12】日野草城
『 みそなはす 皐月の湖の てりくもり 』
季語:皐月(夏)
意味:ご覧になってください。この皐月の照ったりくもったりしている湖面の美しさを。
「みそなはす」とは「ご覧になってください」という意味です。湖面の照り返しの美しさを目上の人に見せようとしているときの句だと考えられます。
【NO.13】中村汀女
『 一条の 煤煙のもと 皐月富士 』
季語:皐月富士(夏)
意味:一条の煤煙のもとには皐月の富士山がある。
【NO.14】木村蕪城
『 皐月富士 のぞむ庵の 炉塞がず 』
季語:皐月富士(夏)
意味:皐月の富士山を臨む庵の炉は塞がないでおこう。
炉を塞ぐ、という表現から、囲炉裏ではなく陶芸などに使う窯などの炉を連想します。いつでも富士山を眺められるロケーションの庵は残しておきたいという気持ちが詠み取れる句です。
【NO.15】飯田蛇笏
『 火山湖に とほく小さき 皐月富士 』
季語:皐月富士(夏)
意味:火山湖に遠く小さく映る皐月の富士山よ。
火山でできた湖に、活火山の富士山が小さく映り込んでいる風景を詠んでいます。富士山といえば雄大さを詠むものが多いですが、あえて「とほく小さき」と詠んでいるところが、火山としての富士山の規模の大きさを表す表現です。
【NO.16】稲畑汀子
『 皐月富士 見えしうつつも 秩父路に 』
季語:皐月富士(夏)
意味:皐月の富士山が見えた現実の秩父路の道中よ。
「秩父路」とは古くは秩父往還と呼ばれ、埼玉県の熊谷市から荒川沿いを通って秩父盆地に入り、甲府を目指す道でした。甲府が近づくにつれて大きくなる富士山を「うつつ」と表現したのかもしれません。
【NO.17】長谷川かな女
『 皐月紅さし 山中節は 情ふかく 』
季語:皐月(夏)
意味:皐月の日に紅をさして舞う山中節は、情が深い踊りなのだ。
「山中節」とは石川県の山中温泉で歌い継がれてきた民謡です。元は盆踊りの唄でしたが、芸者たちによってゆったりとした曲調に変化し、現在でも披露されています。
【NO.18】橋本榮治
『 十一面観音 その一面の 皐月闇 』
季語:皐月闇(夏)
意味:十一面観音のうちの一面には皐月の夜の闇が広がっている。
十一面観音はその名のとおり、11個の顔がついている観音像です。光の具合で一つだけ暗く見える顔があったのか、夜の闇を見つめているように感じたのか、想像がふくらむ句です。
【NO.19】坪内稔典
『 皐月闇 口あけて来る 赤ん坊 』
季語:皐月闇(夏)
意味:皐月の暗い夜に、口をあけてこちらに来る赤ん坊がいる。
夜中に赤ん坊の世話をしている様子を詠んだ句です。どんなに暗くても、赤ん坊は起きれば遊び出す様子が目に浮かんできます。
【NO.20】佐藤鬼房
『 養泉寺は 皐月曇りに 糸すすき 』
季語:皐月(夏)
意味:養泉寺は皐月くもりの日に糸すすきがたくさん生えている。
「養泉寺」という名前のお寺はいくつかありますが、有名なのは京都にある萩の花で有名なお寺です。皐月の曇り空はどこか重苦しい雰囲気がしますが、糸すすきが風に揺れている様子を詠んでいます。
以上、皐月に関する有名俳句でした!
今回は、皐月に関する有名俳句を20句ご紹介しました。
皐月といえば、皐月晴れや皐月雨など天候を詠むものが多いのが印象的な季語です。
梅雨に差しかかって悪天候なことも多い時期ですが、一瞬の晴れ間や風景などを詠んでみてはいかがでしょうか。