「月見」とは、旧暦8月15日の「仲秋の名月」を鑑賞する風習です。
月見団子のほかに収穫期の芋を供える地域もあるため、「芋名月」とも呼ばれています。
また、月見に関連する季語として「観月」「月を待つ」「月の宴」「月見酒」など、宴会を思い起こさせる季語が多くあります。
今回は、そんな「月見」に関する有名おすすめ俳句を30句紹介していきます。
月見の灯障子の上にともりたる(高野素十) #俳句 #秋 pic.twitter.com/ABztZNPc9b
— iTo (@itoudoor) November 3, 2015
ぜひ参考にしてみてください。
月見を季語に含んだ有名俳句集【前編10句】
【NO.1】井原西鶴
『 春の花見 秋の月見に 嵯峨もよし 』
季語:花見(春)、月見(秋)
意味:春のお花見や秋のお月見に嵯峨は良いところだ。
嵯峨は京都にあるなだらかな丘陵地で、古くから散策地として好まれてきました。この句は多くの季語が重なっていますが、四季折々の楽しみも嵯峨の地ならいっそう楽しいという井原西鶴の風流の好みがよく表れている一句です。
【NO.2】松尾芭蕉
『 あさむつや 月見の旅の 明け離れ 』
季語:月見の旅(秋)
意味:朝の六時の浅水の地だ。月見の旅として一晩中歩いていたら夜が明けてきた。
「あさむつ」には「浅水」と「朝六つ」が掛けられています。「あさむつの橋」は枕草子に書かれるほど古くから有名な歌枕で、福井市浅水町の川に掛かる橋です。
【NO.3】松尾芭蕉
『 月見せよ 玉江の芦を 刈らぬ先 』
季語:月見(秋)
意味:早く月見をしよう。玉江の芦が刈られるより先に。
「玉江の芦」とは古くから詠まれた歌枕で、現在の福井県福井市に位置していた湿地です。玉江に生える芦は夏に刈られることが多いため、刈られないうちに歌枕の名所で月見をしようと詠んでいます。
【NO.4】与謝蕪村
『 五六升 芋煮る坊の 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:月夜の晩に五升六升もの量の芋を煮るお坊さんの月見であることだ。
仲秋の名月は別名芋名月と呼ばれることがあり、月見団子の代わりに芋をお供えする地域があります。外で芋を煮ているお坊さんがふと空を見上げると、仲秋の名月が昇ってきていた風景を詠んだ句です。
【NO.5】小林一茶
『 大雨や 月見の舟も 見えて降る 』
季語:月見の舟(秋)
意味:大雨だなぁ。お月見のための船も見えているだろうに降っている。
月見船とは、お月見のために川に浮かべる船のことです。お月見の客のために準備していたのに、雨が降って月が見えずにキャンセルされてしまった河岸の様子を詠んでいます。
【NO.6】正岡子規
『 お寺より 月見の芋を もらひけり 』
季語:月見(秋)
意味:お寺よりお月見のお供えの芋をもらった。
芋名月の呼び名のとおり、芋をお供えするお寺が近くにあったのでしょう。お月見に供えられる芋は里芋のため、ここでもらった芋も里芋だと考えられます。
【NO.7】正岡子規
『 月見るや 上野は江戸の 比叡山 』
季語:月見(秋)
意味:仲秋の名月を見ている。上野は江戸の人々にとって比叡山に等しかったのだなぁ。
【NO.8】高浜虚子
『 雨に漕ぐ 月見舟あり ただ下る 』
季語:月見舟(秋)
意味:雨の中を漕いでいる月見船がある。何も見ずにただ下っている。
仲秋の名月が雨で終わってしまった無念の俳句です。中七で切れ字を入れ、最後に「ただ下る」と言い切りを重ねる表現がいっそうの無念をかき立てます。
【NO.9】向井去来
『 のりながら 馬草はませて 月見哉 』
季語:月見(秋)
意味:馬に乗りながら、馬に草を食ませて止まって月見をしよう。
馬に乗って帰路に着く途中で、文字通り道草を食わせて馬上から月見をしています。馬に乗っている最中という現在では想像しにくい情景も、車や自転車での帰り道に少し寄り道をして月を眺めているととらえるとわかりやすくなるでしょう。
【NO.10】森川許六
『 此秋は 月見の友も 替りけり 』
季語:秋(秋)
意味:今年の秋は月見をする友も入れ替わったことだ。
一緒に月見をする友を主眼に置いた俳句です。新たな環境で新しい友人を得たのか、歳をとっていく中で入れ替わっていったのか、月だけが去年と変わらない世の無常さを簡潔に詠っています。
月見を季語に含んだ有名俳句集【中編10句】
【NO.11】高野素十
『 月見の灯 障子の外に ともりたる 』
季語:月見(秋)
意味:月見の灯火が、障子の外に灯っている。
この句は2つの意味に取れる句で、1つ目は月見の宴をする際に部屋の外に明かりが灯っているとする文字のとおりの意味です。もう1つは、月自体を灯火に例えて障子の外、つまり夜空に輝く月の光が障子越しに輝いているという意味になります。
【NO.12】野村泊月
『 両岸の 芦どこまでも 月見舟 』
季語:月見舟(秋)
意味:川の両岸の芦がどこまでも広がっている月見船の上の光景だ。
治水工事の進んだ現在では川岸に広がる芦はあまり見ない光景になりましたが、芦は川や湿地に付きものの植物でした。月見のために川を下る際には欠かせない風物詩だったのでしょう。
【NO.13】山口青邨
『 舟べりに 頬杖ついて 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:船べりに頬杖をついてぼんやりと眺める月見であることだ。
【NO.14】横井也有
『 芋売は 銭にしてから 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:芋を売っているものたちは、芋をお金に変えてから月見をするのだろうなぁ。
お供えものに里芋を使うことのあるお月見ですが、農家以外ではお供え用に里芋を買い求めていました。そんな芋売たちは全て売ってからようやくお月見をするのだろうという、当時も今も変わらない労働環境を彷彿とさせます。
【NO.15】加賀千代尼
『 何着ても うつくしうなる 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:何を着ても美しくなる月見の宴であることよ。
月の光でどんな服でも美しく映えるという月光を称えた一句です。ぼんやりとした月の幻想的な光が服の美しさに託されています。
【NO.16】浜田酒堂
『 月見せん 弟子を集いて 薄(すすき)の穂 』
季語:月見(秋)
意味:月見をしよう。弟子を集めてススキの穂を持ってこさせよう。
ススキの穂を飾る理由としては、豊作を願うお祭りが月見の原形であり稲穂の代わりにしているという説があります。急遽月見の宴をしようと弟子たちにススキを持ってこさせる師弟の一句です。
【NO.17】河東碧梧桐
『 漕ぎ出でて 月見の船や 湖半 』
季語:月見の船(秋)
意味:漕ぎでているのはお月見の船だ。湖の半ばにいる。
川ではなく湖での月見の風景です。流れの少ない湖では、月夜の湖にポツリと船が浮かんでいる光景が「湖半」という言い切りから見えるような表現になっています。
【NO.18】高井几董
『 船頭と 月見あかしや 肴きれ 』
季語:月見(秋)
意味:船頭と月見をして夜を明かしたよ。酒の肴がきれてしまった。
月見船での宴の様子を詠んだ句です。船頭とも楽しく酒を飲みかわし、肴をつまみながら夜明けをむかえた楽しさの名残が「肴きれ」に込められています。
【NO.19】高濱年尾
『 相逢うて 月見る心 別々に 』
季語:月見(秋)
意味:二人で会っても、月を見て思う心は別々であることだ。
「相逢う」とはお互いに対面して会うことです。同じ場所にいて同じ月を眺めていても、月を見て何を思うかは各々違うのだろうなという感慨深さを感じさせます。
【NO.20】稲畑汀子
『 送り出し 門にしばしの 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:夜中に見送りに出たときに、玄関でしばらく月を眺めて見ていたことだ。
夜勤か来客の見送りか、夜に玄関の外に出たときにふと目に入った月に見入ってしまったときの句です。今では建物が多く立ち並んで空が狭くなっている地域もありますが、当時は見晴らしもよく、月がきれいに見えたことでしょう。
月見を季語に含んだ有名俳句集【後編10句】
【NO.21】向井去来
『 岩鼻や ここにもひとり 月の客 』
季語:月の客(秋)
意味:岩の先端にいる。ここにも1人月見を楽しむ風流な客がいた。
「岩鼻」とは岩の先端部分を鼻に例えた表現です。月見を楽しもうとよく見える特等席に向かったら先客がいたと詠んでいます。
【NO.22】炭太祇
『 石山の 石をたたいて 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:石山の石を叩きながら月見をする事だなぁ。
この句は松尾芭蕉の「石山の 石より白し 秋の風」を下敷きにしたものだと考えられます。実際に作者が舞台である那谷寺に行ったかはわかりませんが、名句を背景とすることで読者にも秋の風景が浮かんでくる仕組みになっている句です。
【NO.23】上島鬼貫
『 此の秋は 膝に子のない 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:この秋は膝に子供がいない月見なのだなぁ。
この句は作者が子供を亡くした後に詠まれたと言われています。去年までは膝の上に子供を乗せて月見をしていたのに、今年はいないのだという悲しみが感じられる一句です。
【NO.24】内藤丈草
『 舟引きの 道かたよけて 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:舟引きが川を遡っている。彼らの通る道を避けて月見をしよう。
淀川で詠まれたと言われているこの句ですが、川を遡るには舟を引っ張って行く必要がありました。そのため、月見にでてきた客も舟引きに道を譲らなくてはならない当時の状況をよく表しています。
【NO.25】杉山杉風
『 川沿ひの 畠をありく 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:川沿いの畑を歩いていく月見だなぁ。
川のせせらぎを聴きながら畑に囲まれた道を歩いている風景を詠んだ句です。月は「田毎の月」と田んぼが有名ですが、ここでは畑が詠まれています。
【NO.26】波多野爽波
『 仲よしの 女二人の 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:仲良しの女性2人が月見をしているなぁ。
ここで詠まれている「女二人」には指定がありませんが、友人同士とも家族とも読めます。肩を寄せあったり、月を指さしたりしながら見ていたのでしょうか。
【NO.27】高橋淡路女
『 お月見や 畳にこぼす 花の水 』
季語:お月見(秋)
意味:お月見をしていると、畳に花瓶の水をこぼしてしまった。
【NO.28】星野立子
『 もうやまぬ 雨となりたる 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:もうやまない雨となった月見の日だなぁ。
中秋の名月は雨が降ることも多い季節です。この句では最初は晴れていたのか、昼からずっと雨だったのか分かりませんが、もうやまないだろうなぁという無念の感情が込められています。
【NO.29】鈴木花蓑
『 三人の ふだんの友と 月見かな 』
季語:月見(秋)
意味:3人の普段から付き合っている友人たちと月見をしていることだ。
中秋の名月という特別なイベントを、普段通りに友人たちと過ごしている様子を詠んだ一句です。「三人」と指定していることからも、普段から遊んでいる友人たちだとわかります。
【NO.30】大野林火
『 新藁の 円座に月の 客となる 』
季語:月の客(秋)
意味:新しい藁で作った円座に座り、月見をする客になった。
「円座」とは藁などで渦巻き型に巻いていき丸く編んだ敷物です。ここでは円座の円と月の円を掛けています。
以上、月見を題材にした有名俳句集でした!
今回は、月見を季語に含む有名俳句を30句紹介しました。
月見の俳句は宴を詠んだものが多いですが、月を見たときの心境や月光の美しさを写実的に詠んだものなど、多くのバリエーションがあります。
お月見をするときにはぜひ一句詠んでみてください。