俳句は五七五の十七音に季節を表す季語を詠み込む文学です。
五・七・五のリズムが基本ですが、中にはそのリズムをわざと崩す「破調(はちょう)」という技法があります。
今回は、破調と破調の一種である字余りについて、その意味や違いを実例を挙げながら詳しく解説していきます。
寿司を軸に うぬが廻れば 回転寿司 (破調字余り)
— 🍣魂🍣 (@dolpen) October 14, 2012
ぜひ参考にしてみてください。
俳句の破調と字余りの違い
破調と字余りの意味は、下記の通りです。
- 破調(はちょう)・・・五・七・五の決められたリズムではない俳句のこと
- 字余り(じあまり)・・・破調の中でも十七音よりも多い字数になっている俳句のこと
つまり、「破調」とは定型(五・七・五)の基本から外れた「字余り(十七音よりも多い字数)」「字足らず(十七音よりも少ない字数)」などを指し、「字余り」は破調の中に含まれるということです。
以下に実例を挙げて解説していきます。
破調について詳しく解説
破調とは、初句の五音、二句の七音、三句の五音という決められた十七音から外れた形式の俳句を指します。
代表的な技法としては、下記の3つがあります。
- 文字が多い「字余り」
- 文字が足りない「字足らず」
- 言葉の意味が各句にまたがっている「句またがり」
それぞれの技法について実例を挙げて解説していきます。
字余り
【例】赤い椿(6音) 白い椿と(7音) 落ちにけり(5音)
この句では初句が六音になっている字余りです。「赤椿」とすれば字余りにはなりませんが、後に続く「白い椿」との対比もあり、わざと字余りの「赤い椿」という言葉を選んでいます。
字余りは破調の中の技法で、五・七・五のどこかの句の文字が多い状態です。
主に初句と二句の文字を増やす傾向にあり、1つの俳句に使える文字は最大で二十二音程度までと決められています。
字足らず
【例】うせものを(5音) こだわり探す(7音) 日短か(4音)
この句では五・七・四になっており、結句の文字が少ない字足らずの俳句です。
「短い」という季語の結句の文字を短くしてしまうユーモアのある一句です。
句またがり
【例】算術の(5音) 少年しのび泣けり(10音) 夏(2音)
この句は音は規定通りの十七音ですが、二句と結句に「しのび泣けり」という句またがりが出ています。
字数上の制限は問題ありませんが俳句のリズムとしては成立しないため、破調の俳句とされます。
破調が使われている有名俳句【6選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる 』
季語:枯野(冬)
意味:旅の途中で病に倒れたが、夢の中ではまだあの枯野をかけめぐっている。
六・七・五の字余りの一句です。松尾芭蕉の絶筆の句として有名で、旅の途中で病に倒れた自身の無念さを詠んでいます。
【NO.2】芥川龍之介
『 兎も 片耳垂るる 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:ウサギも片耳を垂れるほど暑い大暑の日であることだ。
四・七・五と初句が字足らずになっている一句です。あまりの暑さに垂れるものとして、いつもはピンと立っているウサギの耳を際立たせる効果があります。
【NO.3】小林一茶
『 雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る 』
季語:雀の子(春)
意味:雀の子よ、そこをおどきなさいおどきなさい、お馬が通りますよ。
五・八・七の字余りの有名な一句です。十七音から三音もオーバーしていますが、「そこのけ」という繰り返しが軽快なイメージを抱かせる表現です。
【NO.4】松尾芭蕉
『 海暮れて 鴨の声ほのかに 白し 』
季語:鴨(冬)
意味:海辺で日が暮れて、ほのかに白い影がよぎる。鴨の声が響いた。
二句と結句の「鴨の声ほのかに」が句またがりになっている一句です。「白し」だけが目立つため、日暮れの海に白い色が際立っています。
【NO.5】高浜虚子
『 天の川の下に 天智天皇と 臣虚子と 』
季語:天の川(秋)
意味:この天の川の下にかつて天智天皇が治められた土地があり、今ここに虚子も立っているのだ。
九・八・五と作者にはめずらしく二十二音にもなる字余りの一句です。この句はかつて天智天皇の時代に国防の要とされた大宰府で詠まれており、当時から変わらないだろう天の川と様変わりした現代に思いを馳せています。
【NO.6】小林一茶
『 さくらさくらと 唄はれし 老木かな 』
季語:さくら(春)
意味:「さくらさくら」と唄われていた老木なのだなぁ。
初句と二句の「さくらさくらと唄はれし」が句またがりになっています。「さくらさくら」とは「道成寺」という長唄の一節で、切れ字の「かな」も含めてかつては栄華を誇っただろう老木への感慨を詠んだ句です。
さいごに
今回は、破調と字余りについて、実例を出しながら詳しく解説してきました。
どこまでが「破調」と呼ぶのかは俳壇でも議論が分かれていて少し難しいところがありますが、最初のうちはどの単語を強調したいのかを基準に詠んでみましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。