竹は身近な植物のひとつとして、多くの俳句に詠まれてきました。
季語としての特徴は、竹や竹やぶ、竹林自体は季語にならないことでしょう。また、春夏秋冬の中で夏に顕著に多く、秋が最も少ないなど、季語の数の差も顕著です。
竹林のわきを通って二の丸庭園を引き上げる。
うきふしや竹の子となる人の果 芭蕉
脱ぎ捨ててひとふし見せよ竹の皮 蕪村
ある高さまでは一気に今年竹 片山由美子
仮名散らすかにひらひらと竹落葉 岡崎鶴子
(いずれも夏季) pic.twitter.com/1p6R4Kmk6u— 高橋和志 (@K5Takahashi) May 6, 2014
今回は、そんな「竹」に関する季語を季節ごとに解説していきます。
ぜひ参考にしてください。
目次
竹に関する季語にはどのようなものがある?
竹に関する季語は、秋の季語がほとんど見られないのに対して、夏の季語として多くの数が見られることが特徴です。
竹で作られた道具のほとんどが夏の季語になっています。また、タケノコは現在では春の味覚とされていますが、旧暦では夏の季語になっているなど、季節を間違いやすい季語がいくつかあるのに注意しましょう。
近くの竹林。葉が黄色く色づいています。竹はこの時期に葉を落として若葉に切り替わります。「竹秋」は春の季語。 pic.twitter.com/pnhrrkfIgI
— 中野 純 (@tatenogama) May 17, 2013
以下に、竹に関する季語の一例を挙げていきます。
【春の季語】竹の秋・竹の秋風・竹秋(ちくしゅう)・竹割祭・茗荷竹・春の筍
【夏の季語】衣紋竹・筍・今年竹・竹植う・竹落葉・竹の神水・竹咲く・竹の花・竹牀几(しょうぎ)・竹簾・竹の皮・竹枕・竹席・竹婦人・節竹・若竹・鞍馬の竹伐
【秋の季語】竹の春・竹春(ちくしゅん)・竹伐る・竹の実・七夕竹・七夕竹売
【冬の季語】火吹竹・煤竹・煤竹売・竹馬・竹瓮(たっぺ)・寒竹の子・門の竹・松竹梅飾る
次に、これらの季語の中から特に知っておきたい季語をピックアップしてご紹介します。
竹に関する季語【春編】
竹の秋
「秋」とつくために誤解しやすい季語のひとつです。
竹は落葉樹と違って秋ではなく春に葉を黄色くするため、竹にとっては秋のように葉の色を変えるという意味で「竹の秋」が春の季語になっています。
また「竹秋」と書くと旧暦3月の異称のひとつになるので、秋という単語に惑わされないようにしましょう。
竹の秋風
こちらも「秋風」とつくために秋の季語と間違われやすい季語です。
竹の黄色くなった葉を通り抜ける風を竹の秋風と表現しています。
そのため、ここで想定されている竹は青々とした竹ではなく、全体的に黄色い竹です。
茗荷竹(みょうがだけ)
竹とついていますが、ミョウガの若芽のことを「茗荷竹」と呼びます。
新芽が出る様子が竹に似ていることから茗荷竹と呼ばれています。
ぜミョウガには他にも夏の季語である「茗荷の子」、秋の季語である「茗荷の花」がありますので、どの季節の季語になっているか注意しましょう。
春の筍(たけのこ)
タケノコは春から初夏にかけて採れる竹の新芽で、現在では春の味覚として知られています。
モウソウチクは春先から採れる筍で、「春の筍」と俳句に詠まれる場合はモウソウチクのことが多いです。
「筍」自体は後述するように夏の季語のため間違いやすい季語になります。
竹割祭
石川県の菅生石部(すごういそべ)神社で行われる「御願神事」の俗称が季語になったものです。
毎年2月10日に行われていて、300本の青竹を使用します。
用意された青竹を石段や柱、床に打ち付けて割ることから「竹割祭」の俗称が付けられました。
竹に関する季語【夏編】
竹落葉
タケノコが成長して若竹になっていく一方で、栄養分をタケノコに集中させる竹は葉が黄色くなり、古い葉を落とします。
葉の色が変化する「竹の秋」は春の季語で、葉を落とす「竹落葉」は夏の季語と間違いやすくなっています。
どの季節の竹なのかしっかりと確認して季語を使用しましょう。
若竹
初夏になり地表に出てきたタケノコが伸びていくと、茶色の皮が脱げて真新しい竹になります。
この状態を「若竹」といい、「青竹」「今年竹」とも呼ばれる季語です。
タケノコは1ヶ月で通常の竹と同じくらいに成長していきますが、瑞々しい緑色をしているため夏の象徴のような植物です。
竹簾(すだれ)
青竹を用いて作られる簾(すだれ)を「青簾」や「竹簾」と言います。
現在でも夏場の遮光用として使う簾は、カーテンやブラインドのない頃には唯一の日除けでした。
「青簾」と詠まれる場合はおろしたてのことが多く、瑞々しい香りが漂ってくる雰囲気を詠んでいます。
竹の花
竹の花はめったに咲くことのない花です。
花を咲かせる竹類は約120年の周期で開花すると言われていて、俳句で詠まれる際にはめずらしいものの例えであることが多い季語になります。
数日しか花を咲かせず、開花後には竹ごと枯れてしまうため、実際に目にして俳句を詠むことは少ないでしょう。
筍
俳句では「竹の子」と詠まれることも多い夏の季語です。
春の味覚とされているために間違いやすい季語のひとつですが、旧暦では夏の季語となります。
春先に採れるモウソウチクの他はマダケやハチクが知られていて、芽が地表に出る直前のやわらかい状態のものを掘り起こして食べられています。
味覚を表現するほかに白さの例えとして詠む俳句もあり、竹に関する季語の中でも馴染みのある季語です。
竹に関する季語【秋編】
竹の春
「竹の春」は春という単語で間違いやすいですが、秋の季語です。
秋の竹は新芽であるタケノコが育ち切り、春先に衰えた勢いを取り戻し葉も青々としてきます。
「竹春」と書くと旧暦8月の異称となり、青々とした葉を茂らせる竹の時期を表す季語になります。
竹伐る
竹は秋が最も繊維が強くなり、道具作りに適した状態になります。
そのため、伐採して利用する場合は秋に行われることが多く、「竹伐る」が秋の季語になりました。
春や夏は竹の中に虫が住んでいることもありますが、秋になるといなくなるためより適した季節です。
竹の実
竹の実は竹が花を咲かせたときだけ見ることのできる実です。
実は麦に似ていて、粉にして食用にすると言われています。しかし竹の花は開花時期が長いため、実を実際に口にして俳句を詠んだ人はとても少ないでしょう。
かつては飢饉のときに竹の花が咲いて実をつけ、助けになったという言い伝えも残っています。
七夕竹
現在は七夕で短冊を吊るすのは笹ですが、俳句では竹として詠まれることが多いです。
「短冊竹」とも呼ばれ、江戸時代に七夕竹を売りに来た「七夕竹売」も秋の季語になっています。
七夕は現在のカレンダーでは夏の行事のため間違いやすい季語として有名ですが、こちらの七夕竹なども秋の季語となるため注意しましょう。
竹に関する季語【冬編】
火吹竹
竹筒の一方の節を残して小さな穴を開け、強い風を吹き込めるようにした道具のことです。
火をおこす際に使用され、竃で主に使われてきました。
かつては77歳の喜寿を迎えた家庭が、7月7日に親戚や知人に火吹竹を作って送る習慣もあり、台風や火災よけの縁起物にもしていたと言われています。
煤竹
季語としての「煤竹」とは、年末の煤払いを行うために枝葉をつけた状態の竹のことです。
囲炉裏や竃を使っていた頃は屋根に煤が溜まっていたため、新年を迎える前に煤を払っていました。
煤払いのための竹を売る「煤竹売」も冬の季語になっています。
竹馬
現在ではステンレス製のものが多くなりましたが、竹とついているように元は竹で作られていた遊具です。
竹馬が冬の季語とされている理由は判然としませんが、かつては川の渡河や雪深い場所を渡るための道具でした。
そのことから冬の季語とされているのではないかと言われています。
門の竹
「門の竹」とは門松とともに飾られる竹のことで、冬もしくは新年の季語です。
「飾竹」「立松」とも呼ばれ、常緑樹を飾ることでその年の息災を願います。
地域によって松だけを飾るところから竹や梅を添えて飾るところもあり、「松竹梅飾る」という新年の季語も同じ意味になります。
寒竹の子
カンチクは冬に新芽としてタケノコが採れる竹の品種です。
「寒竹の子」はカンチクのタケノコのことで、食用になります。味はおいしく風味があるので珍重されています。
「寒筍」とも詠まれるので、どの季節のタケノコを詠んでいるのか注意して読みましょう。
竹に関する有名俳句【おすすめ6選】
【NO.1】山口青邨
『 暁の 庭の灯残る 竹の秋 』
季語:竹の秋(春)
意味:夜明けの庭の灯火が残る竹の秋だ。
庭に明かりを付けたままの家があったのでしょうか。夜明けでもその明かりが付いたまま、黄色に葉の色を変えた竹を照らし出している様子を詠んだ一句です。
【NO.2】松尾芭蕉
『 たけのこや 推き(おさなき)時の 繪(え)のすさび 』
季語:たけのこ(夏)
意味:たけのこが生えているなぁ。幼い時にたけのこの絵を書いて遊んだことを思い出した。
タケノコが生えている様子を見て、小さい頃にタケノコの絵を描いて遊んだことを思い出している一句です。当時の作者は40歳を過ぎていて、遠い日の思い出がふと蘇った感覚が「たけのこや」の初句切れに表れています。
【NO.3】服部嵐雪
『 竹の子や 児(ちご)の歯ぐきの うつくしき 』
季語:竹の子(夏)
意味:タケノコを食べているなぁ。かぶりつく子供の歯茎が美しく見える。
茹でたタケノコは真っ白に見えます。そんなタケノコにかぶりつく子供の歯茎が美しく見え、成長を喜んでいる親の目線で詠まれた一句です。
【NO.4】立花北枝
『 若竹や 竹より出て 青き事 』
季語:若竹(夏)
意味:若竹が生えているなぁ。竹から生えてきたのに竹よりも青いことだ。
「竹より出て青き事」というフレーズから、「青は藍より出て藍より青し」という故事成語が浮かんできます。弟子が師より優れていることの例えですが、この俳句でも新しく生えてきた若竹が元の竹よりも青々と生命力あふれる様子を称えている様子が伺える句です。
【NO.5】石田波郷
『 七夕竹 惜命の文字 隠れなし 』
季語:七夕竹(秋)
意味:七夕竹に惜命の文字が隠れることなく見えている。
「七夕竹」とは七夕の行事で短冊を吊るす竹のことです。作者はこの時肺結核を患って長期療養していました。当時の結核は死に至る病です。結核患者が集められた療養所で行われた七夕の行事では、生きていたいという切実な気持ちが「惜命」の二文字に込められています。
【NO.6】原石鼎
『 山寺の 冬夜けうとし 火吹竹 』
季語:火吹竹(冬)
意味:山寺の冬の夜は人気がなくて寂しいなぁ。火吹竹を使って火を起こそう。
「けうとし」とは人がいなくて寂しいという意味です。火吹竹は現在ではほとんど見かけませんが、火を起こしたり調整したりする時に息を吹きかけるための長い竹がありました。寂しさを紛らわせるために火を起こす山寺の静けさが伝わってくる一句です。
さいごに
今回は、竹に関する春夏秋冬の季語を解説してきました。
竹は道具として使われることが多かったため、現在ではあまり見かけない季語が多いこと、旧暦と新暦の季節感のズレで間違いやすい季語が多いことが特徴的です。
そのため、江戸時代の俳句なのか、現代の俳句なのかで受ける印象も変わってきます。
竹自体は常緑の植物のため季語にならないことに注意が必要ですが、独特の季節感を表せる季語でもあるため、竹をテーマに一句詠んでみてはいかがでしょうか。