葉月は旧暦8月頃、現在の暦では8月下旬から10月上旬頃を指します。
まだまだ夏の暑い季節のため、はっきりとした色彩を連想させる句が多く詠まれます。
葉月の由来
葉月の由来は諸説あり、木の葉が紅葉して落ちる月「葉落ち月」「葉月」であるという説が有力。※旧暦の八月は、今で言う9月から10月上旬位までなので、落ち葉の季節になります。#葉月 #和 #書道 pic.twitter.com/XRXxWZdoLZ
— 美帆 (書家) (@shoka__miho) July 31, 2016
今回は、そんな「葉月(はづき)」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介していきます。
葉月の季語を使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】小林一茶
『 二度目には 月ともいはぬ 葉月かな 』
季語:葉月(秋)
意味:2度目には月とも言わない葉月であることよ。
そのまま読むと、「1度は月が出たと言うが、2度目には言わない葉月である」という意味になります。まだ夜といえど暑い時期なので、月見をしていられないのかもしれません。
【NO.2】渡辺吾仲
『 風便に 任する荻の 葉月哉 』
季語:葉月(秋)
意味:風の便りに任せる萩の花が咲く葉月であるなぁ。
「風便」とは風の便りを意味します。萩の花は7月から9月に開花するため、ちょうど葉月は開花シーズンということになり、あちらこちらで咲いていたことが伺える句です。
【NO.3】飯田蛇笏
『 ねむる間に 葉月過ぎるか 盆の月 』
季語:葉月(秋)
意味:眠っている間に葉月が過ぎてしまったかと思った。今夜は盆の月だ。
「盆の月」も秋の季語ですが、ここでは「眠っている間に寝過ごしたか」と心配する句のため、葉月を季語としました。夏休みにずっと家で寝ていたらいつの間にか時間が過ぎ去っていたようなユーモアを感じます。
【NO.4】日野草城
『 わが葉月 世を疎めども 故はなし 』
季語:葉月(秋)
意味:私が葉月の世の中を疎んでいるが、理由はないのだ。
作者は病気がちだったと言われています。昼は暑く、夜は涼しくなる時期は体調を崩しやすく、あまり好きではなかったのかもしれません。
【NO.5】飯田龍太
『 家遠く ありて葉月の 豆畑 』
季語:葉月(秋)
意味:家が遠くにある葉月の豆の畑よ。
豆は種類にもよりますが、一般的には夏から秋にかけて種を植えます。この句の豆畑はちょうど種を植えている最中の畑の様子を詠んだ句です。
【NO.6】中村草田男
『 葉月空 海は千筋の 紺に澄み 』
季語:葉月(秋)
意味:葉月の空だ。海は千筋もの波が立ち、澄んだ紺色をしている。
広大な夏の空と海を詠んだ句です。波のうねりや深い海の色が美しく表現されています。
【NO.7】佐藤鬼房
『 科の木や 葉月ぐもりの 峠茶屋 』
季語:葉月(秋)
意味:シナノキが生えているなぁ。葉月の日のくもりの峠茶屋で一服しよう。
【NO.8】長谷川かな女
『 産声や 唇紅させる 葉月稚児 』
季語:葉月(秋)
意味:産声が聞こえるなぁ。唇が紅をさしたように真っ赤にさせた葉月生まれの赤ちゃんだ。
葉月の暑い盛りに生まれた赤ちゃんを見ての一句です。元気よく産声をあげる血色のいい赤ん坊の様子が浮かんできます。
【NO.9】富安風生
『 胡桃樹の 天蓋あをき 葉月かな 』
季語:葉月(秋)
意味:くるみの木の天蓋のように広がる葉が青い葉月であることだ。
クルミの木の葉がまるで天蓋のように広がっている様子を詠んだ句です。青々とした葉の先に青空が見えていたとしたら、まさにあおい天蓋に見えたことでしょう。
【NO.10】平畑静塔
『 葉月には おぼこ林檎の 落ちやす 』
季語:葉月(秋)
意味:葉月は、まだ熟していないりんごが落ちやすいのだ。
「おぼこ林檎」とはまだ熟していないりんごを指します。りんごの収穫期はもう少し後で、熟していないのに台風などで落ちてしまうりんごが多い時期です。
葉月の季語を使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】鈴木真砂女
『 ひるよりも 夜の汐にほふ 葉月かな 』
季語:葉月(秋)
意味:昼よりも夜の方が潮の匂いが強くなる気がする葉月であるなぁ。
同じ場所でも昼と夜でどこか香りが違うなと感じたことはないでしょうか。夜のひっそりとした潮の香りは、夜に散歩に来る人の特権なのかもしれません。
【NO.12】永田青嵐
『 朝山や 葉月の月の きえのこり 』
季語:葉月(秋)
意味:朝の山が見える。葉月の月の消え残りのような光だ。
夏は夜明けが早く、月はうっすらと白く空に残るのみとなります。朝の山を見たら消え残りのような月が見えたという、早朝の里山のような風景の句です。
【NO.13】荻原井泉水
『 芦の葉月となる橋から 汐のさし入るらしく 』
季語:葉月(秋)
意味:芦が生える葉月の橋から、海の潮が入るらしい。
【NO.14】金子兜太
『 ふくべをちぎり 棗(なつめ)をたたく 葉月かな 』
季語:葉月(秋)
意味:ふくべをちぎり、ナツメをたたく葉月であることだ。
「ふくべ」とはユウガオの実のことで、外側は細工物として加工されます。ナツメの実は9月頃に収穫されるため、季節の植物をあれこれいじりながら歩く子供たちの様子が浮かんでくる句です。
【NO.15】根岸善雄
『 靴脱ぎて 佇てり葉月の 夕渚 』
季語:葉月(秋)
意味:靴を脱いで佇んでいる葉月の夕方の海岸だ。
波打ち際に立ち、裸足で波を感じる感覚は他では体験できないものです。夕暮れということで、夕日を見ながらぼんやりと佇んでいる様子を詠んでいます。
【NO.16】石川桂郎
『 飴色に 澄みて葉月の まむし酒 』
季語:葉月(秋)
意味:飴色に澄んだ葉月のマムシ酒だ。
「まむし酒」は夏の季語でもあります。マムシを酒に漬け込んでから3年ほど経過すると飴色に色づくため、ちょうど飲み頃になったマムシ酒を見ての一句です。
【NO.17】岡井省二
『 日の影の 相あつまつて 葉月かな 』
季語:葉月(秋)
意味:日の光がそれぞれ集まったような葉月であることだ。
「影」には光という意味もあります。暦の上では秋とはいえ、いまだ煌々と照らす太陽を光が象徴的な季節です。
【NO.18】軽部烏頭子
『 蛾の色に 似て蝶なれや 葉月過ぐ 』
季語:葉月(秋)
意味:蛾の色に似ているが蝶なのだろうか。葉月の日が過ぎていく。
蛾と蝶を正確に見分けられる人はなかなかいないでしょう。「なれや」は「なのだろうか」という疑問を表す表現です。
【NO.19】柿本多映
『 鱗わが心を覆ふ 葉月かな 』
季語:葉月(秋)
意味:鱗が私の心を覆うような葉月であるなぁ。
鱗で覆われているものとして連想されるのは魚です。葉月という暑い時期に魚のようになりたいという意味なのか、防御としての鱗を想定しているのか、どちらを取るかで意味が変わってくる面白い一句です。
【NO.20】阿部完市
『 鯖と葉と いのちはこんで 葉月の地 』
季語:葉月(秋)
意味:サバと葉と命を運ぶ葉月の土地よ。
サバと葉の組み合わせから連想される食べ物としては柿の葉寿司があります。内陸部へと輸送される柿の葉寿司は、自然の恵みそのものもです。
以上、葉月に関する有名俳句でした!
今回は、葉月に関する有名俳句を20句ご紹介しました。
葉月という暑さと秋の気配が両方感じられる時期だけあり、気候のさわやかさを詠むものや朝晩の涼しさを詠むものまで幅広い表現があります。
現在のカレンダーではまだまだ暑さの続く葉月ですが、ぜひ一句詠んでみてください。