睦月は旧暦1月の異称で、現在の暦で2月を指します。
新年に分類する歳時記もありますが、今回は春の季語として扱っています。
睦月は正月を終えて暦の上で春に近づいていく季節のため、正月の終わった寂しさや近づく春への期待が感じられる句が多いのが特徴です。
今日から1月、睦月。
睦月の由来には諸説あるが最も有力なのは、親族一同集って宴をする「睦び月(むつびつき)」とも。他には「元つ月」「萌月」「生月」などの説も。
異名には墨染月、早緑月、年端月なんて綺麗な名前も。 pic.twitter.com/K6UbTw5pSV— 咲良 (@sakuranotabi) December 31, 2014
今回は、そんな「睦月(むつき)」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介していきます。
睦月の季語を使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 十五日 立つや睦月の 古手買 』
季語:十五日(新年)
意味:小正月である睦月の15日にもなると、古い道具を買う商人たちも活動し始める。
「十五日」とは「十五日正月」の略で、1月15日の小正月のことを意味します。小正月をむかえると、新年ムードで活動していなかった店も営業を再開する様子を詠んだ句です。
【NO.2】池西言水
『 梅が香に 睦月の蜂の よめりかな 』
季語:睦月(春)
意味:梅の香りに誘われて、睦月という寒い時期に蜂が嫁入りしているなぁ。
寒い睦月に、梅の香りで誘い出された蜂を描写しています。「梅が香」と「睦月」の季重なりですが、「睦月の蜂」が強調されているため季語は睦月になります。
【NO.3】内藤鳴雪
『 六日はや 睦月は古りぬ 雨と風 』
季語:六日(新年)
意味:1月6日に早くもなってしまった。睦月になってから時間を経てしまっていると感じる雨や風である。
「六日」とは七日正月という節句の前日を表す新年の季語です。あっという間に正月も終わり、春に向かって雨風が出てきた時間の経過を詠んでいます。
【NO.4】北村季吟
『 またの年の 睦月もいはへ 千代の江戸 』
季語:睦月(春)
意味:また来年の睦月も祝いたいものだ。千代に続く江戸の街よ。
この句は江戸時代の俳句を集めた「元禄百人一首」に収録されています。また来年も正月を江戸で祝いたいものだという、願いが込められた一句です。
【NO.5】正岡子規
『 琴鼓 ならべかけたる 睦月哉 』
季語:睦月(春)
意味:琴や鼓を並べ掛けている睦月であることだ。
琴や鼓は当時の宴会などに欠かせない楽器でした。正月を祝う宴が続いていることを、しまわれているのではなく並べ掛けられていると表現することで示しています。
【NO.6】正岡子規
『 ひもじさの 餅にうれしき 睦月哉 』
季語:睦月(春)
意味:お腹がすいている私には餅が食べられることが嬉しい睦月だなぁ。
正月といえばお餅と言われるくらい、昔からお餅はつきものでした。正月を過ぎても干した餅などが保存食として作られるため、いくらでも食べられる嬉しさを詠んでいます。
【NO.7】飯田蛇笏
『 なつかしき 睦月のちりや すずり筥(ばこ) 』
季語:睦月(春)
意味:心が引かれる睦月のわずかな汚れが残っている硯の箱だ。
【NO.8】飯田蛇笏
『 渓声に 鷹ひるがへる 睦月かな 』
季語:睦月(春)
意味:谷川の流れる音に、鷹が空をひるがえって飛んでいる睦月であることだ。
雪に閉ざされた山から、春が近づいて川の音が聞こえ、鷹が空を飛ぶようになった風景を詠んでいます。鷹は空から獲物を狙うため、餌となる動物たちが姿を表すようになった様子が浮かぶ句です。
【NO.9】長谷川かな女
『 つれづれの 人美しき 睦月かな 』
季語:睦月(春)
意味:退屈そうに物思いに沈んでいる人が美しく見える睦月であることだ。
「つれづれ」とは「退屈そうに」「物思いに沈む」という意味です。世間は正月や春の訪れにわいている時期ですが、だからこそ世間に流されない人を美しいと表現しているのかもしれません。
【NO.10】富安風生
『 神の磴 睦月の蝶を 遊ばしむ 』
季語:睦月(春)
意味:神社の燈籠が、睦月に飛んでいる蝶を遊ばせている。
睦月というまだ寒い時期に飛んでいる蝶が、神社の燈籠の明かりと温かさを求めて舞っている幻想的な句です。ぼんやりと照らされた蝶の羽根が思い浮かびます。
睦月の季語を使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】杉田久女
『 筑紫野は はこべ花咲く 睦月かな 』
季語:睦月(春)
意味:筑紫野ははこべの花が咲いている睦月であることだ。
「筑紫野」とは福岡県筑紫地域のことです。はこべは春の七草の1つで春に花を咲かせる植物ですが、春を「はこべ」と言う意味が掛かっています。
【NO.12】西島麦南
『 山深く 睦月の佛 送りけり 』
季語:睦月(春)
意味:山深く睦月に亡くなった仏様を送っていく。
現在の都市部の霊園のように平地にあるのではなく、山に近い集落の野辺送りを詠んだ句です。山の中へ仏様が帰っていくような静けさを感じます。
【NO.13】柴田白葉女
『 崎のみち 睦月の花菜 ちりばめぬ 』
季語:睦月(春)
意味:岬の道に睦月の花や菜の葉を散りばめよう。
【NO.14】飯田龍太
『 寒暖の 山わかれたる 睦月かな 』
季語:睦月(春)
意味:山々で寒暖が分かれている睦月であることよ。
日当たりで寒暖差のある山は多くありますが、近い山でも雪の降る山とそうでない山がある地域もあります。この句はそんな山の気候の違いを詠んでいます。
【NO.15】松村蒼石
『 蛸突きや 睦月の潮に ひとり楫(かじ) 』
季語:睦月(春)
意味:蛸を突いて取っているなぁ。睦月の海に1人で舵を取って。
「蛸突き」というと地盤を固めるための作業が連想されますが、「睦月の潮」と表現されているためにこの句では文字通り蛸漁を詠んでいます。1人で器用に舵を取りながら蛸を突く漁師を見て詠まれた句でしょう。
【NO.16】角川源義
『 人去つて 睦月の庭に 酔解くよ 』
季語:睦月(春)
意味:宴会で集まっていた人が去って、睦月の庭の酔いが解けるようだ。
宴会が終わり、酔いが覚めた主人と庭を詠んでいます。宴のあとはいつも寂しさを感じるものですが、「酔解く」という表現が、まるで庭にも酔わせていたようなユーモアさを感じる句です。
【NO.17】伊丹三樹彦
『 雲と水 描き尽して 睦月の死 』
季語:睦月(春)
意味:雲と水を描き尽くして私の睦月は死んでしまった。
作者は俳句の他に写真にも熱心に力を入れていました。雲と水を描き尽くしたとは、写真でも俳句でも表現しきってしまったという諦めの様子でしょうか。
【NO.18】正岡子規
『 年々に へるや睦月の おもしろさ 』
季語:睦月(春)
意味:年々に経て過ごす睦月は面白いものだ。
「へるや」には2つの解釈があり、「年を経る」と意味と、「年々に減る」というあとなんど睦月を過ごせるだろうかという意味にとれます。どちらにしろ睦月を楽しんで堪能しようという明るい句です。
【NO.19】飯田蛇笏
『 身延山 雲靆く(たなびく)町の 睦月かな 』
季語:睦月(春)
意味:身延山の雲がたなびいている町の睦月の風景であることだ。
見延山は日蓮宗の総本山がある山で、山梨県の南部にあります。信仰が色濃く残る町に睦月の静かな空気や雰囲気が漂う、荘厳とした句です。
【NO.20】飯田龍太
『 詩の話など すこしして睦月かな 』
季語:睦月(春)
意味:詩の話などを少ししていたむつきであることだなぁ。
句またがりの俳句です。誰か親しい人や病床にある人と、詩の話を少ししてたのしんでいた睦月だったなぁという振り返りの句になっています。
以上、睦月に関する有名俳句でした!
今回は、睦月に関する有名俳句を20句ご紹介しました。
正月の宴での楽しさや、宴が終わったあとの静けさ、ほんのわずかに感じる春の予感など、多くのものを詠み込まれる季節の季語です。
まだ寒い時期ですが、宴会の最中にでもこっそり詠んでみてはいかがでしょうか。