大暑(たいしょ)とは季節の指標である二十四節気の1つで、現在のカレンダーでは7月23日前後の日のことです。
梅雨が終わり、学校も夏休みに入るなど本格的な夏のシーズンの到来です。
本日7月23日は「大暑(たいしょ)」
暑さが最も厳しくなるという意味。梅雨も明け、アブラゼミが鳴き、各地で最高気温を記録する。発達した積乱雲により、時々大雨が降ることもある。小暑と大暑の1ヵ月間が暑中で暑中見舞いはこの期間内に送る。 pic.twitter.com/Ppq9Xu1cKm
— でらっくす(macchan) (@macchan358) July 22, 2015
今回は、そんな「大暑(たいしょ)」に関する有名俳句を20句ご紹介します。
大暑に関する有名俳句【前半10句】
【NO.1】芥川龍之介
『 兎も 片耳垂るる 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:兎も暑さで片耳を垂れる大暑の日であることだ。
ピンと耳を立てているウサギも、暑さのあまり耳を垂らしてしまっています。「暑さ」を直接表現しないユーモアのある句です。
【NO.2】室生犀星
『 とんぼうの 腹の黄光り 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:トンボのお腹が黄色く光っている大暑の日の光だなぁ。
黄色のトンボといえば日本では本州以南に生息するキイトトンボがいます。作者が見たのはキイトトンボだったのか、光によって黄色く見えている他のトンボだったのか、いろいろ想像できる句です。
【NO.3】室生犀星
『 足袋(たび)白く 埃(ほこり)をさけつ 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:白い足袋でホコリを避けて歩く大暑であることだ。
現在の靴下が普及を始めるのは大正時代以降で、まだ足袋を履いている人も多い時代でした。暑い日差しに足袋の白さが映えて、汚れをつけないように歩く気分がわかる色彩の句です。
【NO.4】尾崎紅葉
『 二里の道 地さへ雲さへ 大暑か 』
季語:大暑(夏)
意味:二里の道を歩いているが、地さえも雲さえも大暑の暑さで遠く見えるなぁ。
二里は約8kmの距離をさします。大暑の暑さともなると道の先に逃げ水が見え、雲も白く輝いて見えるでしょう。歩いて2時間ほどの距離ですが、途方もない距離に見えての一句です。
【NO.5】尾崎紅葉
『 間違うて よい風の来る 大暑哉 』
季語:大暑(夏)
意味:季節を間違えたようによい風のくる大暑であることだ。
大暑は7月の下旬という夏本番の猛烈な暑さの時期ですが、この句では季節外れの涼しい風が吹いています。あるいは冷夏で寒い夏だったのかもしれません。
【NO.6】徳田秋声
『 町なかに 蛇の死ゐる 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:街の中に蛇が干からびて死んでいるほど暑い大暑だなぁ。
蛇は街中に出没することはめずらしい生き物です。そんな蛇でさえ暑さのあまりに街中にさまよい出て、そのまま死んでしまっていることから暑さの程が伺い知れます。
【NO.7】日野草城
『 水晶の 念珠つめたき 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:水晶の玉でできた数珠が冷たく感じる大暑であることだ。
【NO.8】長谷川素逝
『 目をつむり まぶたのそとに ある大暑 』
季語:大暑(夏)
意味:目をつむってまぶたの外にある大暑を感じる。
暑い夏の日差しをさえぎるように目をつぶって、視覚以外で大暑の日を感じています。風の音や香り、鳴いている鳥の種類など、夏を感じる要素は多くあるものです。
【NO.9】鈴木真砂女
『 大暑とても たぎらすものに 燗銅壺(かんどうこ) 』
季語:大暑(夏)
意味:大暑だとしても、熱し続けるものは熱燗を作る燗銅壺である。
どんなに暑くても、熱燗を作る器具だけは熱し続けるのだという、お酒を飲む人にとってはよくわかる一句ではないでしょうか。囲炉裏に掛ける形が多いため、かなり暑くなっていたと思われます。
【NO.10】中村草田男
『 山割りて 自ら没す 大暑の陽 』
季語:大暑(夏)
意味:山を割って自ら西に身を沈めるように見える大暑の日の太陽だ。
ちょうど山と山の合間に太陽が沈んでいく様子が目に浮かびます。暑さと日の輝きで山を割らんばかりに夕日がまぶしく照っているようです。
大暑に関する有名俳句【後半10句】
【NO.11】横光利一
『 氷抱く 婢の聲(こえ)透る 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:氷を売るために抱いている使用人の声が響き渡る大暑の日であることだ。
「婢」とは女性の使用人のことです。氷を売るために声をあげて売り歩く女性の声が格別に通って聞こえる暑さなのでしょう。
【NO.12】桂信子
『 大阪の 屋根の歪みも 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:大阪の家の屋根が歪んでいるのも大暑の暑さのせいなのだろうか。
作者は大阪出身のため、実際に体験したことを詠んでいると考えられます。あまりの暑さに屋根が歪んでしまうのではないかと心配する心情は、現在でも理解できるのではないでしょうか。
【NO.13】石原舟月
『 人中に いでて大暑の 薄羽織 』
季語:大暑(夏)
意味:人混みの中に出て大暑の日に薄い羽織をひるがえしている。
【NO.14】飯田龍太
『 動かざる 嶺(みね)あればこそ 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:動かない山の峰々があるからこその大暑の日だなぁ。
どっしりと構える山々を見ての一句です。どんなに暑くとも、山の中の涼しさはかけがえのないものでしょう。
【NO.15】高木晴子
『 庭のもの 背低くなりし 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:庭に生えているものが、みな背が低くなったようにしおれている大暑であることだ。
暑さのあまりに植物がしおれてしまっている様子を「背低くなりし」と詠んでいます。真夏は水やりの時間にも気を使うため、庭づくりは大変な作業です。
【NO.16】村上鬼城
『 念力の ゆるめば死ぬる 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:とんでもない暑さだ。少しでも念力がゆるんでしまえば暑さで死んでしまうだろう大暑の日である。
この句が作られた年は猛烈な暑さだったと言われています。少しでも気を緩めれば暑さに負けてしまうという嘆きを、ユーモアのある例えで表現した句です。
【NO.17】草間時彦
『 なかんづく 腎のあやしき 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:ことさらに腎臓の調子が悪くなりそうな大暑だなぁ。
「なかんづく」とはことさらにという意味です。夏の暑さで水分が足りないと腎臓を悪くすることがあり、猛烈な暑さの例えとしています。
【NO.18】石田波郷
『 じだらくに 勤めてゐたる 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:じだらくに仕事をしている暑い大暑の日であることよ。
暑さで体力や気力が落ち、へばってしまっている様子が見て取れる句です。現在では冷房で過ごしやすい室内での仕事になりますが、当時はさぞ暑かったことでしょう。
【NO.19】中村汀女
『 瓜もみの 加減も馴れて 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:瓜を揉む加減も慣れてきた大暑の日だなぁ。
夏で瓜から連想されるのはキュウリの漬物でしょうか。暑さに対するためにせっせと瓜の料理をしている様子が浮かんでくる句です。
【NO.20】大峯あきら
『 日を送り 月待つ島の 大暑かな 』
季語:大暑(夏)
意味:太陽を西に送り、月が東から昇ってくるのを待っている島の大暑の日だ。
島を中心に太陽と月の運行を俯瞰しているような句です。暑い昼が終わり、涼しくなる夜を待ち焦がれる様子が読み取れます。
以上、大暑に関する有名俳句でした!
今回は、大暑に関する有名な俳句を20句ご紹介しました。
夏ならではの風物詩を詠んだものから暑さを嘆いているものまで、大暑という1日だけでもいろいろな心情が見て取れるのが面白い季語です。
夏本番の大暑という日を題材に、ぜひ一句詠んでみてください。