五月に旬をむかえる「いちご」。
五月といったら、柔らかい日差しと清々しい風が薫る季節です。学生の皆さんにとっては、新しい教室や新しい顔ぶれに慣れてきた頃ですね。
食後のおやつ、給食のデザート、遠足でのお弁当、などなど。この季節には、いちごを口にすることも多いのではないでしょうか。
ルビーのような鮮やかな赤色。コロンとした可愛いらしい形。甘くて酸っぱくてジューシーな味わい。魅力的ないちごは、俳句の題材にピッタリの素材です。
「とりあえず 苺をもらい 黙らされ」 #俳句 #haiku pic.twitter.com/g5jAREy6lC
— RyoRca / 綾菓(りょうか) (@ryorca) April 24, 2013
積もる葉の隙間に一つ冬苺#kigo #jhaiku #17_ch #俳句 pic.twitter.com/cbmxiqygn9
— やんちゃ姫 (@_kogorou21) December 8, 2016
今回は、いちごをテーマにした俳句の中から、小学生の皆さんにも楽しんでいただけるような、一般の方が詠んだ親近感のある20句をご紹介します。
苺(いちご)をテーマにした俳句ネタ集【前半10句】
【NO.1】
『 苺をね 好きなあの子に あげたいな 』
季語:苺(夏の季語)
主役が誰なのかを決めず、読み手の想像に委ねているところが良いですね。苺をあげたいと思っている子が、女の子でも男の子でも上手に当てはまります。まず最初に浮かんだのは、教室の片隅で大好きな男の子に視線を向けながら、ほんのりと頬を染めている大人しい女の子。そしてさらに、女の子が片思いしている相手である男の子も、その子のことが好きで、お互いに「苺をあげたいな」と思い合っているのかもしれない…と、少女漫画ちっくなことを想像して、なんだかときめいてしまいました。一途な淡い恋ごころを、素直な気持ちでストレートに表現していて、とても純粋で可愛いらしい一句です。
【NO.2】
『 いちごだよ~ 皆でじゃんけん 負けちゃった~ 』
季語:いちご(夏の季語)
給食で余った「いちご」をゲットするべく、じゃんけんで競い合う子供たちを描いた、とても元気いっぱいのユニークな一句です。給食時間になると、欠席した子がいれば必ずといっていいほど見かけるであろう様子を、面白おかしく表現しています。カレーライスやハンバーグなどのおかずはもちろんのこと、いちごなどのデザートは特に大人気ですよね。大人になった今でも、じゃんけんやあみだくじなどで給食の余りを競い合ったことは、楽しい思い出の一つとして残っています。最後の「負けちゃった~」の一文が、とても良いですね。勝っても負けても、どちらも照れ臭いような笑顔をしていて、周りの子たちもニコニコしている様子が浮かびます。仲良しクラスのにぎやかな給食のワンシーンに、こちらも笑顔になります。
【NO.3】
『 愛娘 苺の浴衣 お気に入り 』
季語:苺(夏の季語)/浴衣(夏の季語)
季語が二つありますが、苺が主役だと読み取れると思いますので、季重なりの句として認められるでしょう。お祭りといえば、誰しも真っ先に浴衣が思い浮かぶのではないでしょうか。はしゃぐ娘の笑顔を慈しむ、優しい母親の気持ちが伝わってきて、とても心が和む一句です。
【NO.4】
『 朝霧も 苺の花に 垂れし露 』
季語:苺(夏の季語)/霧(秋の季語)
この句には季語が二つあります。いわゆる季重なりです。俳句の基本として、季語は一つというルールが前提として定められているのはご存知のことでしょう。とはいえ、選んだ季語が互いに邪魔をしないで活かし合っているのであれば、その趣向も良しとされる場合もあります。一つ前のNo.3の句が良い例です。しかしながら、こちらの句に関しては、苺は夏の季語で、霧は秋の季語なのです。このように、異なる季節の季語を入れた俳句は「季違い」と言われており、じつは俳句の中で最も行ってはいけないタブーと言われています。さらには、どちらの季語が主役として立っているのかが曖昧です。季語における主従が明らかにはっきりしていないと、季重なりとしては認めてもらえない可能性が高いでしょう。季重なりの句は難しいんだな・・・ということを知ることができて、ひとつ勉強になる一句だと思います。
【NO.5】
『 朝の霧 苺の花の 露となる 』
季語:苺(夏の季語)/霧(秋の季語)
一つ前のNo.4の句と同じ情景を詠んでいます。言い方を少し変えて、「朝霧」を「朝の霧」としてはいますが、だからといって秋の季語であることに違いはありません。夏の季語と秋の季語が混合していますので「季違い」となり、タブーな一句です。霧とは、暖かい水面上などに冷気がくると蒸発が起き、水蒸気の補給によって生じる現象のことです。苺が主役というより霞が主役のようにも感じられ、どちらに重点を置いているのか、はっきりしていません。主役がどっちつかずだと、「季重なり」と認められるかどうかは、かなり難しいでしょう。
【NO.6】
『 苺好き 食べ放題で 満たす腹 』
季語:苺(夏の季語)
苺は、甘酸っぱくて美味しいです。作者さんは、夏休みの日帰りツアーなどで、家族もしくは友達同士で「いちご狩り」にでも行ったのでしょうか。はたして作者さんは、いったいどれぐらい食べれたのでしょうか。
【NO.7】
『 何故かしら 苺のパンティー 好きな彼 』
季語:苺(夏の季語)
苺のパンティー?衝撃的な一文に、思わず目が釘付けになってしまいます。ちょっとエッチな印象も感じさせながら、なんとなく苦笑も誘う面白い一句です。
【NO.8】
『 見せるわけに いかないイチゴの アップリケ 』
季語:イチゴ(夏の季語)
イチゴのアップリケがどこにあるのかが気になります。この句も、なにげにエッチな印象が漂っていて、くすっと笑ってしまう一句です。
【NO.9】
『 このいちご 一期一会だ eat it Go! 』
季語:いちご(夏の季語)
とても斬新な一句です。「いちご」と「一期(いちご)」と「eat it Go(無理やりな感は否めませんが・・・いちご)」が3連のダジャレになっていて、なんともユニークです。
【NO.10】
『 ミツバチと 抜きつ抜かれつ いちご摘み 』
季語:いちご(夏の季語)/ミツバチ(春の季語)
この句は「季違い」となり、俳句ではタブーな一句として評されてしまう可能性があります。しかしながら、受粉をして飛び交うミツバチと、いちご摘みに夢中になっている自分との、抜きつ抜かれつ競争をしている様子が、鮮やかさを伴って浮かんでくる、とても良い一句です。
苺(いちご)をテーマにした俳句ネタ集【後半10句】
【NO.11】
『 さあ、かごに はいっておくれ いちごたち 』
季語:いちご(夏の季語)
擬人法を用いることで、いちごが生き生きとした印象になっています。まるで、メルヘンやミュージカルなどに登場するワンシーンのような、かわいらしい一句です。元気いっぱいに育ったいちごたちが、いまにも踊り出しそうにしているような情景が浮かんできます。
【NO.12】
『 いちご狩り 嬉しい美味しい ビタミンC 』
季語:いちご(夏の季語)
嬉「しい」、美味「しい」、ビタミン「C」と、3回連続しているリズミカルな「シー」の音感が心地よいですね。それに、ビタミンCの文字を目にしただけで、なんだか気分がさっぱりして爽やかな気持ちになります。
【NO.13】
『 狩りに行く 獲物はなんと 苺かな 』
季語:いちご(夏の季語)
なぜイチゴを「採る」のではなく「狩る」のか、不思議に思った人も多いことでしょう。「狩り」とは「獣を捕まえる」というのが、元々の意味です。そこを起点にして、野鳥や小動物を捕まえる意味が含まれるようになりました。さらに果物などを採る意味にも使われるようになり、ついには草花を眺めたりする意味にも使われるようになった、と言われています。しかし「狩り」というからには、小さい獲物だとしてもウサギなどの小動物といったイメージのほうが強いですよね。今日の獲物は、狩りとは名ばかりの果物が相手なのか・・・という、憤りにも似た驚きといった感情が伝わってくるような気がします。最後の「苺なのか」という一言に、「なんとも物足りないなぁ」という気持ちが言外に含まれているようで、作者さんの感じている違和感のようなものがひしひしと伝わってきます。
【NO.14】
『 いちご園 我狩人と なりにけり 』
季語:いちご(夏の季語)
こちらの句も、No.13の句と同じように、「狩り」という言葉が持つ違和感をテーマに掲げ、上手に言葉遊びをしているように思われます。本来の「狩り」であれば、山を越え谷を越え獲物を追いかけ、広大な狩場をめいっぱい走り回り、かすかな音や臭いなどに集中して緊張感が伴っているのではないでしょうか。「狩り」が持つ独特な雰囲気とは真逆とも言える「いちご狩り」は、なんともほのぼのとしています。しかし、和気藹々としたなか、にぎやかな笑い声のあふれるいちご園で、作者さんだけは他の人とは趣向が違っているようです。目を凝らし耳を研ぎ澄まして「狩人」になり、より良いいちごを見つけ出すべく奮闘し、いちごという名の獲物を狩っているのでしょう。どことなくハードボイルドな雰囲気が漂ってくるような、かっこいい一句です。
【NO.15】
『 罠もなく 銃も持たずに 狩る苺 』
季語:苺(夏の季語)
こちらの句にも、No.13やNo.14の句と同様の意味合いが根っこにあります。獲物を誘い出すために、だましつつ追い落とすための「罠」を仕掛けるわけでもなく、獲物を仕留めるためには欠かせない「銃」すら持たずにいるなんて、どこの狩場に行こうともあろうはずがありません。それほどまでにのんびりとしたイメージが広がる、和やかな「いちご狩り」の様子を描写した一句だと思います。
【NO.16】
『 とちおとめ 常にもぐもぐ 岩村ちゃん 』
季語:とちおとめ(夏の季語)(※苺の品種名の一つ)
いや、ちょっと待って、岩村ちゃんって誰?・・・思わず、「岩村ちゃん」という言葉が妙に気になって、目が留まってしまいました。「岩村ちゃん」という響きのみで作り上げた空想の人が、「とちおとめ」を「もぐもぐ」させている表情が生き生きとしていて、思わず吹き出してしまいました。賛否両論あるかもしれませんが、突拍子もないからこそユニークでコミカルな一句になっていると思います。
【NO.17】
『 たくさんの 美味しいいちごを 食べました 』
季語:いちご(夏の季語)
じつに素朴で、とても素直な一句ですね。あれやこれやと飾り付けることなく、描写をストレートかつ忠実に伝えることで、美味しいいちごの甘酸っぱい味を表現してくれています。すらすらと読み終えるところに魅力を感じますし、けっして拙いわけではありません。言いたいことを曲解なく伝えるのは、とても難しいものです。こちらの句は、読み手を真っすぐに誘導しつつ、ダイナミックに視覚へと、ダイレクトに味覚へと、それぞれのイメージを伝えてきています。一見それと感じさせないのに、思惑どおりの手法が効いている、見事な一句だなと思いました。
【NO.18】
『 川下る しぶきと苺に 旅思ふ 』
季語:苺(夏の季語)
暑い夏には、川下りが涼しそうで良いです。こちらの俳句で気になるところは、苺が主役に感じられないところです。川下りのイメージのほうが強く伝わってきて、苺が所在なさげにしているような感じがするので、そこが少し残念な気がします。最後の「旅思ふ」5音を使って、苺の描写を追加してみると、イメージが一変するかもしれません。川下りを脇役として表現すれば、苺が主役の良い一句になると思います。
【NO.19】
『 いちご狩り おわりなければ いいのにな 』
季語;いちご(夏の季語)
いちご狩りって楽しいですよね。いちごは美味しいし、農園はのどかだし、みんな笑顔になってるし、そうやって幸せな気分で過ごしていると、終わってしまうのが名残惜しくなってしまいます。けれど、楽しい時間は無限ではないのです。必ずいつか、終わりを告げるアラームが鳴ります。もちろんそうなるのはわかっているけれど、それでも終わって欲しくないと思ってしまうのは、おそらく誰しも同じでしょう。楽しければ楽しいほど、感傷的な気持ちを抱いてしまうものだったりするのです。叶わないと知りながらも、「時間よ止まれ」と願ってしまう、作者さんの切ない気持ちが素直に伝わってくる一句です。
【NO.20】
『 いちご狩り わたしみたいに かわいいな 』
季語:いちご(夏の季語)
いちご狩りで出会ったいちごを見て、ころんとした形状が可愛く感じられるのは不思議ではありません。そのいちごと自分を見比べている実に面白い視点から詠んだ句です。
以上、一般の方が季語「いちご」をテーマにして詠んだ、面白くて楽しいオリジナル俳句20選でした!
さいごに
いちごの表記に迷うかもしれませんが、細かい制約はありませんので、「いちご」「イチゴ」「苺」のいずれを使用してもOKです。
俳句にしたい描写や情緒などに合わせて上手に使い分け、自分の気持ちにピッタリくると感じる表記を選んで、俳句を楽しんでくださいね。
さいごに、蛇足ですが、いちごには一季成りの品種と四季成りの品種があります。
- 一季成り:苗を秋に植えると、五月から六月にかけて収穫できます
- 四季成り:苗を秋に植えると五月〜十月まで継続して収穫でき、春に植えると七月〜十月まで継続して収穫できます
初夏だけでなく、秋になってもスーパーなどで販売されていることがありますので、いちごを見かけたら、ぜひ俳句の題材にしてみてください。