「別れ」という言葉は、離れる・訣別する・離れて去る・離れ離れになる・死別する等の意味があり、言葉の意味だけをみると、とても悲しく辛い気持ちになります。
皆さんは、「別れ」と聞いてどのようなことを思い浮かべますか?
今回は、別れを告げる俳句を20句紹介していきます。
船灯篭淀みで別れを惜しみけり #俳句 #お盆 pic.twitter.com/3m1A9xMSkX
— iTo (@itoudoor) August 15, 2014
別れを告げる有名俳句【10選】
【NO.1】中村草田男
『 六月の 氷菓一盞(いっさん)の 別れかな 』
季語:氷菓(夏)
意味:6月に氷菓(ひょうか:アイスクリーム)一つの別れである。
お別れの時、本来であればゆっくりお酒でも飲んでお別れしたいところですが、急なことでお別れすることになってしまったのでしょう。近くの喫茶店にて氷菓(アイスクリーム)を食べながらお別れの時を惜しんでいる様子を詠んでいます。「一盞(いっさん)」の「盞」はさかずきのことをいい、アイスクリームの入っている小さめのお皿のことを指しています。
【NO.2】橋本多佳子
『 木の実落つ 別れの言葉 短くも 』
季語:木の実落つ(秋)
意味:木の実が落ちる、別れの言葉が短い。
愛する人が旅立つ時、とても悲しい別れの時、そのような時に交わす言葉はとても短くて少ないものなのかもしれません。木の実が落ちるのは一瞬のことで、その一瞬と同じように短い別れの言葉を告げられた作者。言葉では言い尽くせない思いを抱きながら、大切な人からの別れの言葉を心の中にしっかりと留めています。とても切なく悲しい気持ちになります。
【NO.3】星野椿
『 畦道(あぜみち)に 豆の花咲く 別れかな 』
季語:豆の花(春)
意味:畦道に豆の花が咲いている、別れである。
「豆の花」とは、えんどう豆・そらまめ・大豆等の花の総称で、白やピンク等の蝶に似た形をした可憐な花のことをいいます。豆の花のイメージから、青春期の一コマとして卒業や旅立ちの時を詠んだ一句と捉えることができます。また会える・会いたいという希望も感じる別れであり、その願いも込めて別れの言葉を告げているのでしょう。
【NO.4】穴井太
『 九月の教室 蝉がじーんと 別れにくる 』
季語:蝉(夏)
意味:9月の教室に蝉がじーんと別れにくる。
蝉といえば夏の象徴ともいえるものであり、夏の季語になっています。「9月の」という言葉から2学期が始まった教室の光景なのでしょう。夏休み中は蝉と一緒に過ごしたといっても過言ではないほど蝉とのつながりが多かったのではないでしょうか。「9月の」教室にやってきた蝉は、夏休み中一緒に遊んだ子どもたちに「さようなら」を告げにきたのかもしれません。じーんとという蝉の声がとても寂しく感じます。
【NO.5】星野立子
『 たはむれに ハンカチ振って 別れけり 』
季語:ハンカチ(夏)
意味:遊んだ後ハンカチを振って別れた。
「たはむれ」とは遊ぶこと・ふざけること・冗談・本気ではなく遊び半分なこと等の意味があります。男女の恋等にも使われる言葉です。この句は、女性同士での別れのシーンなのか、それとも男女の別れのシーンなのか、気になるところです。「ハンカチを振って」別れる、別れの言葉を伝える場面はなかなかないように感じます。思わずハンカチを振ってしまうほどの強い想い、悲しさが感じられます。
【NO.6】夏目漱石
『 別るるや 夢一筋の 天の川 』
季語:天の川(秋)
意味:別れるとき夢の中に一筋の天の川を見た。
療養中の中で作った句のため、夏目漱石自身も「あまり意味がよく分からない」と作ったことも覚えていないといわれている不思議な句です。療養しているところに何度もお見舞いに来てくれた友人と別れる際に詠んだ句と言われています。漱石は病気の状態が良くなく、とても弱気になっていたのかもしれません。お見舞いにきてくれた友人が帰ってしまうことがとても悲しい、そしてまた来てくれることが待ち遠しいという想いを、天の川の彦星・織姫に重ね合わせたのではないでしょうか。
【NO.7】宇咲冬男
『 散る花を みな散らしめて 君逝きぬ 』
季語:散る花(春)
意味:散る花を全て散らして君は逝ってしまった。
今まさに亡くなってしまった「君」。まだ死を受け入れるような心境にないことが伝わります。「散る花」という言葉から一定の時間を感じます。花が咲き、満開になり、全て散る。ここまでの時間は短いものではありません。綺麗に咲き誇った花が全て散った、その瞬間「君」は逝ってしまった。作者の深い悲しみが込められているように感じます。
【NO.8】川口美江子
『 うしろより 外套被せる わかれなり 』
季語:外套(冬)
意味:後ろから外套(コート)をきせる、別れである。
「外套(がいとう)」とは、寒さや雨等を防ぐために羽織るマントやケープのことで、今でいうコートやジャケットのことを指します。コートを被せ(きせ)ているのはきっと異性でしょう。もう二度と会うことのない別れの時。ただ、さようならの言葉を告げて去っていくのではなく、最後にそっとコートを後ろからきせて去っていく。憎しみあって別れるわけではない、そのような想いを感じる一句です。映画のワンシーンのような光景が目に浮かびます。
【NO.9】大高翔
『 春の窓 ふいて故郷に 別れを告ぐ 』
季語:春(春)
意味:春の窓を拭いて故郷に別れを告げる。
春は別れの季節。「春の窓」という言葉がとても素敵ですね。作者は慣れ親しんだ故郷を離れて、新しい一歩を踏み出し新しい土地に向かいます。皆に別れを告げ、手を振る作者。手を振る動作・手を左右に動かす動作を「窓をふく」という言葉に置き換え表現しているのではないでしょうか。
【NO.10】吉野義子
『 そらまめ剥き 終らば母に 別れ告げむ 』
季語:そらまめ(夏)
意味:そらまめが剥き終わったら母に別れを告げるだろう。
久しぶりに実家に帰った作者。母との時間が楽しくて嬉しくて幸せで、母と別れるのがとても辛くて悲しい気持ちであることが伝わってきます。しかし、別れの言葉を伝えなくてはいけない。そらまめが剥き終わったら、そろそろ時間もあり、出発しなければいけないのでしょう。母と子、それぞれの切ない想いが伝わります。
別れを告げる一般俳句ネタ集【10選】
【NO.1】
『 さよならを 突然告げた せみしぐれ 』
季語:せみしぐれ(夏)
夏の厳しい暑さの中。蝉が騒がしく元気に鳴いている頃突然訪れた別れの時。「さよなら」を告げた相手は誰なのでしょうか。突然告げなければならない事情があったのでしょう。心の中での葛藤を感じる一句です。
【NO.2】
『 失恋の 指に線香 花火かな 』
季語:線香花火(夏)
大好きな人との別れ。もしかしたら片思いだったのかもしれませんね。作者は相手に自分の想いを届けることができたのでしょうか。もし何も伝えられないままでの失恋だとしたらとても切ないですね。線香花火の小さな輝きをじっと見つめながら涙している姿が目に浮かびます。
【NO.3】
『 小春空 赴任の街に 別れ告げ 』
季語:小春空(冬)
「小春空」とは小春(初冬の穏やかで暖かい春に似たような日和)の頃の空、清々しく穏やかに晴れた空のことをいいます。春は異動の時期であり、別れの時でもあります。作者はある地に赴任していてそこから異動することになった。とてもお世話になった思い入れのある地に感謝の思いを込めて別れを告げる、ドラマのワンシーンのような素敵な光景ですね。
【NO.4】
『 告白に 代え さよならと 卒業の日 』
季語:卒業(春)
卒業の日、作者は自分の想いを伝えたい人がいたのでしょう。しかし伝えることができなかった。もしかしたら今の関係性が壊れないように伝えることをあえてやめたのかもしれません。告白ではなく「さよなら」だけを告げる。心の奥がぎゅっと痛くなるような切ない気持ちになる一句です。ます。七夕の短冊にはたくさんの人の希望がたくさんつまっていますね。
【NO.5】
『 君去った あの夏のオレ 殴りたい 』
季語:夏(夏)
「君」は作者にとってとても大切な人だったのでしょう。しかし去っていってしまった。作者が別れを告げたのか告げられたのか。いずれにしても作者にとって、自分を「殴りたい」と思うほど後悔していることが伝わります。あの夏にもう一度戻りたい、そのような作者の切実な想いが伝わります。
【NO.6】
『 クラス替え 友と別れの 百千鳥 』
季語:百千鳥(春)
「百千鳥」とは数多くの鳥、いろいろな鳥のことをいいます。そして、春にいろいろな鳥が一つの場所に集まりさえずっている様子を指します。春、新学期を迎え新しいクラスになった作者。仲の良いお友達との別れがあったのでしょう。学生にとって仲の良いお友達と離れてしまうこと、別々のクラスになることはとても辛いことですね。
【NO.7】
『 サヨナラの 君が見えない 花の雨 』
季語:花の雨(春)
「花の雨」とは、咲き誇る桜の花に降りそそぐ雨、また桜の咲くころの雨のことをいいます。作者は大切な人との別れの時があったのでしょう。「花の雨」と自身の悲しみの「涙」を重ねて表現しています。涙で「君が見えない」という表現や言葉の使い方がとても美しいです。
【NO.8】
『 暖かき 日に 旅立つ師の お別れ式 』
季語:暖か(春)
暖かい春の日。穏やかな空気の中で行われたお別れ式。作者にとってとても大切で人であり心から慕う人とのお別れの時、きちんと「さようなら」とお別れの言葉を伝えることができたのではないでしょうか。とてもあたたかく優しい空気を感じる一句です。
【NO.9】
『 さよならの 電話に響く 法師蝉 』
季語:法師蝉(秋)
「法師蝉」とは、ツクツクボウシの別名で、ツクツクホーシと鳴きます。その鳴き声と共に秋が一段と深まって行く様子を指します。「さよなら」と別れを告げられた作者。電話越しに聞こえる法師蝉の鳴き声がより一層切ない雰囲気を醸し出しています。相手の声はなく、法師蝉の声だけが響いている。切なくてとても悲しい時間を上手に表現しています。
【NO.10】
『 妹と 言はれて泣いた 日の香水 』
季語:香水(夏)
作者はずっと大好きだった人へ自分の想いを伝えたのでしょう。しかし、その答えは「妹にしか見えない」という辛い言葉であり別れを告げられる。深い悲しみの底に落ちていくような姿が目に浮かびます。泣いて泣いてひたすら泣いて、ふと思い出した相手の香水の香り。この香りはきっとしばらく忘れることはできないでしょう。
以上、別れを告げる俳句集でした!
今回は、別れを告げる俳句20句紹介してきました。
「別れ」はとても悲しくて苦しくて辛いことだと思います。心の奥に強い痛みを感じ、自分自身が消えてしまいそうになるくらいに感じる方もいることでしょう。
長い人生の中で、人は必ず「別れ」の瞬間に向き合います。
しかし、「別れ」の先には「出会い」があります。必ず、ということではないかもしれないですが、別れの先にはきっと何か、わずかでも明るい光が見える瞬間があるのではないでしょうか。
皆さんの心の中にある「別れ」の思い出。その時に感じた想いを俳句にしてみてはいかがでしょうか。