烏(カラス)は日本のどこでも見かける鳥で、四季を問わず目にします。
俳句の世界でも烏はよく詠まれていますが、「烏」は季節を表す季語になるのでしょうか?
烏って秋の季語だっけアルェ
— 🥑🐦あるめ🥑 (@b_s3j) December 16, 2016
この記事では、「烏」に関する季語について四季ごとに解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
烏(からす)は秋の季語ではない!
カラスは一年中見られる鳥のため、「烏」だけでは季語になりません。
季節を表す単語や、雛や巣などの状態を表す単語をつけて季語とします。
例えば、秋に飛んでいる烏を題材にしたい場合は「秋の烏」となります。また、俳句の世界では「鴉(カラス)」という漢字もよく使われるため、覚えておきましょう。
鴉の子、spiritualだなぁ(夏の季語) pic.twitter.com/jzwqhWOAvi
— Soeji (@yuta_soe) June 7, 2016
以下に、季節ごとの烏に関する季語を挙げていきますので、参考にしてみてください。
【春の季語】鴉の巣・河烏
【夏の季語】親鴉・烏の子・子鴉・星鴉・川鴉・烏団扇
【秋の季語】秋の烏・鴉の子別れ・別烏・月夜烏
【冬の季語】寒鴉・烏呼・初鴉
次に、これらの季語の中から特に知っておきたい季語をピックアップしてご紹介します。
烏(からす)に関する季語【春編】
鴉の巣
烏は3月から7月と長い間繁殖期になりますが、最も活発なのが春の時期です。高い木の上に木の枝などでお椀のような形に巣を作ります。巣作りを始めた烏は気性が荒くなるため、お花見の時期に襲われたというニュースを見たことがある人もいるでしょう。「鳥の巣」も春の季語のため、見間違えないように注意が必要です。
河烏
「河烏」はカワガラス科の一種で、茶色から濃褐色をしています。烏も属するスズメ目の中では唯一水中から餌を取る鳥で、早春から渓谷でよく見られるため、春の季語になりました。「河烏」とついていますが街中でよく見る烏ではないことに加え、後述する夏の季語である「川烏」とも全く違う鳥のため、混同しないようにしましょう。
烏(からす)に関する季語【夏編】
親鴉
烏の繁殖期は春から始まりますが、卵から孵るのは夏頃が一番多いのが特徴です。巣は春の季語ですが、後述の「烏の子」も含めて親子の烏を詠む場合は夏の季語になることに注意が必要です。
烏の子
「親鴉」と同じく「烏の子」も夏の季語です。「子鴉」とも詠まれるため、烏の雛を詠む場合は必ず夏の季語となります。「烏の巣」は春の季語のため注意しましょう。また、烏は巣立ちからしばらく群れで行動することがあります。「巣立ち」という夏の季語は烏には当てはまらないこともあるので、烏を詠む場合は生態を把握しておくと便利です。
星鴉
「星鴉」は主に高山に棲息するホシガラス属の鳥です。「星」という名前のとおり、黒い羽根に白い斑点があるのが特徴で、一年中観測できます。四国以北の高山に住みますが、まれに餌不足などで餌を求めて一斉に移動することがあります。
川烏
「川烏」は春の季語の「河烏」と漢字がほぼ同じですが、クイナ科の「鷭(ばん)」という鳥を表しています。北海道から本州にかけて夏に飛来する夏鳥で、湖や水田などの水辺に棲息することから「川烏」と付けられました。烏や河烏と違って額が紅色のため見た目で混同することはありませんが、俳句の季語として詠む場合は漢字に注意しましょう。
烏団扇
「烏団扇」は東京都の大國魂神社で7月20日に行われる「すもも祭り」で配布される団扇です。団扇には烏の絵が書かれていますが、この団扇で扇ぐと害虫や病気を駆除できるという伝承があります。現在でもすもも祭りの日に、黒い烏の絵が書かれた団扇と扇子を配布しています。
烏(からす)に関する季語【秋編】
秋の烏
「鴉の子別れ」「別れ烏」なども同じ意味の季語で、烏に関する秋の季語はほとんどが親子烏の別れについてになっています。一般的な鳥は巣立ちが親子の別れとされますが、烏は巣立ちのあとも群れで行動するため、親との別れが遅くなると考えられていました。秋に単独で飛んでいる烏に対して、「親や子と別れた烏」と見なして季語にしています。
月夜烏
烏は昼行性のため、夜に活動することはあまりありません。「月夜烏」は月夜に鳴くためめずらしいものとして季語になっています。文字通りの烏の意味の他に、「夜中にふらふらと遊び歩いている人」を意味することもありますので、どちらの意味で使われているか注意して読みましょう。
烏(からす)に関する季語【冬編】
寒鴉
「寒鴉」とは、餌の少ない冬に餌を求めて人里に姿を表す烏のことです。最近は都市化により一年中烏の餌がありますが、かつては山も田畑も雪におおわれて餌が無くなってしまうことが常でした。俳句では侘しさや厳しい冬の象徴として詠まれています。
烏呼(からすよび)
「烏呼」とは、東北地方から北関東地方にかけて新年に行われる神事で、「烏勧請」とも呼ばれます。稲や餅を供えて烏が来るまで待ち、その食べ方で吉凶を占います。新年になって初めて山に入る際に行われるため、俳句では「初山」という季語が使われることが多いです。
初鴉
元旦の早朝に鳴くカラスを「初鴉」または「初烏」と呼びます。新年の季語ですが、初鴉と呼ぶ場合は元旦の早朝のみを表しますので注意が必要です。一年中見られる鳥だからこそ、新年の初めに聞く鳴き声が特別なものに聞こえるのでしょう。
烏に関する有名俳句【3選】
【NO.1】松尾芭蕉
『 枯枝に 鴉のとまりけり 秋の暮 』
季語:秋の暮(秋)
意味:枯れ枝に烏がとまっている秋の夕暮れの光景だ。
枯れ枝にカラス、夕暮れとまるで水墨画の世界を詠んだような一句です。夕暮れに響きわたるカラスの鳴き声が侘しさをかき立てます。
【NO.2】中村草田男
『 初鴉 大虚鳥(おほをそどり)こそ 光あれ 』
季語:初鴉(冬/新年)
意味:元旦の早朝にカラスの鳴き声が響いている。「大虚鳥」と蔑まれているカラスにこそ初日の出の光が相応しい。
「大虚鳥」とはカラスの蔑称の1つです。「初鴉」というめでたい新年の季語と蔑称を並べることによって、めでたい鳥であると主張しています。
【NO.3】高野素十
『 たべ飽きて とんとん歩く 鴉の子 』
季語:鴉の子(夏)
意味:餌を食べ飽きて、とんとんと歩いているカラスの子がいる。
「とんとん」という擬音がカラスの子供の様子をはっきりと想像させます。カラスは繁殖期には警戒心が強くなるため、現在では雛を見かけることはほとんどなくなりましたが、「七つの子」などの童謡でよく歌われていた題材です。
さいごに
今回は、烏に関する季語について、四季ごとに解説してきました。
烏は一年中見られる留鳥のため、単独では季語にはなりません。また、独特の生態のため他の鳥類の季語とは少し意味合いが変わってくるものもあります。
現代ではゴミを漁る厄介もののイメージがありますが、神事に関わっている鳥でもあるので、いろいろな季語を使ってみましょう。