文月は旧暦7月、現在の暦では7月下旬から9月下旬頃を指します。
暦の上では秋の始まりとされますが、実際は暑い夏真っ盛りの季節になります。
今日から7月、文月。
文月の由来は、7月7日の七夕に詩歌を献じたり、書物を夜風に曝す風習があるからというのが定説。稲の穂が含む月であることから「含み月」「穂含み月」の意であるとする説も。
7月は私の誕生月でもある。
としをとるのだわ。 pic.twitter.com/xjNp1NBDn9— 咲良 (@sakuranotabi) June 30, 2015
今回は、「文月(ふづき/ふみづき)」を季語に含む有名な俳句を20句ご紹介していきます。
文月の季語を使った有名俳句【前半10句】
【NO.1】松尾芭蕉
『 文月や 六日も常の 夜には似ず 』
季語:文月(秋)
意味:文月だなぁ。七夕の前日の六日は普段の夜と違う心持ちだ。
七月七日は七夕の日です。七夕のお祭りをするためにいろいろと準備されている最中の前日の夜は、いつもと違ってどこかそわそわしてしまう様子が表現されています。
【NO.2】宝井其角
『 文月や ひとりはほしき 娘の子 』
季語:文月(秋)
意味:文月だなぁ。七夕の行事を見ていると、娘の子である孫が1人は欲しいものだ。
作者には2人の娘がいました。七夕は織姫が衣を紡ぐ役割を果たすことから、女子の行事を行う風習のあるところも多く、早くも孫のことを思ったのでしょうか。
【NO.3】加賀千代女
『 文月や 空にまたるる ひかりあり 』
季語:文月(秋)
意味:文月の空だなぁ。まだ夕方で日が沈んでいないのに、日が沈むのを待ちかねた月が光っている。
文月は1年の中でも夜の短い真夏にあたります。そのため、日の入りも18時と遅く、月の出と同時になる日もあるため、どちらもながめることができたのでしょう。
【NO.4】加賀千代女
『 文月の 返しに落る 一葉かな 』
季語:文月(秋)
意味:文月からきた風の便りの返事に、はらりと落ちる木の葉であることだ。
「文月」の由来は、七夕の際に書物を夜風に晒す習慣から取られています。季節の文月と手紙を表す文を掛けた句です。
【NO.5】馬場存義
『 文月の 不知夜(いざよい)もよし 大文字 』
季語:大文字(秋)
意味:文月の十六日の夜もよいものだ。五山の送り火がある。
「不知夜」とは十六夜をあらわし、大文字とは京都で行われる五山送り火のことを表します。旧暦では7月16日に行われた行事のため、送り火を見ながら詠んだ句です。
【NO.6】下郷亀世
『 夕風の 文月七日 何の香ぞ 』
季語:文月(秋)
意味:7月7日の夕風に嗅いだ香りは何の香りなのだろう。
七夕の夕方に起きたできごとを詠んでいます。七夕節のために特別なお香を焚いていたのか、風がよい香りを運んできたのか、いろいろと想像できる幻想的な句です。
【NO.7】正岡子規
『 文月や 神祇釈教 恋無常 』
季語:文月(秋)
意味:文月だなぁ。世の中の有様はさまざまであることだ。
【NO.8】正岡子規
『 文月や 硯にうつす 星の影 』
季語:文月(秋)
意味:文月だなぁ。硯の中に星の光が映り込んでいる。
夏の星の光が、夜空のような硯と墨汁の中に映っているという幻想的な句です。実際は灯りを付けなければ硯を使えない状況ですが、星の光を映しこんだ硯はさぞ美しいことでしょう。
【NO.9】長谷川かな女
『 ささ降りや 文月の花 落ち流し 』
季語:文月(秋)
意味:ほんの少し降ってきた雨よ。文月に咲いた花を落として流してしまっている。
「ささ降り」の「ささ」はほんの少しという意味です。雨によって落とされてしまった夏の花を見て残念がっている一句です。
【NO.10】村越化石
『 文月の 見えねど夜空 仰ぎけり 』
季語:文月(秋)
意味:文月の見えない夜の星空を仰いでいる。
新暦の七月七日はまだ梅雨の最中のため、七夕の日に雨が降っていることが多いです。再会するという織姫と彦星が見えないながらも空を仰いで思いを馳せています。
文月の季語を使った有名俳句【後半10句】
【NO.11】野村喜舟
『 文月や 唯々白湯の かむばしく 』
季語:文月(秋)
意味:文月がきたなぁ。ただただ白湯が芳ばしく感じる。
「白湯」とは沸かしただけのお湯のことです。無味無臭のはずですが、暑い季節だからこそ白湯が格別おいしく感じるのかもしれません。
【NO.12】中村草田男
『 煌々と 三十路も末の 文月照 』
季語:文月(秋)
意味:30代も最後の日に煌々と照っている文月の明かりよ。
煌々と照っているのが何なのかという描写がないため、いろいろと想像ができる句です。30代最後の日の日没を眺めているのか、月を眺めているのか、解釈がわかれます。
【NO.13】柴田白葉女
『 遠きほど 美しくしづかな 文月の樹 』
季語:文月(秋)
意味:遠いものほど美しく静かな文月の樹よ。
【NO.14】富安風生
『 文月の 梶の実あかき 御山かな 』
季語:文月(秋)
意味:文月になって梶の実が赤く実った御山であることだ。
「梶の実」は9月頃に赤く熟し、生で食べられる木の実です。甘くておいしいため食べたことがある人もいるのではないでしょうか。
【NO.15】長谷川双
『 文月の ひと日ひと日が 寿(ことぶき) 』
季語:文月(秋)
意味:文月の一日一日がおめでたいことだ。
その日一日を大切に過ごせることを喜ぶ句です。季節が巡るごとに「またこの季節を迎えられた」と実感しますが、作者にとっては文月がもっとも実感する月だったのでしょう。
【NO.16】飯田蛇笏
『 文月や 田伏の暑き 仮り厠 』
季語:文月(秋)
意味:文月だなぁ。田畑にこしらえた小屋の仮のトイレは本当に暑い。
「田伏」とは、田畑に作られた仮小屋のことです。屋外に作られる仮設トイレのようなものなので、文月ではとても暑いという感情が込められています。
【NO.17】山口青邨
『 ななかまど 一枝は赤く 文月に 』
季語:文月(秋)
意味:ナナカマドの枝の1つが赤い実を付けている、まだ文月であるのに。
ナナカマドの実が赤く実るのは10月頃です。この句では文月という少し早い時期に、1本の枝だけが枝赤い実を付けているのに驚いています。
【NO.18】佐藤鬼房
『 文月の わが前をゆく 捨聖(すてひじり) 』
季語:文月(秋)
意味:文月の道を歩いている私の前を行く捨聖よ。
「捨聖」とは仏教で世俗の一切を捨てた聖者のことで、特に鎌倉時代の一遍上人を表します。踊念仏を勧めた時宗の開祖で、庶民に慕われていました。
【NO.19】石川桂郎
『 文月や 豆腐欠かさぬ 夜のつづき 』
季語:文月(秋)
意味:文月だなぁ。豆腐を欠かさないようにしている夜の続きだ。
暑い日には冷たく食べやすい豆腐が欲しくなるのでしょう。「夜のつづき」は朝方とも取れるので、朝一番に豆腐売りから豆腐を買っている光景を詠んでいるのかもしれません。
【NO.20】根岸善雄
『 文月や 眠剤容るる 旅鞄 』
季語:文月(秋)
意味:文月だなぁ。睡眠薬が入っている旅の鞄を持って旅に出よう。
旅先では興奮して寝付けないという人もいるのではないでしょうか。寝付きを良くするための薬を忍ばせて旅行の支度をする様子が浮かんできます。
以上、文月に関する有名俳句でした!
今回は、文月に関する有名俳句を20句ご紹介しました。
七夕の季節であることから星を詠んだもの、暑い夏の中でも秋の風情を見つけて詠んだものなど、季節感がよく表れているのが特徴です。
旧暦と新暦でかなり印象が変わる季語ですが、季節感の違いを楽しみながら俳句を詠んでみてください。